警視庁超事室(超常現象事案対策室)奇譚
まーくん
序章
第1話 それは突然に
ドカーン!
「ふう、戦闘機3機目撃墜。とりあえずはこんなもんかな。」
「茂さん、油断しないで!
左上3000メートルより、新手襲来よ。」
左上空を見ると、確かに新手の巡洋機が姿を見せる。
俺は投擲用に作られた鉄球爆弾を手に持って狙いを定める。
この角度であれば投擲距離およそ1000メートル。
もう少し近づけば、充分狙える距離だ。
やがて敵の姿がはっきりと見えてきた。
よし今だ!
俺は鉄球爆弾を左手で持ち、オーバースローで投げつける。
当然次の球を構えることも忘れない。
ガーン!!
上空800メートル地点、鉄球爆弾は狙いたがわず敵の巡洋機を貫き爆発させた。
「ナイス!茂さん。とりあえず他に敵の機影は見当たらないわ。
一旦本部に帰りましょうか。お疲れさまでした。」
「裕子もナイスアシスト。ご苦労さん。
さあ行こうか。朝飯も食ってないし、本部に帰って朝食だな。」
いつもの当たり前の会話をしながら、俺と裕子は俺達が所属する、警視庁超事室へと戻る。
この世界にもずいぶん慣れたものだ。裕子というパートナーを得て、知り合いも増えた。
1年前、この世界に来た時はどうなることかと思ったが。
☆
朝の通勤電車、俺はいつもの席に陣取り、今日も携帯小説を読みふける。
周りはみんな寝ている。
俺の家は郊外と言うにはあまりにも山奥に入ったニュータウンの更に奥の町にある。
鉄道会社が開発し、最寄りの始発駅までバスを延伸することで何とか通勤圏内と言えるようになった場所で、つい最近まで人よりも猪の方が多かったのではなかろうか。
最寄りの駅から、会社までは片道2時間半。家から会社までは3時間掛かる。
これでも、都会では決して長くは無いだろう通勤時間が、今日も夜も開けきらぬうちから始まった。
朝からどんよりした厚い雲が萎えさせる気持ちを何とか奮い立たせて、今日も会社に向かう。
カタンゴトンと軽快なリズムを聞いて、一つ目の県境となる鉄橋に差し掛かったのを認めると、俺は顔を上げて車窓を見る。
外はまだ薄暗いが、この渓谷は日本渓谷100選にも選ばれたとして紅葉シーズンは賑わう場所らしい。
らしいというのは、俺がここを通る時間はいつも暗いからだ。
それでも、テレビのバラエティで時折取り沙汰されるこの場所に差し掛かると、スマホから目を離し外を見てしまうのだ。
鉄橋も間もなく終わりを告げる頃、突然車内が大きく揺れた。
次の瞬間、天地が分からなくなる中、俺は崩れ落ちる鉄橋を車窓から見たのだ。
響き渡る悲鳴と金属の擦れる嫌な音がやけに耳に付く。
死んだな、冷静にそう思ったら、そのまま意識を失ったようだ。
「ここは?」
気がついて辺りを見渡す。
たしか鉄橋が落ちて電車ごと谷底に落ちたはず。
明るく成りつつある中で、鬱蒼と茂る木々が視界を遮る。
川はある。水の音がする方向に歩くと、広い河原が見えてきた。
河原に出てから、目を上に向けていくと高い断崖が見える。
その向こう側には先ほど落ちたはずの鉄橋が見えた。
たしかに谷底に違いない。
だが一緒に落ちたはずの電車や鉄橋が見当たらず、あまつさえ鉄橋は頭上にあった。
車内にいた乗客も誰も居なかった。
俺ひとりがここにいるようだ。
一通り身体を確認する。目立った怪我は無いようだ。
持病の腰痛も気にならない。
それどころか、身体がやけに軽く感じる。
その場でジャンプしてみる。
垂直跳びの要領でまっすぐ上に向かって跳び上がったのだが、かなりの高さまでほど飛び上がり、10 秒程度滞空して、元の場所に降り立つ。
滞空時間から考えると8メートルくらいか。
もしかして、異世界転生?
チートで筋力増強?
携帯小説お決まりの異世界ファンタジーを思い浮かべる。
年甲斐もなくそんなことを考える自分を自嘲する。
それでも、やはり気になるものは気になる。
目の前にある重そうな石を持ってみる。
軽い。
見た目は30キログラムくらいありそうなのに、片手で軽々と持てる。
見た目の1/20 くらい、1~2キログラムしか重さを感じない。
やはりチート能力か。
やがて頭上に轟音が響き渡る。
真上を見上げると下から見上げる鉄橋を見慣れた色の電車が走っていた。
とにかく電車が走っているということは、ここは異世界ではなく現実世界ということだ。
とすれば、会社に遅刻するではないか!
ただでさえ遠距離通勤することになった時に、上司に遅刻のことを戒められたというのに。
電車に乗るには、まずこの断崖を上る必要がある。
鉄橋までたどり着ければ、後は線路沿いに歩いていけば次の駅にはたどり着けるだろう。
問題はどうやってこの断崖を上るかだ。
試しに、断崖に手を掛けて登ってみる。
身体が軽いせいもあり、余裕で登っていけそうだ。
だが、2メートルも行くと断崖が反り返しており、それ以上登れそうにないことに気付いた。
何とか10メートルほど飛び上がれれば、反り返した部分を避けることが出来そうだ。
俺は助走をつけてジャンプする。
10数メートル跳び上がることができ、無事に崖に飛びつき、かなり上の方まで手を掛けることができた。
ここまでくれば後は岩肌を足場にして登るだけだ。
すいすいと崖を上っていくと、やがて30メートルはあった谷底から無事に鉄橋までたどり着いた。
線路の上を歩く。身体が軽いので、普通に歩いていても連続で幅跳びしているような感覚だ。
斜め前にジャンプしてみると、20メートルほど前に進んだ。
軽いジョギングの要領で線路沿いを駆け出すと、ものの5分くらいで次の駅に着いた。
たしか鉄橋から駅までは10キロちょっとあったはずだから、時速120キロメートル以上で走ったことになる。
俺はドキドキしながら駅に入った。
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