神の手
「これは……!」
今まさに見つけてしまった。
存在しないと言われていた化石だ。
これさえあれば今までの私に向けられてきた罵声の数々は誤りだったと証明できる。
「フ、フハ、フハハハハハ!」
「見つけちゃいましたか」
背後から声。
そんなばかな。追っ手がいるはずはない。ココは無人の洞窟だ。それに足音が響くのだから誰かが近づけばそれだけでわかったはずだ。
「……誰だ……?」
「誰ってヒドいな〜あなたがいつも目の敵にしてくるワ•タ•シを忘れたんですか〜?」
この甘ったるい声。舐めたような喋り方。明らかにコイツはスイートだ。
「一体何のようだ」
「ワタシ、あなたにそれを発表されると困っちゃうんです」
「だからどうした。私のことを散々バカにしてきたのは君のほうじゃないか」
背中越しに語り合うこの状況。化石を守るためにも安易に振り返ることはしたくない。しかし、このままではスイートが何をしてきても対処できない。
「そうですね。なら、それ以外のものなら何でもあげますからそれをワタシに渡してください」
「フン。いまさらそんな言葉に騙される私ではない」
サラサラと衣の擦れる音が響いた。
足音さえしなかったというのに背後では一体何が起こっているというのだ。別の人間が来ているのか。
「本当に本当ですよ。ハイッ」
近くに投げられたのは彼女の来ている白衣だった。
「これはどういうことだ」
「ご想像におまかせします」
この中に極秘資料でも入っているのか? それともこれ自体が特殊な物か? しかし手を伸ばした瞬間に私に危害が及ぶのでは?
「何者だ!」
「ワタシですよ。フフフ。振り向きましたね」
「君じゃない! 何者だ」
「…………」
現れたのは男だった。
全く見覚えのない姿に目を凝らすが記憶にはない。
「一体なぜ私は邪魔されなければならないんだ」
「当たり前だろ!!」
怒りが込められたようにいきなり大声を出した男の声によってガラガラと壁が少し崩れた。
スイートもいつもの威勢が嘘のように私の背中ニキビ隠れている。心なしか震えているように思う。
「お前はいいよな! 彼女に注目してもらえて! 俺はいつまで経っても相手すらしてもらえない」
「何が言いたい」
「女を渡せ!」
振り返ると彼女はフルフルと顔を振っている。顔面蒼白ではいどうぞ差し出す気分にはなれない。
「断る」
「なぜ、さっきまで敵対していたじゃないか。結局はあれか嫌いと言いつつ好きってやつか……じゃあ。さよならだ」
洞窟の中が一瞬光り輝いた。
男は艷やかな黒い物体を握りしめて驚いたように目を見張っていた。
「嘘……だろ?」
その言葉を最後に体を引きずりながら出入り口の方向へ駆け出した。
金属質な落下音がした。乾いたその音の原因は足元の物体。
今ここで何が起きたのかサッパリ理解に苦しむがしかし彼女を良からぬ男から守れたのだろう。
「無事か?」
「はい。ありがとうございます」
「話の続きだが……」
彼女は遮って話しだした。
「いえ! その化石は博士が発表してください!」
「良いのか? ん、博士?」
「はい! ワタシを助手にしてください!」
スイートはそう言って私の手を握りしめて目を見つめてきた。
化石を渡すことに比べれば安いものだ。
「よかろう。しかし、ラクではないと思うぞ」
「はい! 頑張ります」
「……いずれ恩を返して、そしたら……フフフ」
「何か言ったか?」
「い、いえ」
彼女の頬は赤く染まっているように見えた。
「…………
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