第61鮫 鮫家
「私はこのヒョウモン島を護る精霊のグラーキと申します。あなた方はどのような理由でここへたどり着いたのですか」
今精霊と言ったな?
よし、これでちりばめられていた点と点が1本の線に繋がったぞい。
まず、このグラーキとやらが上位の精霊なのは間違いないじゃろう。
タコオックは精霊を擬似的に再現する技術を得た上で、この島に上位精霊がいる加護だけを独占しながら本人達は己に干渉できないよう御札を造り、元いた場所から外へ干渉ができない封印を施した。あとは、ハスターを島の制御AIにしてしまえば対霊術に覚えのあるモノ以外にまともなダメージ与えられない神様の出来上がりじゃ。
対霊術とやらは聞いている限り魔王すら知り得ないマイナーな技のようで、使えるからと言って勝てるわけでもないんじゃろうが、日記で除霊していた通りタコオックはサラムトロスでそれを学び、御札の制作までやり遂げておる。
元々、精霊の存在に目をつけておったのは間違いないじゃろう
突然4日目を境にタコオックが変わってしまったという記述も、全ては幽霊の確認により上位精霊が島にいた事を確信したのがきっかけに見える。
精霊だって〈サラムトロス・キャンセラー〉に押し負ける以上、この世界において無敵の存在を最初から造り上げるのが目的でジード・メッシーと旅をしていたと言っても過言ではないわい。
では、情報も整理出来た。なら、とりあえずはグラーキにこちらの事情をちゃんと語ろう。
「
どうにもサメティマスに乗っておるわしらの声を認識しているようで、精霊という不思議な存在と割り切り素直に受け答えした。
鮫神様と違いサメを感じない上にハリセンボンアンコウなのは不服じゃわい。
「ちょっと言っている意味が後半分かりませんでしたが、一旦置いておきます。タコオックはこの島をめちゃくちゃにした上に私も遺跡と共に丸ごと封印されました。ここにいる魚達は何とか引き寄せて彼の手に染まらないようにした結果です。彼は自分勝手な悪人でしかなく、その存在を許すことは未来永劫ありません!」
正直時間が無いので、長話をされないように上手く会話せねば。
あのビーチのおかげで石像はだいたい強いサメになると分かっておる。交渉スタートじゃ。
「そちらの状況は分かったのじゃ。なら、あやつを倒す為にもその奥の石像をサメにさせてはくれんか」
シャーク交渉術の1つ、最初から目的を言ってしまう作戦!
こういう立場が強くて優しさが声に滲み出ている奴には過程を省いて結果だけを要求する方が手っ取り早い。
「このジジイは触れたものをサメっていう別世界の魚と融合させてパワーアップさせる力を持ってるんだ。その石像は本当に頼りになりそうで貸してほしい」
彩華もフォローしてくれた、交渉は順調そうに見える。
しかし、精霊とやらはこう言い返して勿体ぶってきた。
「それは精霊王クトゥルフの石像です! 偉大なるクトゥルフ様は私の生きるモチベーションなので困ります!」
「あ、サラムトロスにいるんだ、クトゥルフ」
「私のようなただの上位精霊は現世に留まっていますが、クトゥルフ様は人々を見守る偉大な精霊王なのですよ!」
話の通りじゃと、実は彩華が言っていたクトゥルフ神話の怪物や神々はサラムトロスに実在しているものの、所謂邪神ではなく人を護る精霊の立場なんじゃな。
その辺を踏まえれば、無敵のタコを生み出すのが目的なだけでなく、タコオックは真実をハッキングで知ってしまったから、クトゥルフが精霊である事実を否定するために邪神として再現を始めたとも考えるべきじゃろう。
おそらく、似たようにハスターも上位精霊なり精霊王なりでサラムトロスのどこかにいるとすら考えられる。
それこそ、彼がサラムトロスで求めていたのは精霊の加護が存在する地図にない島で、精霊の存在を否定するために動いてきたと解釈すればいろいろな辻褄も合う。
わしだってサメがサラムトロスにいたとして微生物限定じゃったら悲しくて怒ってしまうかもしれんし、気持ちはすごくわかるぞい。
それらを踏まると、無敵の力も手に入り受け入れ難い事実を否定できる。あまりにも
「そ、そこを何とかしてくれんか……?」
とはいえ、今はその精霊王クトゥルフの石像がほしい。なんとしてでもほしい。
喰い殺してでも奪いたいほどじゃ。
「現実を受け入れてください! 無理なものは無理です! そもそもサメなんてよく分からないものにさせる訳には行きません!」
「そこだけは正論だな」
じゃが、こいつの言い分も普通に自分勝手で腹が立つ。
サメを侮辱されたのもあって怒りが収まらず、つい叫んでしまったぞい。
「うるさいのう! サメについて語り合える友達がピンチなんじゃ! それに時間を稼いでくれている仲間を死なせる訳にはいかんじゃろうて!」
気付けばサラムトロスにいる間に、日本に居た頃では得られなかった物をたくさん得ていた。
そのせいか、ちょっと不思議な本音になってしまったぞい。
まあ、サメがおらん世界にずっと居たいかと言うとNoではあるがな。
「……しょうがないですね、私も少し興奮しすぎました。石像のひとつやふたつ持って行って下さい」
「その、なんだ、今度機会があったら似たようなのを魔王に手配してもらうから、今回はこのジジイに力を分けてやってくれ」
「確かに、あの方なら何とかしてくれそうですね、なんかもうどうでも良くなってきました」
ということで、交渉も完了した。
大体あれから10分は経っておる……ハンチャンが耐えられているのか心配じゃ。
急ぎながらもサメティマスで石像へ接近し、彩華は助手席に乗せたままにしつつその場で降車しながら泳いで触れて〈シャークゲージ〉を注入したぞい。
「モゴ、モゴモゴ!モゴ!(この際1日分全部投入じゃ!
こうして〈シャークゲージ〉を得た石像はビキビキと全体にヒビが入り始めた。
そして、そのヒビが伝い、バキン! と音を立てるとそのまま全身が崩れていき……中から究極のサメが現れる!
羽の生えた人間的シルエット! ヒレでできたコウモリの如き大きな翼! 巨大なサメの頭部! そこからヒゲのように生えるサメの頭部が伸びたヘビのような触手ヘビヒゲザメ! 大きな鉤爪! 筋肉バキバキな胴体! 踵に生える刃めいたヒレが素早い動きを予想させる! 全身を覆うしなやかな鮫肌! これぞ、究極のシャークトゥルフ!
「モゴ、モゴモゴーモゴー!(記念すべき異世界サメ34号"スピリット・オブ・シャークトゥルフ"じゃー!」)」
そうして肩の上に乗り、その大いなる精霊鮫は天井を突き破って空へと舞い上がり、敵の元へと駆けていったのじゃ。
「ぷっはぁ、そろそろ呼吸も限界じゃったわい」
「その歳でよくそこまで息を止めてられるな……30秒は持ってたぞ」
「正確には34秒じゃ」
そして、飛ぶ過程でサメティマスを不法投棄し、彩華も同じ場所に乗せ操作の主導権を渡した。
もはや〈
しかも肩の上に乗っている限りは不思議な精霊パワーでどれだけ速度を出してもわしらにGだとか外温などの負荷が掛からないおまけ付きじゃ。
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