新撰組~回顧録~
琳
慶応四年
罰
―――
私はどこで間違ったのだろう。
最初は田舎町の道場で、気の合う仲間と剣の稽古をしているだけで満足だった。
同じ流派の者はもちろん、違う流派の者たちも受け入れ、一緒に竹刀を振るう事で、心で対話をする事の重要性を教えていたつもりだった。
しかし私はいつしか剣を持つ事も忘れ、あんなに大事にしていた仲間との心の対話を怠った。
これは罰だ。目先の事ばかりを優先し、一番大切な物を見失った。
離れていった仲間、失ったかけがえのない命。
その全てを私は忘れてはいけない。
私ももうすぐ彼らの元に旅立つ。だけどこんなに罪深い私など、許してはくれないだろう。
だからこれは罰だ。生きるも死ぬも、結局は罪を背負っていかなければならない。人を傷つけた罪は何よりも重い。
私はもう、恐くない。仲間を失う程恐い事はないからだ。
今私は一人。ただの人としてここにいる。
一介の道場主から随分変わってしまった己の姿に、ただ呆れるだけだ。
できる事ならあの頃に戻りたい。笑い合い、語り合い、剣を交えていたあの頃に。
もしもう一度生まれ変わる事ができたなら、私はもう一度「私」として生きたい。
あの頃の仲間と『誠』の正義を掲げて、今度こそ悔いのない人生を送りたい。
―――
私はどこで間違ったのだろう。
自分が信じた道を突き進んできただけだというのに。
薄れゆく意識の中で見たものは、いつかの何気ない日常の風景。
あの時が一番幸せだったのだと私は最期に気づいたのだ。
武士になれなかった男にはそれに相応しい終わり方がある。
私は覚悟を決めて目を閉じた……
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