様子見
あなたは武器を地面に刺したまま後ろへ下がりました。
一歩、二歩下がってもスライムに動き出す動作は見えません。
そのまま十分な距離をとってもそのままです。
誰一人として言葉を発するものはいませんでした。
風と風によって揺れる草木の音がするだけでした。
「ぷるん」
スライムが動き出しました。
体をプルプルと左右に揺らしています。
次第に斧がスライムの体の中に包み込まれ始めました。
それでもあなたは動くこと無くスライムの様子を見ていました。
スライムは反対に体の動きを止めようとしません。少しずつスライムの体の中から泡のような気泡のようなものが上へと移動しているように見えました。時間とともにその空気はスライムの体の中で増えていきます。
「お、おい」
ボイが言いました。
ボイを見ると、ボイはスライムを指差していました。
「あれ、溶けてないか」
スライムの体内にある自慢の斧が刃こぼれを起こしていました。地面に叩きつける前にはそんな様子は無かったにもかかわらずです。
「あ、ああ、マイスイートアックスがぁ」
「おい、落ち着け」
「落ち着いていられるか!」
スライムが少しずつ溶かしている斧はあなたが最近見つけたばかりのこの世に2つとないものでした。
「こんな、こんな犠牲のためじゃないのに」
「ボイの言うとおり落ち着くのであってよ」
「そうです。落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるかって、よしこうなったら力づくでも」
「辞めろ、代わりになるものを一緒に探してやるから」
「嫌だ。あれはあれだけで他の物じゃ変わりにならない。だから素手でも」
「ボイ止めるのであって」
「おう」
「離してくれ、辞めてくれ、そんな、囮のためじゃないんだ。こんなこんなときのためじゃあ」
「残念だがこんな常態じゃ戦闘続行不能だ」
「逃げますよ」
嫌だ。
イヤダ。
いやだいやだいやだ。
「いやだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「うるさい」
「おうふ」
そこからの記憶はありませんでした。
気づいた時には森を出ていて手元には斧も捜し物もありませんでした。
「部屋の隅で座ってたって斧は見つからないぞ」
「知ってます」
「行くぞ」
「嫌です。もう嫌です」
仲間達は何日もあなたのもとを通っていました。
それでもあなたは部屋の隅で座って動こうとはしませんでした。
腕を引っ張られようとも体をくすぐられようともその場を離れようとはしませんでした。
END 大切な物
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