第26話ダイイングメッセージ
「アラタ様。そのくらいにしておいたほうが……その補欠さんにはダイイングメッセージを残させるんでしょう。でしたら、ダイイングメッセージを残すことができる程度のケガにしておいたほうがいいのではないでしょうか」
それもそうか。トップ下やセンターフォワードみたいに、あまりにむごたらしく殺すと『なんでここまでひどくやられたのに、やたら複雑なダイイングメッセージを残すことができたんだ』となるからな。
俺が魔法瓶入りのかばんを何度も振り落としたことで、補欠はすでにこと切れているみたいだが『どう考えてもここまでやられてはダイイングメッセージを残すことなんてできないだろう』と思われるほどに死体を損壊することはまずい。
「よし、かい子。これからダイイングメッセージの制作に取りかかるぞ」
「了解です、アラタ様」
こうして、俺とかい子は補欠が真相解明のヒントとしてダイイングメッセージを残したように見せかけ始める。この部屋の暗証番号が00025と言うことは、十月三十一日のハロウィンと十二月二十五日のクリスマスに戦後この島にふらりとやってきて島のみんなを救った優しいおじちゃん……つまり俺がこの部屋に戻ってくること、そしてこの島に伝わっている不思議な踊りをふまえれば解読できるようになっている。
その解読のヒントを補欠の残したダイイングメッセージとして俺とかい子が制作するのだ。そのためにこの部屋もうまいことダイイングメッセージがデザインできるような設計にしてある。なにしろこの十六角館の設計は俺がしたのだからな。
この部屋は、ハロウィンとクリスマスのそれぞれの丸一日に俺が滞在するような造りになっている。具体的には、朝食用の祭壇、昼食用の祭壇、夕食用の祭壇と計3個の祭壇が設置してある。それに俺が眠りにつく用のベッドだ。
俺が補欠を撲殺したのはこの部屋の真ん中あたり。そこから、補欠がはいずりまわって血を滴らせながら朝食用の祭壇、昼食用の祭壇、夕食用の祭壇と移動し最後にベッドで横になったように見せかける。そのために、俺とかい子が絶命した補欠をえっちらおっちら引っ張っていく。
そして最後に補欠をベッドに横にさせたら、補欠が今わの際に血文字でダイイングメッセージを残したように見せるため、補欠の右手の指で血文字を書く。
dining message
そう。『dying message』ではなくて『dining message』だ。ダイイングメッセージとダイニングメッセージ。よくある間違いだが、今回の事件ではそれが重要な役割をダイイングメッセージとして果たすことになる。
カタカナではなく、わざわざ英語のアルファベットでつづったこともきちんとした意味があるのだ。その意味を、補欠の残したダイイングメッセージとしてかい子が探偵役として披露するのだ。
ダイイングメッセージのデザインはこんなものでいいだろう。あとは最後の仕上げだ。元教え子である補欠が部屋から出るように叫びまわりながらも、自分の部屋である8号室にこもっているクソ教師に殺人の冤罪を擦り付けなくてはならない。
そのために、今から俺とかい子がふわふわした存在になって外から扉を開けられないようにベッドや机で入り口がふさがれている8号室に忍び込む。そして、そこにいるクソ教師に交互にささやいていくのだ。
当然のことだが、ふわふわした存在の俺とかい子はクソ教師からは見ることができない。だが、声だけは聞こえるようにかい子に細工させる。すると、クソ教師にしてみれば自分の中の天使と悪魔がせめぎあっているような錯覚におちいるのだ。
俺とかい子の巧みな話術で、クソ教師がこのまま黙ってじっとしているよりも殺人の濡れ衣を被った方がましと思わせるのだ。トップ下、センターフォワード、補欠の3人を俺が殺し、その罪をクソ教師に擦り付ける。これで俺の復讐が完了するのだ。
「さあかい子。フィナーレが近づいて来たぞ。俺とお前をふわふわした存在にするんだ。そして8号室に忍び込み、クソ教師を殺人犯になる方がましだと洗脳するんだ」
「了解です、アラタ様。えいっ」
俺の台本では俺がふわふわした存在になるのもこれで最後となる。クソ教師を洗脳したら、あとは全員集合させてかい子がしたり顔で『犯人はこの中にいます』なんて言ってクソ教師が殺人犯だとほかの連中に納得させるところを横で聞いているだけだからだ。
そう思うと一段と気合が入ってふわふわした存在になった気がする。さあ待ってろよ、クソ教師。元教え子が殺されていると言うのに自分の部屋にこもっている卑怯なお前に殺人の冤罪を擦り付けてやるからな。
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