第22話第二の殺人
「おい、この部屋の扉を開けたのは誰だ。お前がトップ下を殺したのか。返事をしろ」
つい先ほどかい子が暗証番号を入力して扉を開けた紅茶の香りが漂う部屋に、センターフォワードが突入していく。
「かい子、俺を実体化させてくれ。もちろんもとの俺の姿でな」
「了解です、アラタ様。えいやっと。そして……はいどうぞ。魔法瓶入りのかばんです」
かい子が俺をもとの姿に実体化させて、凶器の魔法瓶入りのかばんを手渡す。そのかばんの中に入っている魔法瓶の金属質の感触を俺はしっかり確かめる。
センターフォワードよ。お前は中学時代にこんな人にぶつけたらただでは済まない鈍器を俺にぶつけておいて、しれっと『かばんに魔法瓶が入っているなんて思いませんでした』なんて言いやがったな。それが嘘であることはあの日あの時のあの現場でこっそり事件を見物していた俺がよく知っているぞ。あの、俺相手ならここまでやってもいいだろうなんていやらしく笑っていたお前の顔は印象的だったからな。
俺は、そんな後で言い訳するような卑怯なまねはしないぞ。こうして、かばんに魔法瓶が入っていることをしっかり確認したうえで、こいつをお前の脳天に振り落としてやる。俺は明確な殺意を持ってお前を殺してやるのだ。
「誰もいない……いや、そんなはずがあるか。犯人、出てこい」
そうわめくなよ、センターフォワード。今お前のお望みどおりに出ていってやる。お前の背後に忍び寄って……俺が中学時代に受けた痛みを思い知るがいい。そして、俺は魔法瓶入りのかばんをセンターフォワードの後頭部に振り下ろす。
「ぐわあ! だれだ!」
「俺だよ、センターフォワード。この顔に見覚えはないか?」
「誰だ、お前! てめえの顔なんか知ったことじゃねえ」
ほう、サッカー部のエースとしてチームの得点源だったセンターフォワードさんは俺の顔なんて覚えていませんか。さんざん人をいじめぬいて、そのいじめた相手の顔はきれいさっぱり忘れてしまいましたか。お前にとって俺の存在は爽やかな青春の1ページですらなかったのか。
「ならば、この凶器に見覚えはないか、センターフォワード。こうして後頭部の次はお前の右足を使い物にならなくするこの凶器を」
「ぎゃああ! 痛い! そのかばんで撲殺しようとしているのか。そのかばんの中に何か入っているのか」
「ご名答。このかばんには魔法瓶が入っている。数十年前、ヨーロッパの暴徒化したサッカーファンのフーリガンは警察に武器となるものはことごとく没収された。瓶やナイフはもちろんのこと、フォークや櫛さえも。そんななか、筒状にした新聞に小銭を詰め込んで振り回して武器にする手法が開発されたそうだな」
「お前、まさか……」
センターフォワードの顔が青ざめる。やっと俺が誰だか理解したようだ。
「アラタか。しかしお前はあの時死んだはずじゃ……」
そうだ。本来ならば病院に担ぎ込まれる程度のけがだったところを、殺人事件にまで発展させたからな。タイムスリップした俺が。
「地獄から復讐のために舞い戻ってきたとでも言っておこうかな」
俺が事件のトラウマで引きこもっていながら、お前たちサッカー部の連中がリア充生活を楽しんでいることをネットで確認することは地獄のような苦しみだったからな。
「センターフォワード、お前の家族の写真をSNSで見させてもらったよ。素敵な伴侶。幸せそうな子供。かわいそうに。その家族は二度とお前の生きた顔を見ることはないのだがな」
学業優秀だったトップ下もトップ下で中学以降の人生は順風満帆だったが、お前もなかなかいい人生を送っていたみたいじゃないか。人生の充実っぷりをネットにアップしてアピールしてたから俺はよく知っているぞ。
学業はまるで駄目でもスポーツ推薦枠で高校、大学と進学。そのまま体育会系のコネクションで営業職で輝かしい成績を上げていたみたいだな。人の人生を踏み台にしやがって。
「ふざけやがって、アラタ。殺してやる。お前なんかに誰が殺されてやるか」
ほう。家族の安全を願ったトップ下に対して、お前は俺に反撃を試みようと言うのか。見上げた根性だ。しっかり返り討ちにしてやる。
右足が動かなくなったにも関わらず抵抗を試みるセンターフォワードに対し、俺は魔法瓶入りのかばんをしつように振り下ろし続ける。向こうはけが人でこちらは無傷。おまけに俺だけが武器を持っている。この圧倒的優位の中、俺は数十年越しの復讐を果たし続ける。
さあ、左足もダメにした。次は右手、そして左手。俺の振り下ろす凶器がセンターフォワードの体を破壊していく。
「アラタ様、そろそろ……」
「そうだな、このくらいにしておくか」
積年の恨みを果たした俺は、センターフォワードの死体をのぞき窓から確認できる位置に移してこの殺害現場の部屋の扉を閉じる。これで、この部屋の暗証番号を解読できない連中は元チームメイトの遺体を目にしながら何もできないことになるのだ。
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