第33話エピローグ・其の1

「……と言う犯行計画はどうだろう、かい子さん」


「いや。長々と独り語りご苦労様でした、アラタさん」


 ようやく、俺が引きこもり続けた数十年間の間に考え続けた、『もしチートな力を手に入れたらどうするか』を、かい子さんに話し終えた。さすがに疲れた。なにせ、文章にしたためたら6万字はくだらないと言うボリュームだからな。


 なぜ文字数がわかるかと言えば、何回も俺が実際に文章にしたからだ。俺が考えた復讐計画が書籍化されれば少しはこの恨みがましい気持ちが晴れるかと思って何度も小説仕立てにした。何度か小説の公募新人賞に送ったこともある。1次選考に通ったことすらなかったが……


 今回は俺にチート能力をあたえる女神さまの名前を、今こうして俺の目の前にいるやしろかい子とかいう名前の女神様から借用して『かい子』とした。なにせ、何度も書き直してはやり直しを繰り返してきたストーリーだ。かい子さんの前で暗唱するくらいどうって言うことはない。


「それでどうかな、かい子さん。この俺の渾身の本格ミステリーは」


「本格ミステリーとしての採点ですか? それなら……45点と言うところですかねえ。平均以下であることは間違いないでしょうから……まあ、赤点ってことはないでしょう。ところどころに評価できる部分もありましたし」


「なんだって、45点!」


 かい子さんの低評価に俺は思わず叫び声をあげる。俺の渾身の本格ミステリーが45点……どういうことだ。この自称本格ミステリーの女神様とやらは俺の小説を気に入ってここに来たんじゃあないのか。


「それでは講評と行きましょうか、アラタさん。ええと、この作品の肝は『男だと思っていたサッカー部顧問の先生やもとサッカー部の皆様方が実は女だった』と言うことでよろしいですか」


 そうだ。もちろん俺の実際の中学生時代にいじめをしてきたサッカー部の連中は男だったし、それを黙認どころか奨励してきたサッカー部顧問も男だった。だが、それを美少女に脳内変換することでいままで精神の安定を保ってきたのだ。


 かい子さんの質問にうなづく俺だったが、かい子さんは俺が長年にわたって脳内で温め続けた仕掛けを酷評する。


「しかし、先生をもとサッカー部顧問やクソ教師。そしてトップ下やセンターフォワードみたいにわざとらしいくらいに名前を伏せていたじゃありませんか、アラタさん。これではなにかあるなと勘繰っちゃいますよ。で、『性別誤認かな?』なんて疑うわけです。こんなの叙述トリックの基本ですからね。『ゆう』とか、『あきら』とか『かおる』とか男でも女でもあり得る名前にするとかにしたほうがよかったんじゃあないですか」


「それはトップ下の夫の名前を『ゆう』とすることでやってある。そのために、『伴侶』とか『パートナー』なんてトップ下の夫を表現してたんだ。『夫』とか、『旦那』なんて性別を限定するような言葉は使っていない。だいたい、そんな中性的な名前を先生とサッカー部12人あわせて13人全員につけたらそれはそれで不自然だろう」


「無理に叙述トリックなんて使う必要ないんじゃあないですか。叙述トリックなんて、作るのが難しい割にはやたらと批判されると相場が決まっていますのに……なんでわざわざそんなものを」


 かい子が俺の本格ミステリーの本質を否定するようなことを言ってくる。


「うるさい。俺は小説ならではってことをしたいんだ。『漫画やアニメの原作でしょ』なんて派生作品は読まれてもオリジナルが読まれないなんてことにはなりたくない」


「それで叙述トリックですか、アラタさん」


「そうだ。『サッカー部顧問の教師が女なのにガイドのかい子さんに言い寄ってくるのは不自然だ』という指摘は的外れだからな。女子高育ちなら同性愛者でも不思議ではないだろう。男の俺を毛嫌いしていたと言うこともあとで描写してある。『十六角館の小部屋のカギがシンプルなつくりで安全性の問題はないのか』なんて疑問も十六角館にいるのが全員女なら構わないだろう」


 俺が自分が施した仕掛けを説明する。しかし呆れているようなかい子さんが、俺の本格ミステリーを欠点をあげつらっていく。


「まあ、叙述トリックはひとまず置いておくとしましょう。そして、真犯人であるアラタさんの視点でストーリーを進行させる一種の倒叙ミステリーとしてのストーリーですか。なんでこんなやりかたにしたんですか。コロンボや古畑任三郎みたいに最後に犯人がお縄になるわけでもないですし……」


「それは、いま異世界モノで俺つええがはやっているから犯人視点で完全犯罪を遂行する本格ミステリーがあってもいいかと思って……」


「わざと作るのが難しい叙述トリックなんてものを仕込むかと思えば、売れ筋に迎合もするんですか。一貫性ってものはないんですか」


 かい子さんはあきれ果てている。だってしょうがないじゃないか。そもそも読者に読まれなければ叙述トリックもくそもないんだから。


「で、その完全犯罪を遂行するために女神であるあたしがチート能力をアラタさんに与えるわけですか。タイムスリップに十六角館建設、ふわふわした存在になったり実体化したり。あげくのはてにアラタさんが船長として女体化……もはや何でもありですね。これなら、わざわざ本格ミステリー仕立てにしなくてもアラタさんが復讐したい相手に今現在この時直接復讐すればいいんじゃあないですか」

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