Regame 格ゲーオタクと空手少女

久坂下さく

プロローグ


 名称:アルティムプレイン2(仮)

 ジャンル:ヒューマンドラマ2D対戦格闘ゲーム

 開発元:株式会社グラディエーションズ

 代表プロデューサー:須藤庵


 

 

「次回作、次回作ねえ……」



 小綺麗なオフィスの一画で、アルティムプレイン、通称アルプレのプロデューサーである須藤庵すどういおりは、束ねられた企画書を少しだけ気怠そうに眺めていた。



「そりゃあこれだけの反響があるのに次回作をつくらないなんてのは、我々にとってもユーザーにとっても大きな損失ですよ!」


「そんなことは分かってるよ。今日中には目を通しておく。考えに集中したいからしばらく一人にしてくれないか?」



 そう伝えると、クールビズ期間中なのにやけに暑苦しさを感じさせる半袖ワイシャツの男はあっさりと引き下がった。

 おおかた須藤が一人にしてくれと言ったときは言う通りにしておけと、教育係に強く言いつけられているのだろう。


 会議室の扉がしっかりと閉まるのを確認してから、須藤は口の端をニヤリと吊り上げた。



「……新作もいいけど、やっぱり私の創りたいモノは現実ここじゃ創れない」



 須藤はポケットから小型の端末を取り出し、その表面を指でサッとスライドする。

 すぐさま青い光が彼の全身を包み込んだかと思うと、後には誰もいない会議室が残されるだけだった。



 

 青い光から解放されると、目の前には広々とした豪華な客室があった。


 須藤はゆったりとしたソファを通り過ぎ、向こうからは見えない特殊な窓から外を見下ろす。


 視界に映るのは戦いの舞台である中央のリングと、リング上の様子を映し出す巨大スクリーン。


 スクリーン上ではいかにも勇者といった装備で固めた少年と、こちらもいかにも魔法少女然としたフワフワのフリルを纏う少女が剣とステッキを交えていた。


 お互いの攻撃が相手に当たるたび、スクリーンに映る両者の頭上の黄色いバーがどんどんと削れていく。この戦いではあのバーが先になくなったほうの負けとなる、いわゆる体力バーだ。


 魔法少女の体力バーが黄色から赤色へと変化し残りわずかといったところで、勇者が盾を振りかぶるような動作を取り、スクリーンの背景が暗転する。


 勇者の下の青いゲージが轟々と燃え上がり、消失すると同時に暗転が解かれ勢い良く盾を真っ直ぐに投げた。


 その盾は魔法詠唱中だった少女に直撃すると、少女に重なる形でその場で急速回転、竜巻を巻き起こす。


 竜巻は次々と魔法少女の体力バーを削り取り、最後には落雷を与えて黄色に満たされていたバーを空にしてみせた。


 少女は空中に打ち上げられた後、そのままドサリと床へ倒れ込んだ。少女に投げた盾が跳ね返ってきたのを勇者は受け取ると、その場で剣を掲げて勝利を観客へとアピールしている。


 スクリーンには右手をあげ歓喜の雄叫びをあげる勇者のプレイヤーと、顔を伏せ泣き崩れるプレイヤーが交互に映し出された。



 勝者は敗者の生殺与奪を得る。生かすも殺すも奴隷にするのも思うがままだ。



 少しの時間を置いて、リング上に横たわっていた魔法少女は紫の業火に包まれた。


 魔法少女は声にならない叫び声をあげ、そのプレイヤーは思わずリングに向かって手を伸ばすが、ついには目を逸らしてしまう。


 徐々に紫炎が消えたかと思うと、そこに少女の姿は跡形もなくなっていた。


 ワァ────ッ! と、会場をありとあらゆる歓声と感情が満たしていく。



 ……ゾクリとした。


 先ほどの試合の一連を見て、須藤は口の端が吊り上がるのを抑えきれない。


 血湧き肉躍る珠玉のエンターテインメント。その完成系が異世界ここでなら創りあげられる。



「……ふふふ、これだよこれ、やっぱり本当の戦いはこうでなくちゃなあ!」

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