第25話人種との接触

 猫亜人の集落はお祭り騒ぎになった。


 魔物の肉で長生きできるうえに精力抜群になり、年寄りは曲がった腰も伸びると大騒ぎである。


魔物肉の塊はたちまちのうちに無くなってしまい、保管する予定分は既に無い。


 陸戦隊は、毎日肉は届けるのだが、いつも余りまくるのに、今日の肉は特売日並の人気である。


 再び石の外壁工事が始まり、魔獣やら猛獣が森から大量の発生状態で湧き出して来るのは、魔物が現れ無くなったのが原因かも知れない。


猫亜人達の集落から暫くの間は、肉の配給は遠慮するとのことが伝えられていたので、輸送艦の冷凍保管庫も一杯なので、余った肉は全て焼却した。


 魔物討伐ひと月後日位に、三百人位の大キャラバンの列が石切り場の方へ現れたとの衛星通信から伝えられると、現れたのは耳長種族エルフたちであった。


見た目は若い三十人代以下の男女青年達であり、耳長種族エルフであるパトラの説明では、百人の戦士と残りが住居製作職人との事である。


 住居の作りは猫亜人と同じように、日干し煉瓦を野焼きにして、レンガを積み上げてくようだ。


 そこで、マーガレットから提案がなされて、日干し煉瓦を窯焼きで行い、陶器の製造を目指して欲しいとの事である。


猫亜人に窯と焼煉瓦や耐火煉瓦の作りを、応援して欲しいと頼んだ。


 エルフ種族は三千人の移住の為の住居を草原側に四列並べて、千棟もの家屋作りである

丸太と麦わらは豊富である為に屋根のつくりは、丸太を組み合わせて麦わら仕上げの屋根らしいが、将来は瓦屋根にしたいとの希望である。


丸太を刻むには、切れの悪い鉈と鋸では進みが悪く、鹿島とパトラの協議で、チェーンソー剣をエルフに三十本渡すことにして、猫亜人にチェーンソーナイフをやはり三十本渡した。


エルフは戦闘ができるが、猫亜人は戦闘ができないからである。


 工事完了後、剣は全てパトラに預け、全てのナイフはトドが預かった。

後日改めて、武器の分配は各指導者と協議する事にした。


キャラバン隊は三日興に越して来るので、ひと月後パトラ一族三千人の移住が完了した。


お蔭で肉は焼き捨てる事無く、穀物とイモ類の消費が増えたので、貯蔵施設増設工事の遅れによる貯蔵のパンクは免れているが、貯蔵施設増設工事はそれでも次が控えているので、急ピッチで行なわれていた。


 穀物の貯蔵に必要な麻袋の生産も進み、万能薬や塗り薬や蜜の陶器製分類小瓶も作り出されているし、皿の生産も順調である。


これで、人間種との接触と取引が準備可能となった。


 コーA.Iの分析で、飲む万能薬は細胞を活性化して、毒素を分解して無毒化し、そして、生体防御の免疫力を高めるために、浸入した病原体と毒素を除去する働きが確認出来た。


 万能薬製造後にできるゼリー状の残りものは、体細胞を再構築して、分かれた細胞を接続出来るので、外傷を容易く治すらしい。


魔物の赤い石を使ったゼリー状塗り薬は、腕や足の切断も治るという伝説もあるらしいが、エルフの伝説の中に、魔物の赤い石を使った万能薬やゼリー状塗り薬においては、過剰摂取は危険なために、十倍に薄めて使用するように伝わっているらしい。


十倍に薄める理由は販売量を増やすためでなく、魔獣の赤い石で作られる基準は、過剰摂取を避けるためにエルフの掟上であるらしい。


 石の外壁工事が終わり、後は門の取り付け工事だけとなった。


 人間種族との接触が、ついに決定した。

人間種との接触と取引の為に、鹿島達は一番近い二十キロ先の城壁に囲まれた街を目指した。


 三台の高機動トラックに、麦三トン、イモ類三トン、果物一トン、陶器製品、薬の多種類等々を積んでのキャラバン隊である。

パトラの話では、人間種族同士が争っているため、これ等の物を必要としているだろうとの事である。


 現地の通貨基準は、

銅貨十貨で銀貨一貨、

銀貨十貨で大銀貨一貨、

大銀貨十貨で金貨一貨、

金貨百貨で大白金貨一貨

が基準のようであり、銀河連合単位だと、

物価から算出すると、

銅貨一貨が百クレジットからの通貨らしい。


 販売担当者は総司令官マーガレットとマティーレにパトラの三人に、鹿島と陸戦隊五名が護衛として同行した。


 出発する前にマティーレとパトラは同行するのを嫌がったが、総司令官マーガレットは、「他の人間種族に、我々は共同で国を興したことを、知らしめ無ければ成らない。」

と、主張した。


 地平線まで、何もない草原であるかのようなパンパは、暫くすると、地平線に森が見えてきた。

事前の情報通り森を迂回すると、石の城壁が確認できた。


 鹿島達は森の脇を抜けていくと、何人かの子供達と女性たちのグループを見止めた。

森の脇の雑草をかごに取り入れているのは、山菜採りのようである。


 マーガレットの指示でトラックを止めると、子供達が寄ってきた。

子供達はトラック荷台の周りを一周した後、

「これ魔法の荷車?」

と、鹿島に聞いてきた。


 一人の中年前の女性が駆け寄って来て、子供たちを非難させようと両手を広げながら、子供たちを女性グループの方へ追いやった。

「子供達が大変失礼をいたしました。」

「貴方は子供達の関係者ですか?」

「はい、私は、パンパ街の修道女テテサと言います。よろしくお願いいたします。子供達は、修道院で保護している孤児たちです。女性達は、信仰厚い人たちです。このような奇妙な荷車は初めて見ました。あなた達は何者ですか?」

 清潔な服装であるが、気古くした継ぎ接ぎ服装姿の二十代半ば年頃の綺麗な女性が、鹿島達に声を掛けてきた。


 鹿島は、修道女テテサを見て、マーガレットの醸し出す慈愛の観音菩薩の雰囲気はあるが、顔は鹿島の好みから言ったら、マーガレットより落ちるなと感じたが、慈愛雰囲気はかなり広く深いと思えるし、すべての要求を疑うことがなく、否定しないで笑顔でうなずく危うさも感じた。


 マーガレットは、修道女テテサの問いかけに、

「私達は、闇の樹海を開拓しました。今では草原を牧畜場にもしていますし、猫亜人とエルフ種族と共に亜人協力国を興した者達です。私はマーガレットと言います。」


そして鹿島に手先を向け、

「此方が我らの指導者で、カジマ提督閣下です。」


 マーガレットは各トラックの助手席に居る、マティーレとパトラに声を掛けて、近くに来るよう誘っている。


中年女性はマティーレとパトラを見て目を丸めたが、

「私は、パンパ町の修道士テテサと言います。よろしくお願いいたします。」

丁寧な言葉遣いと、柔らかの物腰で再び挨拶した。

「私の秘書マティーレで、エルフの族長でパトラです。二人共国の運営者でもあります。」

「我々亜人に平気なのですか?」

パトラが、問い質す様な事を発した。

「ガイア様を信じる者はみな兄弟と思っています。この国の司祭や修道院長も同じ考えの人が多いのです。」

違う考えの人が居るとのことを、含めた言葉でもある。


「この辺りは、農地のようですが、随分と荒れているように感じるのですが、どういう事ですか?」

マーガレットとテテサの会話が始まり、

「去年の収穫時、隣国との争いで需品食糧として全てを取り上げてしまい、村人を餓死寸前に追いやった為に、今年の収穫後に村人全員が夜逃げしてしまいました。今、街では食糧が大変不足しています。」

「私達は、食糧と医薬品を売りに来たのですが、何処かを訪ねるべきでしょうか?」

「街に入ると、領主様に安く買い叩かれるか、領主様に取り上げられるかでしょうね。」

「どのような販売方法が良いと思いますか?」

「適正な価格で売るのでしたら、城壁の外で売るべきです。」

「麦とイモ類の適正価格は如何程ですか?」

「どちらも一キロ銀貨で二枚でしょう。」

「高い!エルフの集落では、銀貨一枚です。」

「どの国も食糧は不足しています。それが争いの原因でもあるのです。」

「では、この場所で店を開きます。街に連絡していただけませんか?」

「子供たちを行かせます。」

「いいえ、子供達と女性全員に手伝いをお願いします。報酬は各自にイモ類と麦各十キロでいかがですか?」

「そんなに頂けるのでしたら、是非ともお手伝いさせてください。」


 テテサは小走りに女性グループと子供たちのとこに行き、手ぶり素振りで説明しているようで、テテサの周りから歓喜の声がした。


 テテサは女性グループと子供たちを残して、街の方へ駆け出して行った。


 鹿島達は麻袋のまま売るつもりでいたが、小売りになってしまったので、急遽五十キロ入れてある、ポテトの入っている麻袋を開き、木の枝で天秤を作り、一キロのナイフを五本用意して、五キロのポテトを二組つくると、二つ合わせて十キロに分類した。

それを麻袋に入れて十キロの基準用を構えた。


 麦の秤は、丁度いいお椀型陶器製品があり、めいっぱい入れると丁度一キロになったので、陶器製品お椀を使い、量り売りにした。


子供たちは草の上に十キロのイモ類と、ポテトを並べているグループと、空いた麻袋に諮り終えたイモ類を入れて、マティーレの後ろへ並べながら運んでいた。


 マーガレットは麦を売る係で、マティーレはイモ類となり、パトラが薬と果物係である。

各自に女二人の助手が付き、売り方姿勢ができた。


マーガレットの手伝いをする二人は、言葉丁寧で品の良いむすめたちである。

年長の娘はジャネック、小柄の娘の名はシリーと名乗った。


 麦の量を渡す段取りを話し合っていると、鐘が鳴りだして鐘の連打の中群衆が現れた。


 暫くすると大勢の群衆が迫ってきた時に、耕作跡地辺りから強烈な爆発音が響いてきた。


 爆裂手榴弾を投げたのは鹿島であった。


 みんなが必死になって駆け出してくるので、鹿島は混乱するとやばいと思い、咄嗟に誰も居ない農地に爆裂手榴弾を投げた。


誰かが爆裂弾を使ったのだろうと、マーガレットは無関心でいたが、群衆は足を止めて凍り付いた様に固まっている。


流石に爆裂手榴弾の凄い音に群衆の群れは驚いたようで、群衆の群れは売り場に、競走馬のように駆け込んできようとしたが、正常な心情になったようで一斉に立ち止まった。


 六人の陸戦隊は群衆が走らないように、両手でストップの合図をして、ゆっくりと歩かせたのちに、目的の品物の前へ誘導した。


 麦とイモ類の前は長い列ができたが、パトラのとこには誰も居ないので、パトラの手伝い二人はほかの手伝いに回されていた。


 そして陸戦隊の誘導する指示に従って、マーガレット等の前に二列に並んだ列が出来た。

「麦十キロ大銀二貨です。」

ジャネックは叫ぶと、列の一番目の男が、

「二十キロお願いしたいのですが。」

「駄目です、十キロにしてください。明日も来ます。」

「君たちは、どこから来たのだ?」

「ふた月で収穫できる闇の樹海を開墾し、収穫出来たので売りに来ました。」

「ふた月で収穫できると?それに闇の樹海を開墾しただと?」

皆が口々に驚きの声を上げた。

「闇の樹海には、魔獣やら魔物が出ると聞いているが、大丈夫ですか?」

「魔獣も魔物も退治しました。」

「魔物はいくら何でも無理でしょう。」

「証拠は、エルフの売り場にあります。」

とマーガレットは指をさした。

「先程の爆裂魔法を使ってですか?」

「そうです。」

皆が少し納得したようでもある。


 中には五銀貨しかない人もいたが、マーガレットはシリーに三本指を示したら、シリーはうなずいて五杯の麦を袋へ入れていた。

一杯二銀貨なのに心優しい娘であるのは、よい環境で育てられたのであろう。


 客の並んでないパトラの前に小さな女の子が近寄ると、パトラは桃の実の筋目にナイフを入れて、両手で桃の実を交互にねじり分けると、種のない方を女の子にあげた。

女の子はチョット齧りかけた桃を持ち、麦売り場列に並んだ母親のもとへ駆け出だしていった。


母親は娘の持ってきた桃をかじり、娘に袋と銀貨一枚を渡すと、再び娘をパトラの方へ向かわせた。

それを見ていた周りの親たちも、連れの子どもに銀貨一枚を渡して、パトラの方へ押し出し始めた。


 パトラの前は子供達だけの行列となった。

そこへテテサが現れて、パトラの手伝いを始めだした。

「すごい混雑ですね、銀貨一枚でどのくらい上げますか?」

「持ってきた袋いっぱいに、持てるほどに入れてあげてください。」


 どの売り場も満員御礼の騒ぎになってきた。

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