第26話 ヒューマン似との戦闘

 鹿島等陸戦隊も子供らに交じって、トラックの荷台から商品の荷下ろしを始めた。


 城壁外での売り場が混雑しだした頃、エミューに乗った金ぴか鎧の男が、甲冑姿の兵士を百名ほど従えて現れた。


金ぴか鎧の男はパトラの方へ来ると、

「エルフ無勢が、誰の許しで勝手に商売をしている。」

と意気込み、行列の先頭にいた女の子を押し倒した。


 パトラとテテサは子供が泣き叫ぶ声を聞いて、直ぐに売り場から飛び出すと、パトラは子供の前にいる金ぴか男を突き飛ばした。


 テテサは泣いて転んでいる子供を抱き上げると、

「怪我してない、痛いとこはない?」

とパトラとテテサは、パトラに押されて転がされた男を無視して、泣いている女の子を心配している。


 男は恰幅な身体に金ぴか鎧に品のない顔付きながら、見栄えの良い服を羽織った姿であるが、パトラに押し倒された事で、怒った状態の男は抜刀してパトラに切りかかろうとした。


 鹿島は、子供が泣き叫ぶ声を聞いて振り向くと、恰幅な身体に金ぴか鎧の男がパトラに切りかかろうと、鞘に手をかけているのに気づいて、物凄い速さで二人の間に割ってはいると、パトラの前に身をさらして抜刀した男を阻んだ。


鹿島は男の剣を払いのけただけだが、男の剣は切り折れて、折れた剣先は男の足元に刺さっている。


鹿島は怒りそのままで、男の鎧背辺りをつかみ、兵士たちの所へすごい怪力で、思いっ切り投げ飛ばすと、十メートルは飛んだであろう、男は整列していた兵の中に落ちて行った。


 兵士二列二十人の兵が剣を抜いて鹿島に向かって行くが、鹿島を護衛しているかのように陸戦隊のレーザー銃は、鹿島の背後から鹿島の影に隠れた正面五人除く、他の兵士たちの兜頭を蒸発させた。


 マーガレットは、この惑星に上陸する目的は、銀河連合帰還のためであり、ヒューマン似との摩擦が起きたときに、攻撃を躊躇しそうな発言をした陸戦隊たちであったが、ヒューマン似に対しての攻撃命令は発せられてないのに、自発的に躊躇する間もなく攻撃をしたのである。


それも即死になる頭狙いである。


その行動は、鹿島を助けるためか、“敵は撃つ“の訓令によるのかと思ったが、両方だろうとマーガレットは推測した。


 陸戦隊がそのように突発的に行動できたのは、隊における鹿島のカリスマ性を垣間見た感じでもあった。


 鹿島は正面の兵士を鎧ごと、袈裟懸けに二身に分け切った後に、左側にいた頭上に構えた剣で切りかかる兵士をそのまま腕ごと首をはねると、右側の兵士もやはり首を落とし、そのまま次を胴二つにしたと思ったら、最後の一人をも兜ごと頭上から真二つに裂いた。


 鹿島にとっては、相手の動き方がスローモーションに感じての戦闘である。


 見ていた買い物客にはその動きを見切った者は居なかった様子で、何で首が飛んだのかを理解するのには暫くかかった様で、鹿島が剣を鞘に納めた後で呻き声にも似た声を発した。

「強い!」ジャネックが叫んだ。


 鹿島の戦闘力の強さに皆が圧倒された様で、うめき声の後の口元は唖然としているが、顔は真っ赤に高騰していた。


 マーガレットは、祖母の自慢の侍とはこんなに強い、鹿島みたいな感じだったのかと想像させられたが、鹿島の残酷な血吹雪舞う切り口に、多くの女性がへたり込んでしまったり、卒倒してしまったりした女性たちの姿も見受けられた。


「これが現実なら、確かに魔物も倒せる者達だ!」

と多くの群衆は、口々に驚きの声をあげだしている。


 鹿島が投げ飛ばした男に近寄っていくと、次の甲冑列十人が槍を構えたとこで、また十人の頭が陸戦隊のレーザー銃で炭になった。

目の前の惨事を理解できない、残りの兵士たちは動けなくなってしまった。


 鹿島は、倒れ込んでいる金ぴか鎧の男に向かって、

「おまえは誰だ、」

と尋ねた。

「俺は、ここの領主、トマトマ.ドンク伯爵だ。」

「おい、トマトマ、お前は俺たちに戦争を仕掛けてきた。お前は捕虜だ。身代金はいくら払えるのだ!」


トマトマは意味が解らないのか、拒否反応なのか判らないが、無言で呆然としている。

「では、言い方を変えよう、明日、麦とイモ類を十トン運んでくる。

金貨三百貨を今すぐ用意しろ。これは俺たちを襲った代価も含まれている。」


要約、トマトマは状況を把握したのか、

「お前たちこそ何者だ。」

と、鹿島を誰何した。


「俺達は闇の樹海とパンパ一帯に、国を興した亜人協力国のものだ。当然ここもパンパの一部である。」

これは解釈によるが、一種の宣戦布告でもある。


 ジャネックとシリーは顔を向き合い、頷きあって、

「あなたたちの手伝いをした事で、もうこれから先はこの領地で暮らせません。子供達とテテサ修道女も一緒に、あなたたちの所で保護してください。」

マーガレットに、シリーは座り込み懇願してきた。


 群衆もみな座り込み、テテサ修道女の命を守ってくれるように懇願し始めたので、マーガレットは、鹿島とトマトマのやり取りを、無線を通して聴いていた様子で、

「閣下。話を長引かせて下さい。こちらも保護しないといけない人達が出ました。」

と、鹿島に無線を通して、領主を引き留めておくように頼んだ。


 マーガレットはテテサの所へ行き、

「テテサ修道女お話があります。来ていただけませんか。」

と、声を掛けて、テテサをトラックの助手席に案内すると、


「大変な状況になりました。これから如何なさいますか?」

「ガイア様のお心次第です。」

「砦では教会を必要と思っています。教会と孤児院を造ります。是非とも協力ください。」

「避難民の方たちも引き受けてもらえますか?」

「避難民の方たち?」

「今手伝っている娘たちです。」

「勿論です。」

「では、子供達と彼女達を護るために、修道院長に相談に行きましょう。」


 マーガレットは鹿島に再度無線をして、売り場の方での切羽詰まっている様子を知らせた。


マーガレットは群衆に向かって、後日改めて来ると伝えた後に解散を告げた。

圧倒的な戦闘力を目撃したためだろうか、買い逸れた者達も素直に門の内に帰っていった。


 マーガレットは陸戦隊の三名を借りて、門の内側にある修道院に向かうことにした。


 鹿島と三名の隊員は、領主と兵たちの監視のために残ることに成ったが、売り場にいた全員は残りの売り物を、再度トラックに積み込み修道院へ向かった。

 

 修道院長はかなりの高齢ではあるが、ゆっくりとはっきりとした言葉で話し出した。

「今の状態で、あなた達だけでの食料の販売は混乱を招いたでしょう、テテサが手伝ったのは正しいことです。その事で領主様の気分が損なわれるのなら住民の不幸です。虐げられた領地に正義を通すのは、難しいでしょう。」


 手伝った子供と娘たちに対して、今の領主ではお咎めがあるのは確実であろうから、テテサと孤児院出身の見習い修道女を目付けにする条件で、テテサ修道女は闇の樹海砦への伝道を許可された。


 トラック荷台の食糧はすべて下ろされており、孤児院の残りの小さな子供たちも同伴することになり、荷台の席は満杯となった。


 驚いたのは、平民と思っていた娘たちが皆、白い甲冑をつけて現れたことである。

マーガレットはそれを問いただすのは後日として、皆の荷物をまとめて修道院をあとにした

 

 トマトマは作物が高いと拗ねている。

「我が国へ招待しよう。闇の樹海を散歩してみるか?」

「奉迎すると?」

「ハハハハハ、まさか。捕虜としての導行です。闇の樹海の檻で保護します。」

「解った。金貨三百貨で買い取ろう。」

「ハハハハハ、笑わせてもらったので、すでに相場が動きました。金貨四百貨になりました~。」


拗(こじ)らせたい下心の鹿島の笑い声に、トマトマの顔は歪んでしまい、

「チェッ、金貨四百貨で買おう。」

と、ふて腐れた顔になった。


更に鹿島は、

「トマトマ領主様、あなたは慈悲深い領主と聞いているのだが、明日の穀物は住民に分けてあげるのでしょう。」

「当たり前だ!」

と、トマトマは見えを切りながら一人の兵を呼び、手紙を書いて兵に渡して門の中へ向かわせた。


入れ違いに、マーガレットたちを乗せたトラックが門から出てきた。


 マーガレットはトラック荷台から降りてきて、ビリーのハンドルを取り上げるように運行操作席へ乗り込み、

「すべて片付きました。護衛は返します。作戦室にてお待ちしています」

と言って、去ってしまった。


 程なくして、金ぴかの馬車がやってきて、執事らしき男が旅車から降りて来ると、へたり込んでいるトマトマの傍に駆け寄ってくるなり、両手にもった革袋を渡した。


  鹿島はそれをトマトマから受け取り、鹿島達も城壁沿いから去った。

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