第27話 ~未来を変えし者~
それは古き千年に渡るティアスの記憶。
「ゴホッゴホッ!」
横たわる母親は吐血し、千年に渡る任期を終えようとしていた。
「お母さんッ!」
時間が刻一刻と迫っていた。
任期を終えるまで一時間。その一時間しかお母さんと一緒にいれない……。
私は覚悟を付けるためとその日数まで知らされていた。
母を抱きしめる。やっぱりこんなの嫌だよ。
溢れる涙が止まらない。
情けないって怒られたってこんなの、耐えられない……。
「私、寂しいよ……。やっぱり無理だよ! この運命自体どうにかならないの……?」
「なりません。ゴホッ! あなたは、人より強く、神として……生まれたのだから」
義務とか責務って何なのか?
こんなに辛いことになってもやらなきゃいけないことなのか?
私は感情的になってしまう。
「じゃあ! 生まれなきゃ……!」
「そんなこと、言わないでください……!」
逆に強い力で抱きしめ返される。
「私も子供の頃はそうだった……。耐えられなかった……! でも、優しいあなたならきっと分かるはずです! 私はあなたが産まれてきてくれて本当によかった……! 幸せだった……! 私の宝物なのですッ……!」
母も泣いているのか、震えた声で私に思いの内を打ち明ける。
「あなたが大好きです……! 一緒に学ぶのも、遊ぶのも! ティアス、あなたの笑う顔が……困る顔が、頑張る姿が……! 愛おしいのですッ!」
泣きじゃくる母はがむしゃらに言葉を紡ぐ。。
「あなたは、どうでしたか……?」
「分かんないよ! でも、ママとずっと一緒にいたいよ……! 離れ離れはやだよ! ママ会……!」
私だってそんなの聞いたらぼろぼろに泣いてしまう。
でも私は産まれた頃からそんな幸せが当たり前だったから……分かんないよ!
「大好き、ですか……?」
母の声色が弱くなり、体が軽くなる。
(まだ一時間も経ってないのに!? 何でよ……! 分かんないよ!)
「ティアス。私のことが……大好きですか?」
それでも問いは続く。
答えたくないよ! 答えたくないよ!
だって答えたら……。
きっといなくなってしまう。冷たくなってしまう。
「大好き……」
漏れた言葉が、嫌なのに……本心を伝えようと必死に頑張っている。
「大好きだよっ! ママぁぁ……! いなくなっちゃやだよぉ……!」
「私も大好きです。宝物です。あなたが誰よりも一番大切です……! 私の母よりも……!」
何でそんなことばっかり……。
涙が止まらない。
「愛しています。あなたのこと、ずっと見守っています……!」
声がどんどんか細くなる。
「私もっ! 私もだから!! 愛してるから!!」
泣き止まない私の頭をそっと撫でると、母は……。母の手は私の黒い髪から、溢れ落ちた。
「うわああぁぁぁッ!!」
必死に叫んだ。喉が枯れても、叫んだ。
冷たくなった母を抱きしめながら、叫んだ。
(いやだいやだいやだいやだよッ!!)
こんなに大好きなのに……どうして離れ離れにならなきゃ、いけないの?
『見守っています。私の世界で一番大切な宝物です。大好きなティアス……』
頭に声が響き、泣きじゃくりながら母の顔色を伺う。
笑っていた……。蛍のような光になって母が姿が消えかけていく。
「いやだぁッ!!」
『幸せでした……。私ばっかりズルいけど、ありがとう……。ティアス……』
呆然としながら周りを見渡し、母をもう一度見る。
変化はない。
「私もッ! 私も大好きだから……! そんなことばっかり、言わないでよ……!」
母を揺するも、光の放出は止まらない。
光を捕まえて、集めようとするも……捕まえられない……!
涙で前が見えないまま……私は最愛の母を失った。
ただ呆然とそのまま三日が過ぎて……。
真っ白の空間に緊急のアラートが鳴り、侵入者警告が発動した。
呆然としたまま、パネルを見ると……時空の軸を越えて一人の剣を持った和服の男が走っていた。
赤い着物に黒い袴。赤い髪が特徴的だった。
まだ若いお兄さんなのに、ボロボロなのに必死に頑張っている。
『見守っていますよ……』
その言葉を思い出し、衝動的にスピーカーをオンにして声を投げかけた。
「な、何の用ですか!?」
『地球の神か!? 俺は未来から来たッ!
彼がここにいた経緯を止まることなく話され、頭の中に一言一句記憶される。
「思い人でも……いるの?」
「ああッ! だけど、別れは……告げてきた。俺は未来の為に……! アイツを消す為に!」
私はあっさりと通してしまった。
本当ならあり得ないことなのに……。
見守っている母が、そうしなさいと言ってくれているような気がして。
空間に招き入れ、ある条件を私は考えていた。
今じゃ何であんなことしたのかな……。と思うことはあるけど、後悔はしていない。
彼の頼みと言うのは、自分の未来の子孫がシュプ=ニグラスを倒す為にこの星にやってくるから全面的にサポートしてほしいとのことだった。
その前提としてこの星に散らばった竜を星に還さなければ、不利な状況となるからそれも全面的に協力してほしい。と言われた。
そしてもう一つ、八百年後の日本に危険因子が生まれる。
それは確固たる遺志が動いているため、どうやっても止めることは出来ない。
彼は過去へ戻り直し、何度も何度も私に頼むことを繰り返していたそうだ。
その時代まで行ったが、対峙は出来ても逃げることしか叶わなかったと伝えられた。
だが、その行為は彼の寿命を減らすと共に回数制限があった。
最後のチャンスまで彼は諦めなかったそうだ……。
凄い、悔しそうだった……。
無茶苦茶に挑戦した訳では無いんだと、すぐに分かった……。
同じ負けでも、惜しければ惜しいほど悔しい。
その遺志も人に取り憑き、未来に託して祈願を果たそうとしている。
彼も同じような遺志と共に戦い、その祈願を阻止するために動いていると言った。
その遺志たる者が世代に遺した呪いは、幾度と世代を繰り返せば西暦二〇〇〇年で凶悪な邪神の卵となって産まれる。
どの世代でその家系を摘むことを私に指示しても、ダメだったそうだ。
それを予期して子供を取り替えるか、分家を隠して増やすかして回避される。
だから摘むことはせず、せめて暗躍する八百年後に少しでも彼女を攻撃しようとする者を抑えてやってほしい。
少しでも彼女に人を殺させないでほしい……。
どうにかやってくる子孫に浄化と討伐を託してほしい。
どうにかその危険因子の未来を、生かしたまま変えてほしい。
簡単そうに言うけど……疲弊した私の精神には無茶苦茶なお願いだった。
「そんなの私に……」
そんな幾つものことを果たせる自信が無かった。
「お前の母が亡くなって、苦しいのは俺にも分かる! だって俺が何度も繰り返したせいで、君の苦しみも増幅してるから……。でも、俺だって悔しいよ……。辛いよ……。元の時代に帰っても俺はすぐに息絶えてしまう……」
いくらそんな辛そうに言われたって分からない。
「わかんないよッ!」
私は頭を両手で抱えて首を振り、困惑する。
「頼むッ!」
彼は私の前にひれ伏し、額を地面に付ける。
「幾らでも頼みを言ってくれれば叶えて見せる! だから……頼む! 最後の……お願いなんだ……!」
彼は声を震わせ、泣きながら私に必死に訴える。
この人はきっと凄い正義感が強くて、優しい良い人だ……。
ずっといてほしい位私だって寂しいけど、私はやっぱりお母さんが一番だ。
断ろうと息を吸い込んだ時――
『私はあなたが産まれてきてくれて本当によかった……! 幸せだった……! 私の宝物なのですッ……!』
脳内に三日前の母の言葉が流れてくる。
私は気付いた。これは母さんの遺志が訴えかけてくれている。母さんがやってほしいと言ってくれている。
(ママ……!)
私の願いは一緒にいてほしいこと……。
でも、彼だって大切な人が待ってる。
一緒にいてなんて頼むのは可哀想だ。
「私を不死身にして……」
「それは無理だッ! 君を死なせることは――えっ?」
彼は顔を上げ、瞳孔を開き私を見た。
「な、何故だ? というか何故俺が不死身だってことを……?」
「わかんないッ! でももう一つ! 私に子供を妊娠させて……!」
自分でも言っている意味が分からなかった……。
彼はまた驚き、後ろに引き下がってしまう。
「本気で言ってるのか? 君は何を考えているんだ?」
真剣な表情で彼は私に問う。というかちょっと近い……。
でも、そういうの私は嫌いじゃなかった。
母がいつもハグしてくれていたようで……。
「そしたら……愛しい子供がいるなら! 勇気を出せる……! それにきっと他の願いは幾ら言っても君には叶えられそうに無いから……」
「わかった……良いよ。それ位の時間はある」
「やった……!」
「だが……」
「ん……?」
何かまずいことでもあるのかな?
(あっ、そうか……)
「想い人がいるのにゴメンね……?」
「随分見下げられたものだな……」
彼は突然私を押し倒した。
初めての感覚。初めて異性に、迫られている。
怖いけど、凄い胸が熱くなった。
「顔、赤いぞ……?」
「そ、そんなことないもん……」
恥ずかしくなってそっぽを向く。
「まず、キスをして不死身をお前にもコピーする」
「お、お前っての……やめて」
近付く顔を右手で止めて、追加のお願いも伝える。
「私は、ティアス……。せめて、そう……その……。えっと……」
呼んでって言いたいのに、照れくさくて全然言えない。
「分かった、ティアス」
「えっ、ちょっ――んむっ!?」
それは唐突に奪われた。人生初めてのファーストキス。
体の神経全てに暖かい感覚が広がる。
私の背中まである髪は薄い金色に変わっていった。
だけどフレンチキスで彼は私から離れた。
ちょっとがっかりだった……。
「あっ……」
長いブロンドカラーの髪は違和感しかなかった。
「これ……」
私は自分の髪を見て、触り……驚く。
お互いにティアスの髪を見つめ……。
「これで不死身なはずだ……。次は……」
「ま、待って!」
私は彼の両頬を触れて逃がさない。
「その、私……可愛くないかな……?」
触れていた彼の頬が熱くなるのを感じる。
どうしてか気付くと恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。
「べ、別にそういう意味じゃないんだよ!? えっと、その……。もっと来てほしい……かもしれないのかも……? 無理にとは全然、その……思わないんだけど……」
こういう時に私は素直になれない。近付いてほしいのに肝心なところで恥ずかしがってしまう。
唯一亡くなった母に出来なかった後悔があるとすればそれだ……。
彼は私の左頬に優しく触れる。男の人のごつごつした手の平。安心すると共にキュッと胸が鷲掴みにされる。
「可愛いよ。だから、そんな悲しい顔しないでくれ……。相手を気遣って遠慮してとても健気で……そういう素直になれないとこ俺は大好きだ……!」
彼は涙を浮かべながら悔しそうな笑顔でそう答えた……。
「そんな……」
嘘だなんて言えない。
私の性格をズバリ見抜いていて……。
「だから何百回絶望しても、可愛くも健気に頑張るティアスに逢いに来る。心優しい君に逢いたいって足が止められない位、頼ってしまう……! だから、嫌われてないかなって考えてしまうんだ……。ごめんよ……?」
その言葉は私の心を締め付けるように射抜いてくる。
「嫌いなんかじゃないよ! こんなこと頼めるの、あなたしかいないもん……」
「俺のこと好きでいてくれて良かった……! 俺もお前のこと大好きだ! 嫉妬されても、どうにか許してほしいと思ってしまう位、大切な存在だ……!」
「な、なななっ! 何でそんな急に……!」
「反応も最高だ。おま――いや、ティアスがどうしてお母さんに愛されていたか分かるよ。だって、その照れ隠しがすんごい可愛いんだもん」
彼は笑顔で微笑む。
「うん……そう、だよね……!」
お母さんは私が一番だと何度も伝えてくれた気持ちをようやく実感し、頬を涙が流れた……。
(ん?)
乱威智は光の柱の中で意識を取り戻す。
滅茶苦茶熱いが、我慢は出来る。
そうしてすぐにまた、意識が朦朧としていった。
彼と愛を育み、私は彼がもっと恋しくなった。
寂しいだけと思っていた感情は、いくら抱き締めても足りない位……切なかった。
そうなるかもって分かっていたけど、別れる時にはやっぱりすがった。
「本当に行っちゃうの……?」
「うん、明日には……」
彼は私より愛してやまない人がいる。
そんな連れないところがより一層愛しい。
「きっといつかまた会えるかな……?」
「約束は出来ないけど……この世界は凄い。とんでもない奇跡が簡単に起きるんだ。昨日には予想もしてなかった最高のミラクルが……」
「じゃ、じゃあその奇跡が起きたら……? 必ず会いに来る?」
近付いて約束を迫る。
「ああ、きっとその頃には……俺の恋人もいないかもしれない」
「え、いたらどうするの?」
私のその言葉に彼は驚愕する。
「ははは! そうだな! やっぱりティアスは凄いや……! ティアスに託して本当に良かった……! 君に出会えて俺の夢は救われた……」
彼は嬉し涙を流す。
「ちょ、はぐらかさないでよ!」
「ちょっと積極的になってきたな? そうだなぁ……。彼女に認めてもらうように頑張るよ」
私は嬉しくてワクワクした。
そんなキラキラした未来に。そして頑張ろうと思えた。
「じゃ、ちょっとだけの辛抱だね……」
私は少し我慢した。本当はもっと……。
「んむっ!? んじゅっ、ちゅる……」
彼に熱いディープキスをされて抱きしめられる。
驚いたけど、勿論それを受け入れる。
『あっ! えっ!? ちょっと!』
焦る天の声は二人には聞こえない。
私はそのまま押し倒されて、衣服をどんどん脱がされる。
『ちょ、ちょっと……!』
それを空中の液晶越しに覗いていたティアスが必死にパネルをいじるも、焦ってコード入力をミスってしまう。
といっても服なんて白いワンピースと下着だけだったからすぐ素っ裸になり、彼もごそごそしたら私の足を開いて……。
『ちょ、ばかばかばか!! 止まってってばっ!』
『ママ? どしたの……?』
コードを入力してもロードが入って中々止まらない。
液晶にロード画面越しに映る慌てふためくティアス。
それを見せられている乱威智は液晶だけを見ることにしたようだ……。
彼が腰を動かして体を前に突き出し……。
「ひゃんっ……!」
『見ちゃダメ見ちゃダメッ!!』
『分かったぁ……!』
とりあえずティナには見せないようにおもいっきり隠す。
ただ、声はスピーカーからただ漏れである。
「んっ……♡ んっ……!」
『あああああッ!』
声で掻き消すも、彼の声が聞こえたら叫ぶのもやめてしまう。
「もっと声、聞かせてくれっ……!!」
『あ……』
「ひぃんっ……♡ あんっ……♡ あぁぁっ……♡」
『ああああああああああ!!!!』
『ど、どしたのママ!?』
久しぶりに大声で叫ぶと……音声が止まった。
『あっ、止まった……』
時は止まり、液晶の方には再生ボタン越しに覗くティアスとティナ。
『なにこれ? なんかえっちな子供だね』
『ち、違うのよ!? こ、こここれは私とかじゃないから! あっ! そうそう親戚の人ね?』
『え、何でママは親戚の人のえっちなのを見てるの……?』
ティナも伊達に何百年も子供をやってないの。
鋭くも素直な正論を投げ掛ける。
『ち、違うのよ……!? あ、そうそう勝手に送られてきたのよ! 全くもう!』
ティアスは瞳孔を開き、焦りながらコマンドを打ち込んだ。
また光の柱の中に意識を戻される。
「感動を返せ……」
熱くなっていた気持ちは冷やかされて台無しだ。
「えっちだったぞぉ……。あの頃のティアスたんは……! 毎日毎日。しかも精りょ――」
『うるはいッ!!』
意識が飛んだ。
彼が帰ってから私は妊娠し、一年ほどで子供が産まれた。
愛しい娘に、ティナと名付けた。
ただ、十年育ったティナは成長が止まった。
でも私は不思議に思わなかった。
不死身の子供だから私のその時の年齢より老いたりしないのかもしれない。
そう思うことにした。
子供と共に、私はその祈願を果たす為に努力を続けた。
人間達と竜を見守り、押さえられる暴走は押さえ、竜の命が失われる時間は必ず記録を残した。
じゃあ私はどうなのか?
母に教えられた通り、五十年に一歳のペースで歳を取り、二十七の歳で成長が止まった。
江戸時代末期、御門という新しい武士の家系に変化が訪れた。
どのタイミングか分からなかったが、突然魂が彼女の体から現れた。
確かにこれは防ぎようが無いので、なるべく彼女知能指数をコントロールし、選択分岐を選び続けた。
「ママ、コーヒー温めたよ?」
娘にコーヒーカップを渡される。
最近コントロールに忙しくて充分に睡眠を取れていない。
「うん、ありがと……」
「あんまり、無理しないでね……?」
「分かった……いいこね」
髪を撫でてあげるとすごい喜ぶ。
私はその分頑張れる。
調整が難しかったが、長い年月に比べれば大したことは無かった。
ただ、余程強かったのか八十九の歳まで生き永らえた。
襲う者のみ傷付けるという思考パターンに押さえ込み、周囲が怨恨をあまり持たないようにも設定させてもらった。
ただ一族として暮らさせ、最強としての謳歌を歌わせた。
その一族は続くも、そこから女性の血は濃くとも……同じようなことは起こらなかった。
あまりにも人間が増え、時代が移り変わってきた。
他の星の神との人身の提供も最低限に押さえ、人類は繁殖を続けた。
彼の言う通り、西暦が一九〇〇年を越え始めた頃雲行きが怪しくなってきた。
送り出された人間の子孫にシュプ=ニグラスが細工をし始めた。
竜から抽出した強力な能力を人工的に植え付けたのだ。
勿論人類移動を取り止め、外部との交流を連絡のみに押さえた。
一九四五年、第二次世界大戦の最中……。
奴が動き、行方不明者を強力な魔術で強制転送させた……。乗っ取った使用者の命と引き換えに。
あれを生かしておいてはならない。
そんな時、遠い竜の星で王子が下剋上し、日本と国のあり方や文化を同期させる革命が起こった。
情報を得た時にはもう遅いかなと思った。
あの人は無事に帰れたのだろうか……。
それから戦争は終わり、時代は流れ文化が大幅に発達した。
発展を恨み、神が世界を滅ぼすだなんて言う人間もいたが……こちらとしてはそれどころではなかった。
数々の星で強力な能力者がまた生まれだした。
たった七十年で奴は力を付けていた。
またしても星間の管理を厳しくしたのだ。
唯一交流を許したのは、竜の星の
だが、中央都市から来た娘は彼の話をすると嫌がった。
目的を果たすのは私じゃない。監視に来ただけ。とだけ残してこの星に住んだ。
あれは……住んだとは言えない暮らしをしていた。
彼女はあの時の女侍より強く見えた。
でも、どこか悲しそうな顔をしていた。
目が覚め、ボーッとする。
「な、なげぇ……」
流石千年。影響に残った記憶が全て見るとは言え……。
誰かが操作していたような気がしたが、気にしないでおこう。
でも体に流れてくるこの力……。覚えがある。
「教えたら勘付かれる恐れがある……か」
『そうよ』
(キーは鈴よ)
頭に直接話しかけてきた。奴に聞かれないためだろうか。
(!!)
なるほど、理に叶ってる。
この力はとっておきだ。
魔神を消し飛ばせる位強いとっておきだ。
目先十数メートル先には神が毅然とした佇まいで空を見上げている。
琉威がやってきたことは確かに肯定してはならない。
でも、未来だって同じようなことになっていたかもしれない。
そうしたら俺は彼女を責められるのか……?
きっとそれを止められなかった俺達は自分自身を責めることになる。
「だからこれ以上、好きにはさせない。そうだろ?」
頼もしい相棒が再び俺を元気付けてくれる。
いつも側にいたジーニズが、俺にとってどれだけ大切が実感する。
「ああ、その通りだ……!」
刀を両手で持ち、腕を肩の右側から後方に引きグッと力を入れる。
「待て!」
ティアスに攻撃するのかと勘違いされ、止められる。
俺もそんな早計では無い。
その状態のまま静止する。
琉威は全く動く様子を見せない。
愛美の能力を手にした今、皮膚さえ触れれば自在に相手の神経系を操れるはず。
神として活動する力を神経系から打ち切る。
そこから呪い自体を絶ち切り、邪神にまで育ってしまった原因を無くす。
あの人が叶えられなかった想いを、ティアスが繋いでくれて俺が背負ってるんだ。
ジーニズの兄の半身をここで終わらせるッ……!
絶望的状況からティアスに託されたバトンを、今度は俺が仲間を信じて勝機に繋げる。
彼女は空を見上げたまま全く動こうとしない。
(まさか……気付いて無いのか?)
足で小石を蹴り、彼女の足元に転がす。
彼女は小石の方を向き、小石を見つめるが……また空を見上げ始めた。
空は星空が広がり始め、彼女を照らす光は失われつつある。
(何を意味しているんだ……?)
考えなければ彼女の行動に追い付けない。
空を見上げ続ける。
その方が彼女にとって都合が良い?
だとしたらこのままは良くないな……。
構えを解き、火の玉を手から出して投げてみる。
皆が属性を得意とするように俺だって火属性がある。
弱い物を出すのなら得意だ。
そして再び先程の構えを取る。
ゆっくりと跳んでいく火の玉は彼女の側頭部に当たる寸前で止まった。
火の玉は回転したと思いきや、水泡へと変化した。
水泡は分離し、十五メートル程の龍三体に変化した。
三体の水の龍はこちらを睨み付けている。
(戦闘の意思がない……?)
俺も戦闘の意思を見せなければ襲って来ないと考え、構えを止めた時――。
三体の龍が銃弾のような速さで突進してきた……!?
横に飛び込み、何とか回避した。
後方を気にすると水龍三体は姿を変える。
今度は愛美、優華、結衣に変化した。
(あの時に記憶を見られたのか……)
ただの水泡は生身の形へと変化した。
「あれ……?」
涙ぐんだ愛美。
「何で私ここにいんの?」
制服姿の優華。
「え、ここどこ……。あ、乱威智!」
エプロン姿で包丁を持った結衣が駆け寄ってくる。
動揺から警戒して一歩離れた。
「え……?」
俺の素振りに結衣がちょっと驚く。
「ティアス、本物なのか? コピーされたのか?」
「本物よッ! 後ろッ!!」
後ろを振り向くと琉威が五メートルはある白く光った刀を振りかざしていた。
振り向きながら先程の構えを作り……。
「獄炎流しッ!!」
咄嗟に声を上げて、精神統一を即座に行う。
俺も刀を五メートル程の大きさに巨大化させ、攻撃をいなした。
一撃を決め損なった琉威は手を止めた。
追撃してくるような様子は見せない。
「な、なんで……」
横目で後方を確認すると、愛美は尻餅を突き立ち上がれなくなっている。
結衣が包丁を捨て、愛美の方に駆け寄って介抱する。
咄嗟の出来事を一瞬で把握したらしい。
「どういうこと?」
優華は状況説明を求めた。
簡潔に伝えるならば……。
「御門琉威にジーニズ兄が取り憑いた後遺症。浄化したらこんなだ。後は分かるだろ?」
浄化とこんな姿で今どんな状況かは三人とも把握できるはずだ。
「わ、分かるけど……。私達を連れてきたのは」
「コイツだ……」
ジーニズの兄が持つ神としての新たな力だろう。
愛美は戦闘爪具兼弓はあれど、戦意は無し。
結衣も料理中だったからか剣なんか持ってない。
「ティアス、託した力の説明をッ!」
(タイミング、頼むぞ……)
再び琉威が動き出し、俺を飛び越えようとする。
立体影を三体繰り出し、琉威の前で攻撃を受け止めさせる。
残り二人は戦えない二人を左右から守るように立たせる。
俺自身は優華の元に下がり、手を繋ぐ。
「えっ?」
素っ頓狂な声ではなく、ドン引くような声だ。
「シナプスリンクの強力なもの。合体と捉えて貰って構わないわ」
ティアスの声は俺と優華の耳元に響いたはずだ。
優華に手を振り払われる。
「するつもりは無いわよ」
「能力は共有か?」
再び手を繋ぐ。
「合体を繰り返さないとそうはならないわ」
ティアスも曖昧な答えがうまい。
伊達に千年も生きてない訳だ。
今度こそ強めに振り払われる。
「だから私に何の得があるわけ? その情報」
「今この状況で考えたら分かるだろ」
この間にも自分が立体影間を移動して行動を続けている。少しは気遣ってほしい。
「はァ? あんたの戦いに勝手に巻き込んどいて何? どうせあんたがちょっかいでも出したんでしょ?」
「先にちょっかいを出したのはあっちだ」
横目で愛美を見てから、優華を見て、屁理屈のような説得をする。
「はぁ……」
「ちなみに俺と対峙する前に愛美の能力をコピーしてる。俺もやられて、コピーされたからし返した」
「はぁ……。マジで地雷智……」
ボソッと何か勘に触るようなことを呟かれるが、今はそんなこと気にしない。
気にしている暇こそない。この遺志をコイツが汲み取ってくれなきゃ、ここで俺達はゲームオーバーだ。
上空では未だにデカイ剣技がぶつかり合っている。
(突っ張ってきた……? 何を考えているんだ?)
コイツの行動の方が怪し過ぎる。
まるで話が終わるのを待ちながら余興を楽しんでいるかのようだ……。
ヒントはここまでか。
「現実的な策は俺がコイツを相手して、お前に鈴を――」
「鈴ならさっきからずっとそこで見てるわよ」
あまりの都合の良さに驚いて剣の動きが鈍る。
水平斬りで腹を斬られる前に、優華と話していた俺は助っ人に入る。
(流石に気付いてないなんてこと無いよな?)
「じゃあ二人を――」
戦いながら彼女に話しかけようとする。
「命令するな! そもそも私がアイツを分解すれば――」
(どれだけ意地になれば気が済むんだ!)
「亜依海は琉威の死をどう思う!?」
俺は優華の打ち明けた過去の一部分を知っている。
亜依海が春から再会できたんだとはしゃがない訳が無いだろう。
「卑怯ね……」
彼女はそう呟き、二人の前を守るように立つ。
立体影を一人減らす。
ここで引き下がってくれなきゃと想像するとしんどい。
なるべく俺だって優華を追い詰めたくないし、鈴の命を大切に思う気持ちは同じだ。
「ごめん、ありがとう……」
本当に迷惑をかけた。分かっている。
琉威も救いたくて、また引っ切り無しに手を差しのべようとしてる俺を嫌ってくれて構わない。
「おもしろい……」
琉威が確かにそう呟いた。
そして先程空を見上げていた位置へと戻った。
「何がだ?」
立体影をまた一人減らし、彼女の前に立つ。
「お前らの要り組んだ感情は面白い」
言葉遣いは小学生だが、考えることは確かに神と見ても違和感は無い。
ただ、心が読まれているのならばまずい。三人で何かしてくることが確信になってしまう。
(鈴……!)
どうして彼女は隠れているのに能力を使わないんだ……?
もしかしてコイツには効かないのか?
(まさか……)
「隠れてる女の力貰っていーい?」
琉威が俺に挑発をしてくる。
「ダメだ」
立体影を一人増やし、神社の階段方面に移動させる。
「おもしろーい」
ギザギザの歯を見せて悪魔のように俺を嘲笑する。
「俺は面白くないけどな」
「そうだろうねぇ~。アハハッ……!」
俺の返しの言葉を聞いて、笑っている。
(ハッタリをかけるか……)
「おいおい、それで笑えるならさっきまでのはどうだったんだよ……?」
俺は見下げ果てた表情で煽る。
俺が釣れた程度のアホさで笑えるなら、優華に作戦を伝えようとして焦る俺を見たら、心の内で大爆笑しているだろう。
「はァ?」
目の前に現れ、腹に一発どころか貫かれていた。
(コイツは心が読める訳じゃない。合わせる程の度胸も出来る脳も無い)
「ひゃっ!?」
立体影も腹を貫かれて出血し、愛美が悲鳴を上げる。
(これを……待っていた!!)
神経同士を接続したが、神経の接続を解除された。
そんなの神経不可侵をコピーされたのだから百も承知だ。
(じゃあこれは、どうかな……?)
立体影を全て呼び集め彼女の体に触れる。
「ぐッ……!?」
主に神経の通った場所。
頭と胸の中心、首と背筋、両手、両足
四人で両手を使い、彼女の神経に再接続する。
するとどうだろう。彼女が貫いた俺の腹からは防げても。
他の神経系からの接続は許してしまう。
「ッ……!!」
彼女は言葉を思うように出すことすら出来ないだろう。
彼女の行動全てを奪ったまま差し込まれた腕は離さない。
どうせ全部コピーされてるんだったらこっちもやってやるさ。
シナプスリンクの強化版なら一人のお前には使いこなせない。
「ッ!! ッ……!!」
彼女の白いオーラは少しずつ弱くなり、少しずつ点滅し始める。
あとは自在に力を解除させる。
「ここで、畳み掛けるッ!!」
彼女は目蓋を閉じ始め、能力の解除後に現れる疲労に抗えなくなっている。
「ッ……。ァ……」
彼女は意識を失い始め、目を閉じてしまった。
白い光のオーラは消え、胴着姿の琉威に戻った。
完全に意識を失い、生命活動が休息に入った。
まずは正面に立つ俺自身が、心臓付近の左手を離す。
(もう片手で根源を特定させられるか……?)
これ以上、琉威に人を傷付けさせてはいけない。
だが、彼女は再び体を点滅させ始めた。
(くっ……!)
無理だ。だが、時間稼ぎは出来る。
もう一度心臓付近に左手を添え、点滅を押さえ込む。
彼女の体はもう一度休息状態に戻る。
だが彼女の体に残された遺志は、休息を強制的に妨げて抗おうとしている。
心臓付近に黒いモヤが透けて見える。
(マジか!?)
その時になって初めて目視出来た。
遺志の形と言うものを……。
特定どころか目視出来るのは大収穫だ。
「コイツか……ッ!」
触れさえすれば、逆上で俺に暫くヘイトが向く。少々危険だがこのチャンスを逃す訳にいかない。
未来の体が弱いのを盾に奴の記憶をずっと見れなかった。だからジーニズの記憶も完全に戻らない。
(やめろ……! 触れるなッ……!)
野太く反響した声。未来の能力暴走を止めた時に聞いた気がする。
奴の声だ……!
「せめてッ……! 名前を教えろッ! 何を、企んで、やがるッ……!」
苦し紛れに発する声は掠れていた。
モヤがとの距離が近付く。
彼女の胸中に手が埋まる。水のように沈む不思議な感覚だ。
「お前が……! 生物を拒むのはッ!」
『やめろッ! 俺に……触れるなッ!!』
モヤに指先が触れる。
『ねえ、モース』
白昼夢の中から声が聞こえる。
目が覚めると燃えたぎる城の書庫の中、少女と女の子と横たわっていた。
ブロンドカラーは炎に照らされて、髪のほどけかけたツインテールはゆるやかな縦ロールを保っている。
『ボクは君に……君に感謝してる。それに大好きだよ……。ずっと、ずーっと……』
運命を添い遂げるはずの彼女は涙を流しながらそう告げる。
自分は喋ることもできず、もっと一緒にいたいと口を開く。
『ボクもそうだよ……。世界中が敵で、君のも味方だから……』
そう言って彼女は目を閉じ、自分も意識を失ってしまった。
幾年経ったか分からない。
でも脳裏にあったのは、車椅子になって知能を失っても面倒を見てくれる優しい弟。
エメラルドカラーの髪色で優しい顔立ちだった。
そんな日常は流れるように終わった。
彼に刃物で何度も刺され、命の灯火を消した。
彼は変わらず笑顔のまま、涙を流していた。
目が覚めた時、自分は宇宙のような世界の中で一人立っていた。
感覚もあったけどそれは……憎しみだった。それだけが残った。
どうして自分はこんな目に遭わなくてはならないのか。思い出してみれば、彼女は何も悪くなかった。
俺が巻き込んだ。全てを。
人より力があるというだけで、人の悪意に全て巻き込まれ……彼女を死なせ、弟をより一層苦しませた。
全ての自分を憐れむ生命が憎い。
自分に力を与えた生命の歴史が憎い。
力が存在する世界を創った神が憎い。
そして大切な人を巻き込んだ自分が何よりも憎い。
世界の終焉に彼が望んだのは、生物を滅亡させる遺志だった。
遺志さえあれば自分の力が届かなくとも誰かが叶えてくれる。
本当は、愛しい彼女と一緒に過ごしたかった……。
でも過ぎたことは叶わない。
彼女の骨は二度と命を宿すことは無いし、微笑みかけてくれることも無い。
だったら、そうならなければならないこの世界に復讐として圧倒的な力で消すこと。
憎い生物の命を借りても成さなければならない。
成さなければ俺の怒りは治まらない。
『あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ァァァ!!』
乱威智は謎の咆哮で目を覚ます。
黒いモヤが強い勢いで神経の繋がりを吹き飛ばした。
咆哮と共に俺は後方に吹き飛ばされた。
立体影は解けていない。ダメージは無かったみたいだ。
後ろを振り返ると誰もいない。
(よし……)
琉威を見て、全身が強張った。
彼女の全身は黒い炎と紫の禍々しい雷を身に纏っている。
更に赤い雲のようなオーラが彼女の体を守っている。
瞳は赤く光り、人智を越えた力を全身で感じる。
神社の入り口には優華がいた。
でも彼女も琉威の圧倒的な存在感に後退りしていた。
俺も今の記憶を見て、コイツに言葉や力で物を言っても聞かないだろうと思った。
向かい側の優華にアイコンタクトを送る。
右、そして左。それから上。
俺と優華と鈴の三人で旅をしていた時のコンビネーションアイコンタクト。
俺と優華が敵の攻撃を流しつつ、相互に左右から攻撃。
怯んだところに鈴が上から現れ、時を操作して確実に決める。
優華が目を見開き、頷いた。
その時、琉威が優華の前にワープした。
(サタンッ!)
俺も優華と琉威の間にワープするも、奴は既に赤いオーラを放った拳を振り上げている。
両腕を水平にして縦に重ねてガードするも、奴の拳は腕と胸を貫き、優華の腹部に刺さる感触がした。
「ごぶォアッ!!」
「ぐゥッ!!?」
軽々しく腕は引き抜かれ、俺達は重なるようにその場に倒れた。
俺は意識があるも優華は痙攣したまま動かない。
不死身と言えど優華が危ない。恐らく急所に刺さった。
「ッ!?」
声が掠れて言葉が出ない。回復も再生もしない。
出血が止まることもなく、不死身の効果が発動しない。
(やばい……!)
琉威は神社の外側にある茂みに向かって歩き出す。
今、鈴が俺達の時を戻せば、場所がバレる!
「ぐッ! ぅぅうおああァァァッ!!」
気合いで上体を捻り、上に倒れる優華の両肩を掴んで押し倒す。
泡を口の端から垂らしている青ざめた彼女の顔を掴んで、唇を奪う。
(ごめんな……本当に。俺がもっとちゃんと……優華の気持ちを、考えてやれたら……)
俺は二回の接触と一回の神経接触を完遂させる。
俺と優華の体が光の量子で包まれ、傷は癒される。
互いにその接触の意味を理解し、意識してその行動を行った場合に起こる
髪色と人格が入れ替わり、もう片方の技術や能力全ての内面を解放して使いこなす。
俺と愛美しか持っていない選ばれた人智を越えた力。
ティアスが乗って来たことから、優華も神経同一接触を持っていることを信じた。
それだけが勝機だった。
白昼夢に意識が落ちる中、俺は倒れる優華に本当の想いを伝える。
『お前は俺の誇りだ。唯一無二のヒーローで、でも本当は弱くて切なくて、強がる子で……』
『守ってあげたい……。ほっとけない! そんな女の子なんだ……!』
目を覚ますと水色髪の俺の姿をした優華に抱き抱えられていた。彼女は目を閉じ、眠っていた。
周囲の背景は灰色に染まっていて時は止まっている。
そんな俺達の輝きの中に手を伸ばす琉威は静止していて、鈴が飛び込んできていた。
無邪気な笑みで涙を溢れさせていた。
「やっぱそうじゃなきゃっ……!」
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