第25話第三の殺人・其の2
「かい子、実体化して暗証番号00025の部屋の扉を開けるんだ」
3号室からコツコツと音を鳴らした後、再度ふわふわした存在になって俺のいる4号室にやってきたかい子に俺はそう命令する。
「了解です、アラタ様」
実体化したかい子が暗証番号00025の部屋を開けに行く。発狂した補欠は4号室から5号室、6号室の方向へ走っていった。かい子はそれと反対に3号室、2号室の方向へ走ってゆく。
暗証番号00025の部屋の扉は玄関、いわば0号室の真向かいにあるからかい子が4号室から出たのが補欠より後でも十分先につく。
で、ふわふわした存在になっている俺が実体化して走っていくかい子の後を追いかけていき、かい子が暗証番号00025をセットしている様子を見ていると、十六角館の廊下を一周してきた補欠がそれに気づく。
「貴様、何をしている。お前が犯人か!」
補欠がそう叫ぶ。あわてている補欠はかい子が自分たちを案内してきたガイドであることには気づかず、誰かが暗証番号00025の部屋の扉を開けているようにしか見えていない。
その直後、かい子が暗証番号00025を入力して扉を開けて部屋に侵入する。
「くそ、待て! お前は誰だ!」
そんなことを言いながら、補欠もかい子に引き続いて暗証番号00025の部屋に入ってくる。
「お前はガイド。こんなところで何をしているんだ。お前が犯人なのか」
かい子がガイドだと気づいた補欠がかい子を追い詰める。しかし、追い詰められているのはお前のほうなのだ、補欠よ。
「えいっ」
かい子が呪文を唱えると、俺が元の俺の姿で実体化する。俺は凶器となる魔法瓶入りのかばんをしっかり握りしめている。しかし、かい子に気を取られている補欠はそれに気づかずにかい子に質問を続ける。
「なんだ? 妙なことをして? いったい何のつもり……」
そんな補欠の後頭部に俺は魔法瓶入りのかばんを振り下ろす。補欠の頭蓋骨が砕ける心地よい感触が俺の手に伝わってくる。
「がっ! なんだこれは! だれがこんなことを! お前は誰だ!」
俺のほうを振り向きながら補欠が絶叫する。
「俺のことを覚えているか、補欠?」
「その補欠呼び……お前はアラタか!」
俺が俺だとわかってくれてうれしいよ、補欠。一人だけレギュラーになれなかったからと言って、お前を補欠呼びする人間はチームメイトにはいなかったもんな。周りはお前を補欠なんて馬鹿にしなかったからな。
お前を補欠呼びする人間は俺くらいしか心当たりないんじゃないか、補欠。俺がお前に体育のサッカーの時間にやたらえらそうにされたから『うるさいんだよ、補欠の癖に』とぼそりと言ったら、お前はそれをしっかりと聞きつけて怒りをエスカレートさせたからな。
結局、いくら自分のことをチームのために尽くす縁の下の力持ちなんて言いきかせても意味なんてないんだよ。補欠、お前が自分が補欠であることになによりコンプレックスを抱いていたのは紛れもない事実なんだ。
サッカー部でない俺にやたら当たり散らしてきたことが何よりの証拠だ。自分がレギュラーになって試合に出場できないから、その不満を俺を自分以下の存在とみなすことで解消していたんだろう? 俺がお前のことを『補欠』と読んだらすぐに俺がアラタだとわかったことがその証拠じゃないか。
「そうだ、アラタだ。さあ、次は右足を砕いてやる」
「アラタ、お前がなんでここに。やはり隠し部屋があったのか」
外れだよ、補欠。お前はさっき船長が犯人だと正解にたどり着いたじゃないか。隠し部屋なんてありはしない。俺が船長になっていたんだ。
「補欠よ。お前は昔から上の人間にこびへつらうのが得意だったな。そのくせ自分より下の人間には強く当たると来た。そんな人間はずいぶん社会では重宝されるようじゃないか」
「アラタ、いったい何を言っているんだ」
レギュラーメンバーにはサポートメンバーとなることで取り入り、俺みたいな人間に強く当たることでうっぷんを晴らす。その特技を補欠は社会人としていかんなく発揮し、会社人間として出世したみたいだ。
そのことは、『アットホームな職場です』なんて言葉とともにお前がネットにアップした職場での写真を見ればよくわかるぞ。満面の笑顔だったじゃないか、補欠よ。肩書もやたらりっぱだったな。さぞや上の人間にはごまをすり、下の人間にはきつく当たったんだろうな。
補欠、そんなお前みたいな人間には死刑こそふさわしい。なあに安心しろ。あの世にはトップ下とセンターフォワードがいる。そのうえ、おまえにはダイイングメッセージを残すと言う大役を任せてやるぞ。
どうだ、うれしいだろう、補欠。中学時代ずっと補欠だったお前の晴れ舞台だ。そのために、お前に魔法瓶入りのかばんをたっぷり振り下ろしてやるからな。さあ、たっぷりと味わうんだ。
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