第9話 体育
優花とケーキを食べた翌日。
「おい航平!今日の体育バスケだってよ!女子にいいところ見せるチャンスだぞ!」
「それはお前だけだろバスケ部」
「航平だってバスケ続ければいいのによー。なんでやめちまったんだ?」
「色々あんだよ。それに…」
「なんだよ?なんかあるのか?」
おっと、バスケをまだ続けてるなんてあんまり知られたくないな。ここは適当に誤魔化すか…
「いや、そんなことより次の英語、お前当たるよな?やってきてんのか?」
「やべっ!なにもやってない!見せてくれ!」
「はぁ…どうせそんなこったろうと思ったよ。ほら、さっさと写せよ」
「サンキュー!すぐ返すわ!」
そう言って松田は自分の席に戻る。なんとか誤魔化せたみたいだ。
「バスケ、か…」
「バスケがどうかしたの?」
「いや、懐かしいなと思って…ってうぉ!?」
驚きイスから落ちそうになりながら振り返ると、優花がちょうど登校してきたところだった。
「そんな驚くことないじゃない」
「ごめん。ちょっと考え事してて」
「バスケのこと?」
「まあ、そうなんだけどさ」
「航平君って帰宅部だよね?バスケ昔やってたの?」
「まあな、昔ちょっとな」
話しは終わりだとばかりにカバンから教科書を取り出そうとすると、空気を読まない奴がまた現れた。
「おいおい、ちょっとじゃないだろ。中学まで一緒に部活やってたじゃねえかよ」
「そうなの?じゃあなんで高校になってやめちゃったの?もしかして、下手だから?」
辛辣だな優花は…
「いやいや、逆だよ逆、中学ではエースだったんだぞ!怪我してからは振るわなかったけどな。」
「エース!?こう…赤坂君が!?」
「全然そう見えないだろ、こう見えても上手いんだぞこいつ」
「一言余計だ。それにバスケは趣味程度だから上手くないだろ別に」
本当に今は趣味程度で地域のチームにたまに混ざって練習してるにすぎないのだ。部活でほぼ毎日ボールをついてた日々はもうない。
「赤坂君って中学どこなの?」
「古畑中だな。全国じょう」
「えっ!?古畑中!?全国大会常連じゃない!?赤坂君も古畑中だったの?しかもエース?」
いきなり大声で割り込んできたのは斎藤さん。松田とカフェに行ってた女子だ。
「昔の話だよ。怪我してからやめたんだ」
「えー!もったいない…怪我してても続ければいいのに!」
「一応続けてはいるぞ」
「お、航平続けてんのか!じゃあ今日1対1やろうぜ!」
「嫌だよめんどくさい」
「なんでだよー、あ、負けるのが怖いんだな?」
「そんな安い挑発には乗らねえよ。さっさと戻れ。あとノート返せ」
「あ、悪い。ノートありがとな!これで俺は生きていけるぜ!」
そう言うと松田は自分の席に戻っていく。
「赤坂航平…?元バスケ選手ねぇ…。ふふっ」
「斎藤さん?おーい」
「えっ!?ああ、ごめんなさい話しの邪魔しちゃって」
そう言うと何かぶつぶつ言いながら斎藤さんも戻って行った。
「ふーん。航平君が有名中学のバスケのエースとはねえ…ほんと、全然そうは見えないわ」
「うっせ、昔の話だよ」
「でも続けてるんでしょ?今日の体育、期待して見てるね」
「やめてくれ、俺は今回も目立たないように隅でひっそりやるんだから」
ほんと、目立つのはもうこりごりだ。松田のチームと当たる時は松田とのマッチアップは避けないとな。さて、授業始まるまで寝るか。
「…もう授業始まるよ?なにうつ伏せになってるの?」
「え?マジ?」
…今日は嫌な日になりそうだ。
1時間目と2時間目を終え、3時間目の体育。男女別れてバスケをやることになった。
そして運命のチーム分け。松田と一緒になると、ボール回って来そうだし、松田とは組みたくないな。そう思い距離を取る。
「おーい、松田!組もうぜ!」
「いいぜ!俺と小山田2人いれば楽勝だろ!」
心配は杞憂だったようで松田は同じバスケ部の小山田とかいう180cmを超えるやつと組んだようだ。
俺はいわゆるあまりものが集まるチームに入る。これで完璧だな、あとは適当にこなすだけだ。
「次!AvsD!」
先生の声が響き渡る。ついに松田のチームとの対戦のようだ。
「キャー!小山田君!」
「小山田君頑張って!」
「小山田君ダンク見せてー!」
反対の女子のコートから歓声が上がる。小山田は相変わらず女子から人気だ。
「くそっ!なんで小山田ばかり…」
松田…ドンマイ。
「いや。別にいいんだ。斎藤さんや吉崎さんさえ見てくれれば…わかってくれればいいんだ」
さすが松田。めげないやつだ。さて、それじゃ目立たないように端っこにでも行くかな。
「…!?」
今ものすごい寒気がしたぞ!?一体誰が…?そう思い辺りを見回すと、じっとこっちを見ている目が1つ。優花だ。まるで、「いい加減サボるのやめなさい!」と言いたいかのような目だ…
俺はその視線を出来る限り気にしないように前を向く。落ち着け。視線にはある意味慣れてるだろ。
「試合開始!」
雑念を振り払っていると、ジャンプボールで試合が始まった。やはりボールを取ったのは小山田。俺のいる方とは反対から一気に2人をドリブルで抜き去ってレイアップを決めた。
「キャー!小山田君カッコいい!
女子の方からも歓声が上がる。うるさいとは思うも、仕方ないので端っこでいつも通りやり過ごそうと心に決めた。
「おい!小山田!そろそろ寄越せ!」
小山田の独壇場が続く中、痺れを切らしたのか松田が騒ぎ出したようだ。
「悪い!ほら、松田、お前もスカッと決めてこいよ!」
「よっしゃ任せろ!」
小山田から松田にボールが渡り、俺の斜め前にいる遠山を軽く抜き去り俺の前に来た。
「よお航平。久しぶりに1対1だ!」
「はぁ…適当に抜いてけよ」
「お前本当にやる気ないな…吉崎さんに呆れられるぞ」
「なっ…なんでお前がそれを?」
「ん?だって吉崎さんずっとお前見てね?流石に気づくわ」
松田のやつ、変なところで勘がいい。
「別に俺には関係ないだろ」
「そうか?まあいいや、もし俺からボール奪えたら昼飯奢ってやるよ。あと、お前が欲しがってたゲームの予約、並んでやるから、な?」
「え、マジで?いいのか?」
「お、おう…その代わり俺から取れたらだぞ」
「もちろんだ。久しぶりにやる気出てきたわ」
もしこれで奪えれば夜中から並ばずに済む!しかも昼飯代も浮く!最高だ!
「おい松田!何やってんだ!喋ってないでさっさと決めろ!」
「お、そうだな。航平、そろそろ行くぜ」
そう言うと松田は一息に俺を抜き去ろうと動く。しかし俺はそれよりも早く動き松田からボールを叩き落とし、ボールを奪い取る。ギャラリーが騒ぎだすが、それどころではない。
「なっ…!?」
「俺の勝ちだな!約束守れよ!」
そう言って俺は周りを見る。
(パスルートないな…。めんどくさいけどこのまま行くか。)
ドリブルでゴール前に行くと小山田が立ちはだかる。
「ここは通さんぞ!」
確かに身長故かすごい圧だな…でもこれくらいなら抜けるっ
「なにっ!しまっ…」
小山田を抜き去るとレイアップを決める。
「えっあれ誰?」
「多分…赤坂君…?」
「いやいや、そんなまさか、あの目つき悪い赤坂が?」
女子がうるさい。しかも目つきは余計なお世話だ。
「赤坂…お前…」
「航平マジかよ…」
小山田の目が変わった。周りのやつも俺を見ている。はぁ…こうなるから嫌だったんだよ…
結局、試合は負けてしまったが俺はあれからレイアップを2本、スリーポイントを3本決めた。そのせいで周りの視線は鬱陶しいしそれに
「おい赤坂、お前どこで練習してんだ?いや、そんな強いならバスケ部入れよ!な?」
「そうだぞ航平!怪我も治ってんだろ!また一緒にバスケやろうぜ!」
小山田と松田、この2人がうるさい。
「俺は部活はもうやらない。それはもう決めたんだよ」
「いやいや、そんなこと言うなって。絶対レギュラー狙えるだろうし!やろうぜ?な?」
何度言っても聞かないしつこさに悩んでいると
「ねえ、うるさいんだけど。他所でやってくれない?」
「ごめん吉崎さん。じゃあ赤坂、向こうで話そうぜ」
「いや、だから入らないって…」
「実はな、2年生の超可愛い女子マネージャーがいるんだよ、紹介してやるから、な?
「マジ?おやま…っ!」
優花に思いっきり足を踏まれた。うるさくて悪かったから勘弁してくれ…
「おやま?ああ、心配するな、大きなお山が2つあるぜ」
「へぇ…」
優花に足をグリグリされた上に脇腹をつねられた。無茶苦茶痛い…なぜだ…
「…小山田君。赤坂君も迷惑してるし、もう諦めたら?」
優花がここで助け舟を出してくれた!でも、その声はすごい無機質で超怖いんだけど、助けて…
「いいや!俺は諦めない!赤坂はバスケの逸材だ!」
「小山田君?」
「い、いや、だから誰が何と言おうと…」
「………」
「わ、わかった。赤坂、また今度な…」
「あ、ああ…」
小山田は額に汗を浮かべながら自分の席に戻っていった。優花、恐るべし…
「あ、ありがとう吉崎さん。助かったよ」
「吉崎さん?」
「い、いや、優花、ありがとう…」
「別にいいけど、今女子マネージャーに釣られたでしょ?」
「け、決してそんなことは…」
「…」
「…すみませんでした」
優花のジト目に勝てる日は永遠に来ないだろうな…、やっぱり碌なことにならなかったな…、そう思っていると、優花がいきなり顔を近づけて
「でも、今日の航平君、カッコよかったから許してあげる」
…たまには頑張るのも悪いことじゃないな。
後書き
リハビリ?で投稿します。ちょっと今回長めです。
優花視点は次話の予定。
キャラの口調ブレてたら勘弁です🙏
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