北へ

「で、アデル君はどこに行くんだい?」




「遠い所。」




「もっと詳しく教えてくれよ。」




「具体的な所は決まってないんだ。とりあえずこの国から離れられればいい。」


理想を言えば反人族至上主義の国、南の亜人公国か、


絶対中立国、北の異人王国のどちらか。




前者は人族を忌避するあまり人族側で勝手に反人族至上主義という呼び名がついたが、優しい人族に対しては優しい。


目には目を、歯には歯を、の考えなのだ。




後者はどの国からの干渉も受けず、異邦人と呼ばれる別世界からきたものが支配している。




「んー。北の異人王国はどうだ?」


ランドが聞いてくる。




「奇遇だな。俺も同じことを考えてた。ただ、」




「ただ?」




「ここからじゃ亜人公国の方が近くないか?」


今俺たちがいるのはハイル王国の南東部分だ。


ハイル王国は最東端の国。その南東にいるのだから南に下がった方がいい。




「あーそれはだなあ。」




「亜人は基本的には優しい。こちらから手を出さなければ何も無いと思うのだが。」




「実は、亜人戦争の時に少しやりすぎちまって、亜人達からすっげえ恨まれてると思うんだよな。」




亜人戦争とは、人族と亜人族の大規模な戦争のことだ。


始まった経緯が何もわからない、謎の大戦として、未だ研究者達の心を震わせている。




「はぁ。じゃあ北まで行こう。その代わり、全て徒歩+野宿だからな?」


ランドの戦力としての裏付けができたから良しとしよう。




「おう。俺が今まで得た知識をフルで教えてやるぜ。」




こいつに罪悪感は微塵も無いようだ。




「まずは、この街から離れよう。そこからだ。」




俺たちはその場から北へと歩き始めた。






「ランド、地図ない?」


異人王国に行くと決めたはいいが、俺はそこまでの道のりを一切しらない。




「ん?ないぞ?」




なんでそんなあっさり希望を打ち砕いてくるんだ...。




「あ、異人王国への道がわからないのか?」




「ああ。バルカス領からでてまだラルク領近辺しか歩いたことがないからな。」




「ふっ、そういう時は、歩く世界地図こと、このランドに任せろ。」


胸をドンと叩いて自信満々にランドが言い張る。




「だから、地図買ってきてくれ。」


そんなものは無視して地図の購入を要求する。




「え?いや、俺今歩く世界地図だって言っただろ?だから世界地図は買わなくていいし、まずそもそも買うとしてもここら辺に街がないだろ!?」




「?」




「なんで首傾げてんだよ!」




「人は簡単に嘘をつく。信じられるのは自分の目で見たものだけだ。」




「いや、流石に疑り深過ぎないか?仲間のこと位信じてくれよ。」




「じゃあ、ここら一帯に何があるか言ってみてくれ。方角も指さしてくれると助かる。」




「おう。まず東には───。んで、こっちには───。」


ランドが順番にここら辺のものを教えてくれる。




「こんな感じだ。」




「ふむ。確か、北にマルム村があるって言ったよな?」




「ん?ああ、ここから少し行った所にあるはずだ。」




「地図、頼んだ。」




「ん?何をだ?って俺の呼び方はいつから地図になったんだ。」




「何言ってるんだ?お前はランドだろ?さっきランドが言ったのが本当かどうか確かめたいから地図をマルム村で買ってきてくれ。」


いたって真面目な表情で言う。




「え、俺が一生懸命頭の底から絞り出したのに...。


わかった。買ってくる。それでいいんだろ?」


やれやれと言いながら、ランドは歩いて言った。




「うーん。確かに今のは疑り深すぎるかもしれないな。


やっぱり最初裏切りに近いことされたからかな。


「 ...直さなきゃな。」


仲間なんだ。仲良くやっていかなきゃまた失う。


みんなみたいに。


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