雀の短編集

スパロウ

『かはず』

 友人Xに心霊スポットに連れ出されたのは、部活後既に夜の七時を回った頃合いだった。丁度その日は古典の授業で安倍清明にまつわる話を受けたばかりで、そうした話や自主勉強に付き合ってくれていたYも巻き込まれ、とある団地にまで足を延ばす運びとなった。

 件の団地とは、学校から数キロ離れた、もっと言えば自宅とは反対方向にある場所にあった。Xの話によれば、ここは地元でも有名な心霊スポットとして名高く、幽霊の目撃情報や奇妙な現象などが相次いでいるらしい。それでは手持ちの携帯電話で事実確認をしてみようと、団地名と心霊現象で検索を掛けてみても、どういうわけかそのような類の話は一切見受けられず、Xの独りよがりなでっち上げではないかというのが、Yとの共通認識となっていた。

 自転車でやってきた我々一同は、団地入口に駐輪する。この時間帯は人の出入りも少ないが、邪魔になってはいけないので通行のど真ん中には置かず、少し逸れた脇に停めた。しっかりとスタンドを立て、鍵をかける。何もないアスファルトの上に、自転車が三台置かれた。


 いよいよX曰く、いわくつきの心霊団地散策と相成ったわけだが、当然その団地の住人でない以上は内部に入ることは出来ず、もっぱら外観をぐるりと回っただけにとどまった。時間帯が相互作用をもたらし、団地は怪しい雰囲気を醸し出していたが、ただのそれだけであり、特別奇妙な現象が起きるわけでも、不可思議な影を目撃するわけでもなく、ただただ虚無な三十分を男ども三人で過ごしただけだった。

「やっぱりガセをつかまされたんじゃないか」

「おかしいなあ、確かに有名なはずだってネットで見たんだけれど」

「調べても何も出てこないぞ」

「いやあ掲示板で見たんだけれどなあ」

 互い互いにXをまるで責めるように問い詰めるが、しかしそんなことをしても実際に減少を目撃できるようになるわけでも無し、結局は三人、その三十分間の散策を経て帰宅することに決めた。


 我々が自転車の前に再び姿を現したのは夜七時四十分少し手前であった。何も変わりのない、来たときと同じ三台の自転車がアスファルトの上に載っていた。

 鍵を開け、スタンドを外す。我々の帰宅は既に始まった物同然だった。だがその時私は初めて不可解なものを見た。一度それを確認するためにスタンドを立ち上げる。XとYの二人が、なんだどうしたと一緒にスタンドを立ち上げる。確かに、ここに来たときは、自転車以外は何もなかったはずだ。全員で確認したから間違いないのだ。


 では何故、ぺしゃんこに潰されて間もないウシガエルが私の自転車の下に敷かれてあったのだろう。何の脈絡もなく現れたウシガエルに、さすがの我々一同も驚きを隠せなかった。そしてXが思わず言ってしまった。


「これ安倍清明じゃん……」


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