世界最底辺の逆襲

希望の花

無才の少年

「これより、祝福の儀式を行います。」




祭壇に立つ神父がそう言って手を胸にあてる。




今から始まるのは、祝福の儀式。


この世界で、10歳になった子供が、唯一神メルクから


『才能』と呼ばれる神からの祝福を貰う儀式だ。




貰った『才能』は、今後の生活に大きく影響する。




例えば、剣の才能を授かった者は、王都に行き、


王国近衛兵となる。


逆に、農耕の才能を授かった者は、土地を耕し、


農作物の栽培などを仕事にする。




当然、近衛兵と農家では給金の差がかなりある。




つまり、これから授かる『才能』で、今後、勝ち組人生を


送れるか、負け組人生を生きるかが決まるのだ。




それを知っているからこそ俺の周囲にいるこいつらの


表情は硬い。




「───神の祝福を」




神父が唱えた瞬間、脳裏に光が走る。




「では、一人一人この鑑定の水晶に手を触れてください。」




儀式が終わり、今から与えられた『才能』を確認する。




神から授かったものは、神の祝福を受けたものでしか


測れないのだ。




一人一人、震える手つきで水晶に触っていく。




「槍の才能ですね。おめでとう。あなたはこれから


神の名の元に国を守るのです。」




「よっしゃあ!!」




一人の男子が、槍の才能を授かって歓喜の声をあげる。




それを、周囲は羨望の眼差しで見る。




自分にも、あのような才能が与えられるのだと期待して。




しかし、現実は、あまりにも非常だった。




「こ、これは!?」




俺の番がやってくる。当然、先程までのやつらと同様、


結果をすぐ言われるものだと思っていたが


神父さんが固まり、一向に口を開こうとしない。




やがて、


「これも1つの運命なのでしょう...。」


神父さんが小声で呟いた。




「アデル君と言ったかな?君の『才能』は無い。」




「ぇ?」




神父が可哀想にと言った顔でこちらをみてくる。


周りから失笑が聞こえる。




もう一度言おう。この世界では、


10歳になった時、唯一神メルクから『才能』と呼ばれる


祝福を授かる。




祝福。つまり、神からの寵愛の証。それが、俺には与えられなかった。




必然的に俺は、神に見放された存在となる。




「ま、待ってくれ。もう一度、儀式をしてくれないか。」




ただ1人の神を信仰する世界で、神からの寵愛を受けれなかった。つまり、俺は神敵とされ、殺される可能性が異常に高くなる。




「不可能です...。」


神父の目は悲哀に満ちている。




「『才能』を与えられるのは10歳になった年の最終日、


アデル君で言えば今日、この一回きりしか


祝福の儀式はできません。」




「嘘だろ...。」




「では、みなさん、祝福の儀式はこれまでです。


各自、自分の才能に埋もれないよう、努力してくださいね。」


神父さんはそう言い、去っていった。




俺に最後、もう一度悲哀の瞳を向けて。






みんな、去っていく。




神父さんも、一緒に儀式を受けた子供達も。




誰も居なくなった。




俺も、出ていく。




一人、すっかり日が落ち、真っ暗になった夜道をトボトボと歩いていく。




「おい、アデル」




唐突に後ろから俺の名前が聞こえる。


後ろには、一緒に儀式を受けて、槍の才能を受けたソウがいた。




「お前、才能なんもなかったらしいな」




子供が故だろう。弱いものを踏み躙り、自身の強さを


誇示したいそういった欲が丸見えだ。




「なあ、俺と少し練習しねえか?『才能』の」




ソウが嘲笑気味に言ってくる。




「嫌だ。」




その表情に嫌悪を抱き、反射的に断ってしまう。


癪に障ったのだろう。


「いいからこいよ!」




「嫌だって!お前、俺が誰か知ってるのか!」


首根っこを捕まれて引きずられていく。




「ん?お前が誰かって?そんなの知らねえわけねえよ」


笑いをこらえたような仕草でそいつは口を開く。




「なあ、バルカス領の領主の元・息子。」




「そうだ、俺はバルカス領主の息子だ。


お前達をバルカス領に住めなくしてもらうことも


できるんだぞ!」




子供の常套手段、虎の威を借る狐。


それが領主の息子なら確実に領民の子供は大人しくさせることが できる。




「ん?なんか勘違いしているらしいな?」




「なに?」




「お前はもう、バルカス家の人間じゃないぜ」




「...は?」




「お前に才能がないってことが相当ショックだったんだろうな〜?領主様は悲痛な顔を浮かべて、バルカス家にアデルという子供はいないと言ったんだってよ。キャハハ」




愉快そうに、ソウが笑う。




「嘘だ...。父さんが、そんなこと言うはずがない!」


信じたくなかった。


だって、いつも父さんは、笑って、俺を可愛がってくれた。




「まあ、信じなくてもいいけどよ。どうせ後でホントのことだって知るんだからな。」




嘘だ。嘘だ。嘘だ。




一目散に家へ走り始める。が、誰かにブレーキをかけられる。




「おいおい、俺と練習しようぜ?な?」




ソウの手が、俺の手首を離さないよう握り締めていた。




「今はそれどころじゃない!」




強引に手を振り切って走ろうとするが、手の拘束を外せない。




才能を貰った人間全てに起こる、全ての身体能力の向上。




「明日だ。明日つきあってやるから今はあがッ」


手の拘束が強まる。


「それはできないな〜?だって、お前明日にはいねえもん」




「なに?」




明日、俺がいないだと?




「そんな訳ない。」




「いや、絶対にいないね。」




「じゃあ、賭けるか?俺が明日ここに来たら、お前は俺の奴隷だ。」




「いいぜ。でも、お前が来なかった場合、次期当主は俺にしろ。」




俺が来ることは間違いなく、もし来れなかったとしても


次期当主になるにはバルカス家の人間になるしかない。


もしこれなくても何も変わらない。




「成立だな。じゃあ、放せよ。」






返事がない。


よく見ると、肩が小刻みに動いている。




気味が悪くなった俺は、最初より緩んでいる手を強引に


振り切り、全速力で家へと駆け出した。




その後ろから、高らかな哄笑が聞こえていた。



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