第23話第二の殺人・波紋
そして、再び夜が明けた。
「うわああ! 今度はセンターフォワードが殺されている!」
「玄関は閉ざされていた! それなのにまた殺人が起きた!」
「間違いない、殺人犯がこの中にいる!」
「誰だ、犯人は!」
センターフォワードも死体を見つけた連中が騒ぎ始めた。さて、1号室のトップ下、2号室のセンターフォワードと俺に殺されていった。となると……
「次に殺されるのは3号室のわたしだ! こんな誰が殺人犯かもわからない状況であんたらと一緒にいられるか! わたしは自分の部屋に閉じこもらさせてもらう!」
俺はそう宣言すると自分の部屋である3号室に閉じこもって、扉が開かれないように部屋の家具を扉の前に積み上げる。
「おい、船長さん。落ち着けって」
「こういう場合は一人になるよりも、お互いがお互いを監視していた方が安全じゃあないのか」
「だめだ、部屋の内側にベッドやら机やらが積み上げられて入れやしない」
「しかし、どうするんだ。この十六角館に閉じ込められた状況で新たな殺人が起きた……と言うことは」
トップ下とセンターフォワードを殺した犯人は残り13人の中にいる! なんて結論にその場の空気が達しようとしたとき、かい子がおずおずと意見を言う。そうだ、かい子。ここからが探偵役のお前の見せ場だ。
『有能な探偵役です』なんて雰囲気をかもしだしながら、その実は真犯人の目的である殺人を最後まで食い止められない。そのうえ、見当はずれの推理でクソ教師に冤罪を擦り付ける無能な犯人役をきっちりこなすんだ。
「あのう、ちょっとよろしいですか。この13人の中に殺人犯がいるとは限らないんじゃあないでしょうか」
「どういうことだ、ガイドさん」
「玄関はあの通りふさがれているんだぞ」
「考えたくはないが、この中に犯人がいるとしか……」
「まさかあんたが!」
かい子の言葉にうろたえる連中をしり目に、かい子は言葉を続ける。
「いえ、あたしは犯人ではありませんが……この十六角館の玄関がふさがれているからと言って、外部から島の人間が入ってこれないわけじゃあないと思うんです。こんなへんちくりんなデザインの館なんですよ。隠し通路や隠し部屋の一つや二つあってもおかしくないと思うんです」
そうだ。隠し通路や隠し部屋を利用して犯人が殺人を行うと言うのも本格ミステリーの一つのパターンだ。禁じ手と言われるかもしれないがそう言うパターンがないわけじゃない。まあ実際、この十六角館を建てた時にそんなものは作ってはいないのだが……俺とかい子、それにれいといち以外はそんなことは知らないからな。
「それだよ、ガイドさん」
「中学時代にともに時間を過ごしたこのメンバーの中に殺人犯なんているはずがない」
「部外者である船長さんとガイドさんのうち、船長さんは閉じこもっているし……とりあえずガイドさんに疑いは消えないから……」
「全員で固まって隠し部屋か隠し通路を見つけるんだ」
よしよし、俺の計画通りに2件も殺人事件が起きたのにありもしない隠し部屋あるいは隠し通路を探す流れになった。そうやって、また1日時間をつぶすがいい。そして夜になれば第三の殺人を俺が実行するのだ。
「船長さん、今の話を聞きましたね。ガイドのあたしとそれ以外の11人がまとまってこの十六角館を捜索しますから。しっかり部屋に閉じこもってるんですよ」
そんなことを扉越しにかい子が俺に周りにも聞こえるような大声で言ってくる。そして、そのあと俺だけに聞こえるようにこうささやくのだ。
「アラタ様。計画通りにありはしない隠し通路や隠し部屋の捜索で連中に無駄に1日を費やさせますから。そして夜になったら補欠さん以外を寝静まらせます。そして……」
ああ、わかっているよ、かい子。3番目の被害者は補欠だ。今から今晩が楽しみでならないよ。
「ところで、壁や天井をぶち破ったりはできないかな」
「いや、だめだな。壁も天井も分厚くてとても人間の手じゃあ壊せそうにない」
「地面に穴を掘って、床から侵入と言うのはどうだろう」
「それもないよ。床はしっかりと大理石でおおわれているからな」
もとサッカー部の連中が、いろいろな密室攻略法の提案をしている中、かい子が俺に魅力的な提案をしてくる。もちろん俺にだけ聞こえるような小声で。
「ところで、アラタ様。自分だけふわふわした存在になって、あちらの方々が無駄な努力をするさまを見物なさいますか」
「それはいいな。かい子、よろしく頼む」
「了解です、アラタ様。えいっ」
こうしてかい子に自分をふわふわした存在にさせて俺は、ついさっき自分で積み上げたベッドやら机やらをすり抜けて部屋の外に出る。
「おおい、ガイドさん。船長さんが部屋に閉じこもっているのなら、あんたは一緒にいてくれよ」
「申し訳ないが、あんたが犯人と言う目が消えたわけじゃないからな」
「なあに、いまに隠し通路や隠し部屋が見つかるさ」
「そうすれば、この不気味な十六角館からも脱出できるかもしれない」
そんなことをのんきに話しているが、残念ながらそんなふうにうまく思い通りにはいかないんだなあ。安心しろ。お前らの徒労はしっかり俺が見物していてやるからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます