サメ・ファンタジー~混沌異世界サメVS混沌生物!~
リリーキッチン百合塚
第一章 異世界咆哮鮫フランスシャーク
第1鮫 シャーク・エボリューション
3日徹夜してサメにある7つのヒレに化学反応を起こせば
そして光が消えると、目の前には真っ白な何も無い部屋が広がっていた。
「なんだここ……夢か?」
ひとまず部屋を見渡すと、1人の少年がおった。
身長は175cm程で、わしより少し背が高い。
それも、顔のパーツが整っておるイケメンフェイスな上に、スタイルもカッコよく上着を羽織っておるイケイケなファッションで、黒い髪を縦に長く伸ばしておる外見なのもあってかよく目立つ。
ただ、旅でもしているのか、背負っておるリュックサックがパンパンなのは気になるのう。
もしや、彼はシャーク道場の使者でアレはその為の旅荷物なんじゃろうか?
そう疑問を感じていた中、わしに気づいたのか話しかけてきたのじゃ。
「俺は
なんと、彼はシャーク道場どころか本当にサメとは関係がないような自己紹介をしてきた!?
名前に"鮫"は入っているようじゃが、わしのサメ直感が何か違うただの偶然だと反応しておる。
3徹後故に非常に眠いものの、彼を邪険に扱うのは老人として不適切な態度じゃろう。
自己紹介をしたのだからお前もしろという圧を読み取り、ちゃんと返事をしてやった。
「わしは
まあ、本当は色々あるんじゃが、説明すると長くなるから今は控えるべきじゃろう。
それに、自己紹介はまだ終わっておらん。
「サ、サメね……」
「それと、わしはよく
「なるほど、じゃあ鮫沢博士、どれだけ一緒にいるかわからないけどよろしく」
そう、わしこと鮫沢博士は纏った白衣がトレンドマークのジジイじゃ。
ザビエルハゲな髪型で左右に残った僅かな髪も白髪じゃが、髪に執着は無いので特に気にしてはおらん。
また、博士と呼ばれているように、如何にも何かを研究している風貌だと言われることはあるのう。
もちろん、いろいろな分野で博士号を取っておるからあながち間違ってはおらんがな。
それはそうと、どうせならと彼の身なりを知っておきたくなった。少し質問しておくぞい。
「ところで、ここへ来るまでのことは覚えておるかのう?」
「あー、実は色んな方面でオタクしててさ、シャイニーズって男子アイドルゲームの公式ライブに行く電車で寝てたらここに居たんだ」
くっ、思った以上に一般人じゃな。
彼はシャーク道場で役に立つんじゃろうか。
「っておい、なんだアレ!」
「なんじゃなんじゃ」
――そう、ぐだぐだと自己紹介を続けておる中、わしらの前に空からふんわりと揺れながら神々しい輝きを放つ女性が降りてきた。
その容姿は肌が白っぽくキレイで、シンプルに美人と言ったところじゃろうか。
髪はショートボブに緑色で、神秘的な容姿じゃ。
サメの次ぐらいに。
「世界を救う者達よ、ここへ来てくれたことを感謝します」
彼女は口を開き、わしらに語りかけてきおった。
全くサメを感じない女性じゃが、もしかしたらシャーク道場の管理者である師父サメスなのかもしれん。
確認しておくべきじゃろう。
「お前さんが、あの師父サメスかえ?」
「言っている意味が分かりません……。私は女神、ある異世界の秩序を守る者です」
……この反応、もしやここはシャーク道場ではないのか!?
じゃ、じゃが悲観してばかりではいかん状況じゃ。
何故なら、女神と言えば頭にサを付けるだけでサメガミ――つまり鮫神になる偉大な存在。
これは、丁重に扱わんといかんのじゃわい。
「2人揃って何を言ってるんだ……」
「貴方達は、危機に陥った世界を救う力を持つ存在なのです」
ただ、会話のキャッチボールがいまいち成立しておらん上に、発言の意味がわからない。
こういう時は、具体的な要件を聞き出すのが賢い立ち回りじゃな。
「なんとなく言いたいことはわかったんじゃが、要するに何をしてほしいかを教えてくれんか?」
「はい。これから貴方達には、私が今から送る世界にいる"〈破壊者達〉"を倒していただく旅に出てもらいます。貴方達は〈破壊者達〉を絶対に倒せる存在、それ故に呼びました。当然、倒せば元の世界へ帰して差し上げます」
〈破壊者達〉? 強そうなワードじゃな。
嘘じゃ、ホオジロザメの方が絶対に強い!
***
それからも質疑応答が続いたので色々聞いたのじゃが、
・無報酬仕事であること
・読み書きや言語は日本語に全て変換されること
・帰ってくるときにはわしらがここに来る直前の時間が座標になること
この3点を教えてもらえた。
ハイテクで驚いたわい。
じゃが、この部屋もこれから先に起こることも、
「俺は凡人なんだぞ! どう生き残れば良いんだよ! ていうか無報酬とか嫌すぎるわ!」
ただ、彩華は個人的な理由で怒りを顕にしておったな。
わしは異世界なら異世界でそこにいるサメを見られてプライスレスシャークで大満足! そんなこと、どうでもええんじゃがのう。
さて、あとひとつ質問しておきたいことがある、それを聞いて終わりじゃな。
勢いよく手を挙げたぞい。
「では、そろそろ向かってもらいましょうか」
じゃが、質疑応答タイム自体が終わっていたようじゃ。
「おい! まだ話が!」
「その世界にサメはおるのか聞いておらん! 待ってほしいのじゃ!」
彼女が指を弾くと、白い部屋は崩れ始め、わしらはどこかへと落ちていった。
***
落ちた先は、整備された一本道のある草原じゃった。
空は晴れ晴れとしていて、お昼時ぐらいなのは間違いないじゃろう。
また、茂みが広がっており、周囲にぽつぽつ木が生えている。
リス、鳥、兎など、日本でも自然のある場所でなら良く見る動物達はおるが、陸を走るサメは見当たらん、面白くない。
それと、あたりにいくらか人も歩いておる。
行商をしている馬車だったり、野宿などを想定した大きな荷物を抱えている旅人らしき人だったりじゃ。
この近辺は、街から街への通り道と推測すべしじゃのう。
じゃが、1つだけ違和感がある。
視界に映る人々は、馬車を止めて休憩をしている行商人こそわしの知る人間に見えるが、その護衛らしき厳つい傭兵は単眼で筋肉質の"鬼"にしか見えず、旅人らしき者も肌が青っぽくわしのいた世界じゃまず見ない容姿。
他にも、角や羽根が生えている者までおるのう。
なるほど、これが異世界という奴なのじゃな。
それも、様々な種族の人々が共生しておる多様な世界みたいじゃ。
しかし、そんなことより今のわしはどうしようもなく眠い。
とりあえず地べたでいいから眠りたい所じゃ。
「鮫沢博士、ひとまずどう動こうか。〈破壊者達〉なんてよくわからない奴を倒せと言われてもなぁ……」
寝たい。
故に、こう返そう。
「1つ謝罪したいことがあるんじゃ」
「謝罪したいこと……?」
「うむ、3徹で研究をしている中ここへ飛ばされてきた。故に今すぐにでも寝たいのじゃ」
よし、これで伝わったじゃろう。
「おい待て! つまりさっきまでは気合で起きてたのか!? 確かに目の隈がすごいし呼吸も荒れていたが、そういうことだったとは……。ていうかその歳で3徹したってどういう体の構造してるんだ!?」
「毎日2時間は運動しておるから、体力には自信ありじゃ」
「俺としては、75のジジイと一緒に死ぬ運命だけは勘弁してもらいたい所なんだ、運動自慢をするならもう少し起きていてくれないか?」
「それはできんのう」
彩華はそう言い返しつつも、スマートフォンを使えないかと疑問に思ったのかポケットから取り出し始めたのじゃ。流石は最近の若者。
彼らからすれば手持ちの携帯端末より便利はものはこの世にない以上、最適解の行動と言えるじゃろうな。
「……電波が通じない」
「そりゃそうじゃろう。ただ、いざというとき情報を入手する手段が限られてくる点だけは喜ばしくないのう」
「カメラ機能は使えるみたいだから思い出ぐらいは残せるかもしれないってところか」
「そうじゃな、異世界だけのサメがいるなら写真に残せるか否かは重要になる」
「……」
それから彩華は、絶望しても仕方がないとこの場所を移動するための進路を考えているかのような動きをした。不都合な話をされる気がしてきたぞい。
「行商人達の進路がバラバラで不安が募るが、ひとまずここから移動しようか。実際、野宿するためのキャンプ用具もない。俺も寝ている鮫沢博士を守る力はないから、もうちょっと頑張ってくれないか?」
ほれ見たことか、予想通りの言葉が来たぞい。
なら、返す答えは1つじゃわい。
「嫌じゃ! 眠いんじゃ! 寝させておくれ!」
「『嫌じゃ!』、じゃあない! 死にたくないならやるんだよ!」
くっ、ならばこの手でどうじゃ!
「おんぶしてくれんか?」
「あ?」
それから3分40秒程言い合いになった末、おんぶで運んでもらうことになった。
「本当になんてジジイだ……」
おかげでゆったりと移動することが出来た。
***
じゃが、その和やかな空気は一瞬にして終わる。
「おい、マジかよ」
気がつけば辺りの景色が変わっており、付近には下手に入ると遭難しそうな険しい森が見え、気づけば人っ子一人もいなくなっていた。
――つまり、わしらは迷子になったのじゃ。
更に、それだけなら良かったのじゃが、問題は他にもあり……。
「そこの親子連れ、金目の物をおいていけ、そうすれば命だけは助けてやる」
いかつい5人の集団が森の茂みからぞろぞろと現れ、わしらを囲んできたんじゃわい。
5人の内1人こそわしの知る"人間"じゃったが、やはり他は肌が緑で髪の毛が生えてないスキンヘッドの者がおったり、映画で見たような耳が長いエルフっぽいのや、背のちっこいドワーフみたいな奴もいるのう。弟が遊んでおったゲームの世界のようじゃ。
また、彼らはそれぞれ斧や剣などの武器を構え、露出の多い分身軽な革の防具を身に纏っておった。
しかも、体のいたるところに傷跡があり、戦い慣れているのは目に見えて明らか。
要求内容から盗賊と見て間違いないじゃろう。
「何だよ! 詰みじゃねぇかこの状況……」
彩華はどうしようもない恐怖に陥った表情をしておるな。
確かに、この状況は絶体絶命と言える。
『3徹の老人と凡人、もはやサメと戯れる方が安心』とリリックを刻んでしまうぐらいやばいのう。
「ここは魔獣出現地帯に隣接した、治外法権も同然なエリアだ。それでも近道目的でやってくる博打打ちは結構いるんだが……いかにもなカモが来るとはラッキーすぎるなぁ!」
「魔獣出現地帯!? ということは、RPGでありがちなモンスターも普通にいるのか……」
おっと、話の通りなら迷子になったどころか非常に危険な場所に来てしまっていた事になるぞい。不運にも程がある。
「んん? 脅しが足りないみたいだな!」
そして、口を布で覆い小さな杖を持っていた盗賊の1人が、杖をわしらのいる方へと向けてきたのじゃ。
「『我が魔の力よ、敵をその炎で焼き尽し給え!』ファースト・ファイアシュート!」
すると、杖の先から魔法陣のようなものが浮き出て、そこから拳サイズの火の玉が飛んできた。
異世界なだけあって、魔法まであるとは……。
「ひえぇ!」
それに対して、彩華は馬鹿みたいに大きな声を上げておる。
じゃが、驚きながらもわしを抱えてしゃがみ、回避行動をとっておった。
こんな状態のわしを庇うとは、根が優しいんじゃな。
しかし、あくまで脅しなのか火の玉はわしらを直接狙っておらんようで、足元を焦がしただけじゃった。
次は当てるぞ、ということなのじゃろう。
これはあまりにもピンチすぎるわい。
わしが元気340倍サメザワマンでは無い故に、サメにまつわる魔法もありそうだなとワクワクすることも余裕もないぞい。
「……zzz」
それに、もう起きているのは限界じゃ。
***
SIDE:鮫川彩華
***
この状況は、誰がどう見ても絶体絶命だ。
何故なら、彼らはもし襲った相手が自衛に長けていようが勝てる自信のある盗賊こそが生業な者達だから。
「ぐびぃ……ぐびぃ……」
更に、鮫沢博士はよりにもよってしゃがんだ状態でいびきを掻いて完全に眠りについている。
なんなんだこのジジイは!?
とはいえ、鮫沢博士が眠ってしまった以上、俺1人で対処するしかなくなってしまった。
しかし俺は……何も力がない。ただの凡人なんだ。
通ってるのは家の近所にある普通の高校で成績も全教科オール3。
顔面とスタイルの良さ以外に、特徴らしい特徴が本当にない。
これはもう駄目なのだろうか?
そう思いつめていた中、ふと、今取れるたった1つの行動を閃いた。
「おいおい、返事はねぇってことは殺されてぇのか? 次は当てるぞ!」
現状、彼らの行動は無理に俺達を殺す必要はないと考えているのか、脅すぐらいに留めている。
それなら、こっちも威嚇してやればいい。
「盗賊共! この棒を見ろ!」
俺はリュックサックからペンライトを2本取り出し、持ち手の下にあるスイッチを押し込み電源を点け、両手で1本ずつ握った。
そう、これはアイドルのライブなどで良く見るあの光る棒だ。
電気技術を知らない相手にとって、未知の魔法的なものに見えるはず!
そして、俺は手を全力で天まで伸ばし、ペンライトを振りまくった。
乱暴に剣を振り回すかのごとく、光る棒を一心不乱に振り回した。
「あいつ、光る棒みたいなのを持ってますぜ!」
「なかなかな手練の魔法使いかもしれん、油断するな!」
……動揺して逃げてくれると思ったが、逆効果でしかなかった。
「鮫沢博士……ごめん。荷物を捧げてさっさと解放されよう」
諦めもついた。それに、荷物を渡すだけだ。
命より大切なものなど、この世界には持ち込んでいない。
そう思いながら必死に鮫沢博士を起こすべく背中を擦った。
「くっ……はぁ~」
――すると、彼はあくびをしながら目を覚ました。
意外に眠りは浅かったのだろうか?
そして、耳打ちで俺にこうつぶやいた。
「お前さんが時間を稼いでくれたことを感謝するぞい」
その言葉を聞いた俺の心には、希望の光が射した。
「鮫沢博士、なにかの準備をしていたのか?」
「ああ、1分ほど寝させてもらえたのじゃ」
嘘。前言撤回。何を言っているんだこのジジイは。
その1分に意味があるのはわかるが、信用するには無理がある。
とはいえ、今残された希望は彼だけだ。
俺は、彼を信じることにした。
「とりあえず、この木の枝を投げてくれんか」
……のだが、流れるように懐から取り出したそのアイテムは非常に頼りないひと品だった。
「よりにもよって、こんな時にどういう提案なんだよ! だいたい、その木の枝はそこらへんに生えてた茂みから適当に折っただけじゃねぇか! 武器になるようにも見えないぞ!?」
そんな会話をしていた所で、盗賊達は俺達を見ながら笑い始めている。
「おいおい、その木の枝で俺らに勝とうってか?」
「さっきのはただのハッタリだったみたいだなぁ!」
「じゃあその抵抗を見せてくれよ~」
あいつら、俺達に呆れ始めてるじゃないか。
「何言っても、やるしか無いな」
しかし、こんな状況だからこそ覚悟はすぐに決まった。
「そぉい!」
俺は勢いよく木の枝を投げた。
すると、木の枝は投げているうちに空中分解するかの如くぐちゃぐちゃになっていく。
だが、バキバキに割れるのではなく、纏まって丸くなる。
自然の現象とは思えないこの光景は見ていて気分が悪い。
そして、木の枝は……。
相手に恐怖すら抱かせる獰猛な歯! 刃のようなヒレ! スラッとした鱗! あのサメと言えばな鋭い背ビレ! 5枚刻みのエラ孔! それらを併せ持った海における最強の生物、サメへと! 30cmの小さなコバンザメへと変化した!
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