第17話

父から許しが出た直後、ユミルは騎士団の訓練に再び同行することになった。

もちろんラスも同行している。


今日のユミルは、前回のように突然魔物が現れてもすぐに動けるようにと乗馬用のキュロットを着用し、綺麗な金髪をポニーテールに結っていた。


今回魔物の討伐訓練を行う場所は山道だ。

馬が入ることのできない道のため、魔物の出現場所まで歩きとなる。


「ディーダ嬢、足元にお気をつけください」


ユミルを気遣ってエスコートするように手を差し出したのはローツだ。

一番最初に討伐訓練を見学した際のようにユミルの護衛は彼が勤めている。


「ありが……」

「ローツ様。お嬢様には私がついていますのでどうぞ護衛の任務に集中なさって下さい」


手を伸ばしかけたユミルの手を自分の腕に導きながら二人の間に割って入ったのはラスだ。

ローツは驚いたように目を数回瞬かせた後小さく微笑み頷く。


「……そうですね。では私は今度こそディーダ嬢を危険な目に合わせることがないよう誠心誠意、勤めさせていただきます」


そう告げ数歩前を歩きだしたローツの背中を見ながら、ユミルはちらりとラスに視線を向けた。


「……ねぇラス。今までこんな風に気を使ってくれたことないのに、どうしたの?なにか悪いものでも食べた?……それとも貴方は本物のラスじゃなくて中身が紳士になった偽物のラスなんじゃ……?」

「思考が飛躍し過ぎです」


声を潜めて尋ねればラスはため息混じりに告げる。


「う……じゃあどうして急に気遣ってくれるのよ?」

「……どうしてでしょう?」


問い掛けられたラス本人もなぜローツの変わりに自分がユミルの手を引いているのか良く分かっていないらしい。


「きっとローツ様ではお嬢様の手綱を掴むことは出来ないと思ったのかもしれません」

「私は暴れ馬じゃないわよ!?」

「失礼、じゃじゃ馬でしたね」

「くっ……私の執事が無礼すぎる……っ!でも事実だから言い返せないっ……!」


容赦ないラスの物言いにユミルは唸りながらも言い返さない。

普通の貴族なら侮辱されたとクビにされてもおかしくない言い方だが、ユミルは気にも止めない。寧ろそのやり取りを楽しんでいるようだ。


声を潜めているとはいえ、後ろから聞こえてくる楽しげなやりとりにローツは思わず笑みを溢す。まるで仲のいい兄妹のようなやり取りだ。


そんな会話を聞きながら山道を進んでいけば五分ほどで魔物の出現場所に到着した。


既に数人の騎士と彼らを率いる指揮官のライアンが訓練の準備を始めているようだ。


「前回に比べて人数が少ないわね……?」

「今回の訓練はテストをクリアした者しか参加出来ない訓練ですから、前回に比べて人数が少ないんですよ」


騎士達を見つめては首を傾げるユミルにローツが説明をする。


「テスト……私達は受けていませんが、参加してもよろしいのでしょうか?」

「ディーダ嬢の実力は前回しっかりと見せていただきましたから問題ありません」


テストという言葉に目を瞬かせたユミルにライアンが近付いてくる。


「モトリー様。先日はありがとうございました、今日もよろしくお願いします」


ユミルが挨拶するとライアンは目を細めては微笑む。


「こちらこそ、よろしくお願いします。クロバー、ディーダ嬢の事を今度こそしっかりとお守りするように」

「はっ!」

「それではディーダ嬢、これから訓練を開始しますので見学は少し離れてお願いいたします」

「はい、お気を付けて」


簡単な挨拶を交わして訓練の準備をする騎士達の元に戻るライアンを見送り、ユミルは前回同様用意された簡易椅子へと案内される。


「いいお肉が手にはいるといいのだけど……出来れば牛っぽいやつが」

「お嬢様、彼らの本来の目的は魔物の討伐訓練ですからね?」

「……わ、わかってるわよ!」


嘘だ、と言うようなじとっとした視線を向けるラスから無理矢理目をそらしユミルは騎士達に視線を向ける。


二人のやり取りにローツは軽く咳払いをして笑いそうになるのを堪えるのだった。

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