愛されているので幸せです!

塁(るい)

第1話 とある公爵家にて no side

「捨てておけ。」



「はッ。」





そういうと小さなゆりかごに入った生後一年くらいの赤ちゃんを赤子に対する扱いではないくらいに乱暴に運ばれた。この子は荷物か何かなのか。




そんな扱いを受けても、赤子は泣きもしなかった。泣く元気もなかった。食べるものも最低限。死なない程度に与えられる。地下の罪人の部屋で、文字通り飼われていた。寒い部屋で冷たい床に薄い肌着一枚で過ごす。どう見ても赤ん坊にする仕打ちではない。




赤ん坊を持った使用人がそそくさと出ていくと、ぶくぶくに太った男は派手な女を見ていった。




「ミリア。これで我が公爵家は安泰だ。」




「そうですわね。アラン様。あんな、どこのものかもわからない穢らわしい目と髪。公爵家にはいりませんわ。」


趣味が悪いとしか言いようのない、濃いピンクのドレス。いたるところに宝石がちりばめられている。レースもこれでもかというくらいつけられていて、動きにくそうだ。大きな胸を強調するかのような、夫人とは思えない露出が多い。そしてやはり、宝石が散りばめられた扇を片手に持つ。おしゃれのかけらもない下品なドレス。


「無事に次男も、違ったね、"嫡男"も生まれたな。」



ミリアと呼ばれた女が豚のような男をにらむと慌てて言葉をただした。



「ええ。これで万が一にでも後継が気味の悪い子になりませんわ。もうあの子は継承権を持ってませんですが。」



「やっと、あいつを捨てられるな。」



「ですわね。せいせいしましたわ。」



女がすがすがしい顔で豚に微笑むと、男も醜悪な顔は肉で埋まり動きにくいものの、動かし醜い笑みを浮かべた。


豚がもう捨てた子のことは考えたくないとでもいうように、いまここにはいない子どもを考え話す。


「あいつに比べて我が子はかわいいな。」


わが子の話をしているというのに、豚の顔は醜悪なままだった。その顔からは慈しみの表情も窺えない。



「もちろんですわ。あんな子かわいいわけありませんわ。」




使用人たちは何かを耐えているような無表情のものと、仕事が減ったとすがすがしい顔をしている者がいた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






そうして、ある公爵の命令でこの日、公爵家嫡男が捨てられた。



記録には、何も書かれていなかった。



この公爵夫妻は成長した赤ん坊と会ったとき何を思うだろうか…

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愛されているので幸せです! 塁(るい) @Sira_123

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