第二章序節 ガレオス・サメオスを覆う影

第31鮫 すごいさめざお

***

SIDE:鮫沢博士

***


 航海が始まり、1週間の時が経った。

 わしら3人の船員は、船での生活という日常に慣れてきた所じゃな。

 なお、ひとまず目指しているのは魚人種達の国こと"ラッターバ"、それも王都である大きな港街の"ゼンチーエ"じゃ。

 なんでも、生物学者から聞いたが、魚に関する資料はフレヒカよりも多いらしい。その魅力的な情報を前に、すぐ様目的地になったわい。


「今日の釣りの時間だ!」

「たまにはこういう地味な事をするのも楽しいものなのだ」

「釣りは良いものじゃろうそうじゃろう。いつかサメが釣れるやもしれんからな」


 それで、今何をしておるかと言われれば、船を停めセレデリナを除く3人で釣りをしておるのじゃ。

 備蓄できる食料も保存環境を整えようが限度がある。なら、海での食料調達となるとこれが一番。

 最初こそ皆不慣れであったが、彩華なんて右手に釣竿を持ちながら左手で読書をする器用さを発揮しているぐらいには成長したぐらいじゃ。

 え、合計人数がおかしくないかって?

 そうじゃったな、実は今日が休日だからと魔王が来ておるんじゃよ。

 買い出しに寄ったとある港町で偶然顔を合わせたんじゃが、目的地から見て都合が良いらしく休みの時間をシャークルーザーで過ごしたいと申し出てきたので断る理由もなく同行させたのじゃ。

 

「おお、すごいのが引っかかったのだ!」

「そこのリールを全力で回すんじゃ!」


 それに、肝心の魔王は休日らしく釣りを楽しむ機会を与たようで何よりじゃわい。

 異世界サメ22号"フカヒーレ・ロッド"はこの旅のために造った特製釣り竿、〈シャークゲージ〉を使わずわしの手で作った現代技術風の釣り竿じゃが、竿の至る所に人工サメ筋肉を内蔵しておるから子供でもクジラを釣り上げることの出来る優れもの。

 釣り針がサメになっており、まるであらゆる魚介類を喰らうサメのような釣り竿じゃぞい。

 魔王なら普通の釣り竿でも十分そうな気がするが、それもまた無礼講と言う奴じゃ。


「これは大物なのだ!」


 そうして、このフカヒーレ・ロッドで釣れたのは全長10mもある巨大なイカ、クラーケンじゃった。

 海には生存区域に封じ込めることの出来なかったままの魔獣がうようよ泳いでおる。こういうこともよくあるのじゃ。

 もちろん、そんなモノを釣り上げれば一般の漁師は命がいくらあっても足らん。それ故に、〈ビーストマーダー〉とは別に海守うみもりという傭兵を雇用する制度があるんじゃが……うちにはセレデリナがおるから無問題じゃな。

 

「セカンド・アイレイ!」


 わしらの後ろにいる単眼の魔法使いはアイから光線を放ち、釣り上げたクラーケンの心臓を貫いて即死させた。

 これで問題は解決、食料も確保できたわい。

 そう、セレデリナが釣りに参加していないのは、釣り上げた魚が魔獣だった時に瞬殺する仕事があるからじゃ。

 魔王は一応戦闘行為が基本禁止なので、役割分担としてはこれが最適じゃろう。

 

「こりゃ1週間分の主食には困らなそうだ。乾燥パスタもまだあるし、イカスミパスタでも作ってみようか」


 〈ガレオス・サメオス〉のコック兼家事担当になりつつある彩華は最近、魔獣を釣り上げても食料にしか見えなくなってきたそうじゃ。


「何を言っておるのだ、今日は余が調理するのだぞ。台所の主導権は渡さないのだ」

「家にセレデリナがいないもんな、うん、ごめんな」


 じゃが、今晩のディナーは魔王が作るのじゃ。

 実は、朝から朝食を作り始めキッチンを占領してきたというのが事の発端なんじゃが、朝食も昼食も彩華が作るものより美味しかったわい。

 別に彩華の料理がまずいってことはないんじゃが、なんというか家庭の味なんじゃ。料理バトル漫画の世界に出てくるようなクオリティの高い料理を出すような魔王とは根本的なレベルが違う。


「では、釣りも終わったところで船を進めるぞい!」



***


 そんなこんなで釣りも終わり、わしらは船の操縦室へと向かった。

 見張りは魔王がするそうなので、休憩室も兼ねた場所じゃからか彩華とセレデリナもついて来たわい。

 操縦席はリクライニングチェアが完備されており快適で、非常に落ち着きのある操縦が可能な設備になっておる。

 シャークルーザーはAT車ぐらいの操作感覚、喋りながらでも航海に支障もないわい。

 なお、セレデリナは魔王と一緒に居たかったそうなんじゃが、どうしてもわしにしておきたい相談があるらしい。


「相談っていうのもなんだけど、彩華って所謂オタクじゃない?」

「まあ、そうだな」

「あれから1ヶ月強経ったけど、サメについて語り合える相手がおじいさん以外にいないのよ! アノマーノも相手と趣味を共有するのが恋愛ではないって言うし! 本当に辛いわ!」


 とても悲しい話じゃわい。

 しかも、これはわしにとって他人事ではない。

 ここは便乗して告白するしかない場面じゃ。


「……わしもサラムトロスではサメ仲間がセレデリナ以外におらんぞい!?」


 そうなのじゃ、わしは前の世界だと流石に距離感があれどサメ学会ではサメについて語り合う同士が沢山いた。

 しかし、サラムトロスに来てからと言うもの、シャーチネード事件後はせいぜい街でサメになりそうなものを買い込み、魔王に与えられた家でサメ開発に勤んで、後は同棲しておった彩華とご飯を食べる生活じゃった。

 そんな生活をしている中で、サメ仲間なんぞに出来るはずが無いんじゃ。


「ついさっきアノマーノが『もっと友達を作るのだ』って言ってきて不安になったのよね。おじいさんもある意味似た立場で助かったわ」

「うむ、こんな話をしているうちにわしも危機感が出てきた。これは由々しき事態じゃぞ! ちなみに彩華はどうなんじゃ!?」


 そうじゃ、きっと彩華だってサメ仲間はともかくセレデリナ以外に友達がいないとかそういう状況のはずじゃ!


「ん、俺ならサメ仲間なんてものはいないけど、行きつけの飯屋のボブって店主と仲良くなったりいろいろやれてるな。他にもいくらかフレヒカ王都に読書仲間がいるよ。この世界の本もけっこう面白いから、感想を共有できる相手がいると楽しいんだぜ」

「なんでじゃ!」


 なんと、ここまでコミュニティの充実に差が出ておったとは! 非常に辛い!

 じゃが、彩華はそんなサメ仲間ナシコンビにも救いの手を差し伸べてくれたのじゃ。


「はぁ……そこまで気にするなら、ゼンチーエに到着してから1週間以内にお前らは友達を……サメ仲間を1人ぐらいは作れ、そういう宿題を自分の中で固めとけば少しは進展があるかもしれないんじゃないか?」

「「あ、彩華様ー!!!」」


 こうして、わしらが抱えている問題にある程度対策を提示されこの話題は終了となった。彩華には感謝しかない。

 それと当たり前じゃが、問題がある程度解決したセレデリナは魔王の元へと戻り、2人での見張りを初めておったぞい。


***


 それから1時間ほど経った。

 彩華は隣で読書をしており、わしも次はどんなサメを造ろうか考えながらのダラダラ運転じゃ。


「そういえば、その本はどういう話なんじゃ?」

「目的地のゼンチーエが舞台になってる冒険小説で、そこで活動する冒険家が地図にない島で怪物と戦うっていうのが大まかのあらすじになるな。結構面白いぜ。翻訳能力はこういう娯楽で役に立つから本当に捨てたもんじゃないな」

「ほうほう、娯楽が溢れているというのはその世界が平和である証拠じゃからな、そういう意味でもいいことじゃろう」


 わしらは完全にくつろぎきっておった。

 じゃがそんな時、見張りをしていた魔王が急いで駆けつけてきたのじゃ。

 何か魔獣でも出てきたのじゃろうか。


「か、海賊が近づいてきているのだ! 進路も明らかにこの船が狙いでまずいのだ!」

「海賊!?」

「この世界でもさめつなぎの鮫秘宝SAMEPIECEを探す夢追人達がおるんじゃな! 見に行きたいぞい!」

「いや、これは一大事であるぞ! 余が――魔王が乗っている船を海賊が気づかずといえど襲撃したなんて事件が起きれば一瞬で国際問題なのだ!」

「「!?」」


 魔王が何を焦っているのか理解したわしらは、急いで船上へと向かっていったのじゃ。

 また、彼女自身は船の奥で隠れておいてもらうことにしたぞい。

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