悪役令嬢は肉が食べたい!

枝豆@敦騎

プロローグ

「野郎共、肉狩りだー!」

「「「「うおおおぉー!!」」」」


突如上がった雄叫びの中心にいるのは妖精かと思われるほどの美しい金髪を靡かせた十代後半の美少女。

シンプルなレースのついた上着を翻し剣を構えるその姿は勇ましくも愛らしい。


「お嬢様、その言葉遣いは公爵令嬢として相応しくないかと」


ぐっと握った拳を頭上に高く上げた美少女に苦言を呈するのは艶のある黒髪を後ろに撫で付けた青年だ。


「硬いこと言わない。こういうのは雰囲気と気合いが大事なのよ!」


青年の注意など気にも止めず美少女は構えた剣先を正面にいる獲物に向ける。

その獲物とは巨大魔物牛だ。

普通の牛と比べれば十倍くらいの大きさもある魔物の牛、この世界で唯一食べることが許された牛である。しかも興奮しているのか鼻息が荒い。

これだけ巨大であればほとんどの人間は逃げるか怯えるのが普通だろう。けれどこの場にそんな反応を示す人間は誰一人としていなかった。

魔物牛に挑もうとする彼らの思いはひとつ。


"これだけ大きければ美味しい牛肉をお腹いっぱい食べられる"


そう、彼らは正義の為に魔物牛を退治しようとしているわけでも自分の戦闘力を試すために力ある魔物に立ち向かおうとしているわけでもない。

ただ美味しい牛肉が食べたいだけなのだ。


「さぁ、狩の時間よ。覚悟なさい牛肉ちゃん!美味しいステーキにしてあげるわ!」


ひらりと飛び出した美少女を先頭に彼らは魔物牛に一気に飛びかかった。

"美味しい牛肉を食べる"為に。














これは肉に恋い焦がれた一人の令嬢と彼女の影響で美味しい牛肉を求め、最強と言われる魔物を倒すまでに至った人間達の物語である。






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