第26話 ~江戸の御女~

 昨日の結衣の説教も程々にちゃんと眠ることは出来た。

 だが、五月末のこの季節。天気の悪い日が少しずつ増えて気温も上がり、湿気が酷くなる。


 ここの星も全てが幸せと言う訳では無さそうだ。


「…………」

 ノートを書くペースが落ちて、黒板のペースに追い付けなくなってくる。


『女の子を泣かせるようなことしないの!』

 結衣に言われた通り、俺は凝り性が無いらしい。


 俺は何の為に説得の道を選んだのか。

 その為に愛美や仲間も、俺が限度を越えそうになったら止めてくれる。


 大の男が仲間の女性に助けられっぱなし説教されっぱなし。本当にくだらない……なんてことは口が裂けても言えない。


 だが、あいつらの過去は大体知れた。

 分かっていても奴に従ってしまう。

 そうでないと信じてしまう。


 確かに亜美のように自立と言う建前を使って、俺の邪魔をすることに目的を見つければ逃げられるだろう。


 でもそんなことに何の意味があるのか。

 俺には……ただ臆病に元の世界へ戻れないようにしか見えない。


 その憤りを俺にぶつけているのなら、そんな彼女を泣かせるようなことをするのはやはり筋違いだ。


(ん? でも待てよ……)

 次会ったら正面切って昨日のことを謝ってみよう。


 DV男作戦を思い付くと同時に授業終了のチャイムが鳴る。社会科の教師も話の纏めに入り、口早に授業を終わらせようとする。


 ノートは勿論追い付けていない。

(よし)

 ノートを閉じて先生の話は聞くが、勿論後半あまり聞けてないから分かるはずもない。


 俺は左隣の空白の窓際席を見つめる。

 名簿には天麗てんれいと書いてあるのに出席では呼ばれない。誰なんだろうか。

 というより……。

(怪しすぎるよな漢字……親族かなんかか?)


「気になるのかー?」

 前の席の優太が座ったまま振り向き、聞いてくる。


「うん、まあ……」

 ああはなってほしく無いものだ。なんて嫌味を言う必要もないし。


「一年の初めっから来てないんだ。誰かが気になってしつこく先生に聞いてたのを耳にしたけど、体が悪くてずっと入院してるらしい。どこかは内緒だったけど、そこまで首を突っ込むようには見えなかっ――」

 優太は暗そうな表情で話す。


「いやお前だろそれ」

「ちょっ……!」

 三上にすぐバラされる。


「体が悪くて、ねぇ……」


 その後ろの席の姉が目に入るが、不自然にスマホで視線を隠している。

(この話題になった途端……怪しいな)


「どうもお偉いさんの娘さんらしい。でもそれなのにこんな元一般校に入学ってのもなんかな……」

 三上は考えるような表情をした後、少し口角を上げながら、スマホをいじる愛美に目を向ける。


「おい、愛美――」

「無理」

 それはおもちゃを貸して欲しいと言ったら、キッパリと断られた冷たい言葉とまるで同じだった。


「ならいいか」

 まあ愛美が面倒を見ているんだったら心配することは何も無いだろう。


「ん?」

 怪訝そうにスマホから視線をこちらに向ける琥珀色の瞳。


(な、何も裏はねぇよ……。人の目をジロジロ見るな……!)

 よくもあんな気持ちを伝えあったのに突っ張ってこれるな……。と思ってしまう。


「おお」

「突っかからなくなったな」

 二人が感心するほど俺は彼女にちょっかいを出してたのかと思うと、凄く恥ずかしい。


(あ、そうだ……)

 あのじいさんに道場にでも顔を出してみろって言われていたのを思い出した。



 ――放課後――


 サッカーの練習がある優太は焦りながら教室を出て、三上は愛美と付いてくんなごっこを楽しそうにしていた。

 結衣に連絡を取るも、今日は生徒会の仕事が忙しいらしい。


「残されちゃったね~」

 何とも気まずい組み合わせ。

 亜依海はそれほど気にしては無さそうだけど……。


「三上とはそんな仲良くないのか?」

「中学からだし、二人で帰っても話すことさ少ないかな」

 そんな気はする。優太が三人の中で中心にいるような立ち位置だった。


 練習を眺めるかそれぞれ帰るかとかだろう。


「そっちは愛しの結衣ちゃんと?」

 にやけ顔でこちらをいじってくる。

 気まずい雰囲気を壊そうとしているのだろうか。


「いや、忙しいらしい」

「ならさ……」

 少し俯いて暗い表情になった彼女を見て、息を飲んだ。


「うちでお茶してく?☆」

 そんなピースを目元に当てて、てへぺろをされても……。


「その後で構わないんだが、道場へ――」

「じゃあいこいこぉー!」

 遮られた……。一人で行ってほしいらしい……。



 あっという間にそこそこ新しそうな一軒屋へ。


 腕前があるのなら道場も栄えていることには違いないだろう。


 でも道場に女性一人は少し不安なものがあるな……。

 それを仮に亜美だと考えると、道場が成り立っているのも分からなくない……。


 壊れた玄関の補修後なのかビニール材のみが貼ってある……。


(何やってんだよ全く……)

 その憤りを剣術で俺にぶつけられた方がまだマシだ。


「ご、ごめんね……。こんな有り様で」

「いや……。説得の話のネタが増えた」

 気を病ませないため、幸せそうな溜め息を漏らすと……。


「やっと笑ってくれたね」

「え……?」

 聞き返す間もなく中へ案内される。



 リビングに入るや否や……。

「何か変なクッション転がってるけど気にしないでね」

「え……」

 思わずそのクッションに絶句する。


 それはクッションでは無く、萌えアニメ系の少しえっちな抱き枕だった……。しかも幼いキャラクター。

 硬派な女道場主のイメージが……。というか余計心配になってきた。


 愛美はここにはもうお邪魔したのかな……。アイツはこれを見てどう思ったのだろう。

 彼女はそこまででは無くとも、そこそこ漫画やゲームが好きだった気がする。


 ゾッと悪寒がした。

(まさか……)


「あれ? 乱威智くんもそっち系?」

 今、『も』って言った? これは間違いない……。


「い、いや……? 愛美が一軍で鈴は二軍なだけだ」


 お茶を用意してもらう間、その抱き枕の無垢な瞳がこちらを見ている気がする。

 それにデフォルメ二次元キャラのクッションもいくつか並んでいる。


 俺も漫画は好きだけど……。鳴海ちゃんには毎日連絡取ってブロックされるけど……。

 マイクロビキニの露出の物をリビングに置くか?。


 俺にはそこら辺がちょっと分からない。

 自分の部屋に隠しておくならまだしも……。


 とりあえず道場主は極度の可愛い物が好きなのだと言うことが分かった。


 そして座ったテーブルを見つめると、御門 琉威という名前の書かれた箸包みがテーブルマットの下に挟んである。


(ま……!?)

 急いで立ち上がって椅子のクッションを見る。

 華奢で小さな太もものイラストのクッション。


 しかもビキニどころか、そのクッションイラストは両手で大事な部分を隠している。

 俺はそのクッションを捲ろうとして手を止めた。


(両手……)

 捲るのをやめた。

 顔を上げてテーブルに向き直ると、お茶は既に用意してあり、亜依海が向かい側の席からこちらを笑顔で見つめている。


「私も二軍だから安心して……!」

 乗り出してきた彼女は小声で励ましてくれた。


(そもそもイラストがエロ過ぎて励ましになってねぇよ……)

 流石大人の剣術者ということか……。


 テーブルの上に出されたのは紅茶の入ったティーカップ。

(お、お気遣いどうも……)


 俺は紅茶に口をつけ、話を切り出す。

「で、何の話がしたいんだ?」

 そんな聞き方をしても何の話かは分かり切っている。


「お願いがあるの……」

 また震えた声で彼女は願う。

 彼女の持つティーカップがカタカタと震えている。

 どうしてこうも断れない雰囲気を出してくる。


 断るも何もこちらから手を差し伸べないといけない仲間に比べれば大したことはない。

 でも……。どうしてだろう。

 今まで散々残酷な記憶を見てきたはずなのに、あいつらのことを思うと仲間のことのように胸が痛い。身体中が痛い。そして悔しさと怒りで頭が熱くなる……。


「何をだ……?」

「お姉ちゃんにもう人を傷付けさせないでほしい……」

 そんなことか。なら俺もやろうとしてることだ。なーんて簡単に言える程楽ではない。


「既にやろうとしてる。その代わり、愛美の味方であってくれ」

「え、そんな――」

 彼女の言葉を遮る。

「簡単ではない。長く近くにいる俺ですら……よく分からないんだ……」

 本当に何を考えているのか分からない。

 どうしてこのタイミングで告白なんか……。


「それは違うよ……! 分かってても君が素直になれる甘い言葉を待ちわびてるだけだよ!」

 彼女は急に席から立ち上がって、俺に正論を叩き付ける。


「…………」

 目を見開き、瞬きをする。

 いきなりのことにとても驚いてしまった……。


「お互いに自分の気持ちが分かってるつもりで、理解しようと一歩踏み出した足を言い訳で引き返すの……」

 彼女は胸に手を当て、そう呟くと席に座る。


「…………」

 沈黙が流れ、俺はただ彼女を見つめる。


 自分がとても醜く見えた。

 でもそれは誰も皆も同じ感情なのかもしれない……。そう思った。


 愛美だって本当は俺に素直でありたいし、結衣だって本当は俺に嫌な気持ちの一つでもを聞いてほしい。

 優華だって本当は助けてと言いたくて、あいつも本当は全てを忘れて家族と暮らしたい……。


 だからか……。

 これ以上あいつが……御門亜美が周りを傷付ければ逆あいつ自身が傷付けられる。

 そういうことだけじゃない。


「じゃあ、その本音教えてくれよ……! もう一回!」

 俺も立ち上がり、机に両手を当てる。


「早く、お姉ちゃんと皆で……仲良く、暮らしたい……! 昔みたいにっ……」


 彼女は机に突っ伏して、本音を吐いた。


 御門亜美を何としても連れ戻す。

 絶対に諦めない。あの嘘つき矛盾女を真っ向からどうにかする。

 ズルなんか無しの俺が編み出す剣術で……!


「分かった」

 俺は置いていた荷物と刀巾着を掴み、玄関へ向かう。


「ちょっと待って!」

「?」



 街の大きな神社に存在する道場。

 大きく立派な物だった。


 草履を脱ぎ、障子戸を開く。


「えっ?」

 女の子座りをしている愛美がそこにいる。

 上裸で背中をこちらに向けてさらしを巻いていた。

(怯むな……)


 目を逸らして近くで座禅している道場主を見つける。

 黒髪ポニーテール。凛とした容姿端麗な女性。

 身長は160センチメートル程で、俺達よりも少しだけ背が小さい。


 彼女は目を開くとこちらを真剣な表情で見つめる。

 表情一つ変えない。

 師匠達も皆、そんな感じだった。

 それがあんな……。

(雑念は抱くな……)


「受け継いだ剣を、教えてください」

 膝を突き、土下座をする。

 俺が誠意を表す方法はこれしかない。


 恥など知らない。仲間の命を溢すことの無い未来なら、仲間の幸せを掴める未来の前では安過ぎる代償だ。


「私の剣じゃ奴に勝てないが……?」

「俺の剣で勝つには……御門亜美を少しでも知る必要があるからです」

 こんなの告白をしているみたいだ。

 でも、それでも……亜美をあの女剣士みたいな……。


 その殺気は遅れてやってきた。

 既に頭上に舞う風。

(昨日の、つれか……!)


 竹刀が俺の着物の襟に入りそうになる。

 右から何かが飛んできている……!


 俺は飛んできた竹刀を右手に掴み、左へ転がりながら竹刀で攻撃を逸らす。


 つれは恐らく……絶対に避けられない技の型か何か。

 転がった瞬間、既に刃先がこちらに向かって近付いていた。逸らさなければ、無理矢理襟に捩じ込まれていただろう……。


 着地した彼女の足はもう既に地面を駆けていた。

 足音も足袋の摩擦音すら立てずに……。

(直ぐにスピード技で猛攻を仕掛けられていたのはアレか……!)


 だとすれば次は間違いなく……。

(迎え撃つッ!!)


 居合いを構えている時間はない。

 竹刀を両手で持ち左下に構えた。


 全重心を刀身にかけ、右上に斬り上げる。

『バシンッ!!』

 やはりつじだ。縦から振り下ろされた彼女の竹刀と俺の竹刀が激突。


(もう一発ッ!)

 斜めに回転し、後ろへ斬り下げるもそこにはいない。

(前か……?)

 辻は前方縦斬りの直後、後方に周り回転で勢いを付けた水平斬り。


 斜め回転斬りの勢いで、もう一度竹刀を前方に斬り上げる。

 視界に見えたのは剣を下ろした彼女だった……!

 寸出の所で斬り上げを止めると、彼女の残像が消える。

 試されている……?


(別の技だッ!)

 前方横じゃなければ縦か斜めか後ろか下か上か。

 考える暇も無いだろう。


 その一瞬で目を閉じ、気配を感じ取る。

(無い……!?)

 殺気が無い。気配が無い。

 如月さん達師匠や亜美とも剣術のレベルが違う……。

 なのかこの人は……?

 亜美に怪我をさせられる? そんなあり得ないと思う。


 残像の消え方を鮮明に思い出す。

(上に消えたんならッ……!)

 滝のような斬り下ろしが想像できた。


 俺も同じく得意の上空技を使う。

 上に飛び、空気抵抗を極限まで落とす。

 そして一点にぶつかる時、空気抵抗を真逆まで増やす

 数倍にも跳ね上がった反動の力を叩き込む。

『ガジャンッ!!』


 機械が捻り潰される音と共に、双方の竹刀が弾けた。


 弾けた物は……銃弾と言っても過言ではない。


 抜刀村正真打を抜き、破片を四方八方から無数に斬る。

 先日使った竜宮ノ神刀術、隼ノ時織の縮小版。

 破片を真空に閉じ込め――。


 納刀したと共に真空の鎖は解け、破片は地面にポトポトと落ちる。


 常人には瞬き一つで破片が地面に落ちたと見えてもおかしくはないだろう。


 目の前で折れた竹刀を捨てる彼女はそうでは無さそうだ。



 ――数十分前――

「気を付けてね……」

「え?」

 戦闘服に着替え、再度亜依海に呼び止められた。


 師範代は弟子に負けた。俺はそう認識していた。

 だから剣を学べると思っていた。

「あの人は江戸の御女の生まれ変わりだって噂を聞くの……」

「江戸の御女……?」


「江戸の御女って言うのはね、江戸時代後期最強の剣士と剣術士の間でのみ噂になったの」

「どうして剣の世界でのみなんだ……?」

「それはね……」


 彼女の話はあの部屋とは別世界の話のようだった……。

 江戸時代後期に発展を見せた剣術、御門流はその発展振りに他の流派から嫉妬され民から恐怖された。


 鍛え上げられた門下生は痩せ型な男しかおらず試合では必ず勝利する。

 数多い門下生がいるのに、師範の女性は付き人も弟子も取らない。


 だから寝込みを沢山の男性で襲う計画が実行されたが……皆木刀で滅多打ちにされ記憶喪失になってしまったそうだ。


 それから民は話に触れることも恐れた。


 新撰組、抜刀斎、名高い侍達に勝ち、人斬りを気絶させ……その情報を流す者は誰一人いなかった。


「じゃあ何でそんな話が――」

「その、あるんだよ……負け印って言うのが……」


 負け印。それはあなたを嫁に取りませんという内容の物らしい……。

 修羅の血を許された侍に移り行く時代。


 勿論政府は圧力をかけたが……数々の門下生に銃器は壊され逆に圧力をかけられる始末。

 婿になる最強の剣士を差し出せたのかどうかは負け印が無いので分からないそうだ……。


「結局、どうなったんだよ……」

「育て上げた門下生に惚れたとか何とか家の中ではそういう話を聞いたことがある……けど」

「随分ロマンチックに纏め上げたな……」


 ともかく、その生まれ変わりと呼ばれる彼女は……この星最強の剣士であることには違い無さそうだった。



 ――そうして現在に至る――


「あなたは……剣に何を求めてるんですか?」

 こういう質問の方が良いだろう。


「剣に……? それは……敵を作らず剣を握らない強さとかではないか? 今の時代なら」

 次元が違い過ぎる答えに思考が停止する。


 生まれ変わり……? 痩せた男のみに木刀で滅多打ちと記憶喪失。リビングにまで侵食した趣味嗜好……。強烈な悪寒がする。

「愛美がお世話になっていたみたいですが、には何か……?」


「何か……とは?」

 空気がヒリ付く。

(まさか……)

 一筋の予想に過ぎない。あの日愛美が俺らに着いてこないことを予測してわざと早く帰宅し、愛美に助けさせて釣るような真似を……?


 久々の危険人物との対面に背筋に電撃が走ったように強張る。


 覚醒した未来や再開した兄貴、シュプ=ニグラス、扇卯豪乱や葵優華……。

 神智を越えた力を目の前にするとこんな恐怖を抱いていた気がする。


「君は何か勘違いをしてるんじゃないか……?」

 そう言って彼女は後ろの掛け軸の下にある実刀を手にする。

(じゅ、銃刀法違反だぁ~!)

 政府へかける圧力にはそんな冗談通じないだろうな。


「別に俺は……」

「実刀での勝負が嫌なら、君の負けとして――」


 抜刀村正真打を抜き、彼女へ振り下ろす。

 勿論の事、鋼のように灰に煌めく刀で受け止められた。

 挑発に乗ってしまった……。でも……負け印の内容が本当に嫁に取らないことだけなのか……。確証が無い。


「君はよく無謀だとか言われないか?」

 姉妹揃って挑発、煽りが得意らしい。


「ええ、不死身ですから。そんな化け物に情なんか向けられても逆に困る」

「開き直り……中身も幼いとはッ!!」


 彼女は開幕から水平斬りを叩き付ける。

 刀に触れる寸前で刀を右に逸らして研ぎ材にしながら躱す。

 勿論体は右に逸れる。


 そのまま彼女は下方向へ姿を消す。


 赤い薔薇の花弁が周囲に舞い、刺突の連続攻撃が花弁から繰り出される。

 七閃ななせん一轟いごを思い出し、拳を刀身に置き換えて全ての刺突を波を描くようになぞる。

 攻撃の方向を捻じ曲げて反射させた。


 だが、その反射した刃は回転してこちらに向かってくる……!

 三方向の回転刃カウンター返し。

 俺は両手で刀と鞘を合わせて持ち、先程と同じく左後ろで構える。


「同じ技などッ!!」

(違うんだよなぁ……)

 三つの回転刃を押し返し、俺は右下と左下に立体影を走らせて姿を消す。

 立体影に左右から水平斬り。俺は正面から縦斬り。

 同タイミングの辻を繰り出す。


 目の前に現れた彼女は……回転していた三つの刃を持ち、全ての攻撃を舞のように跳ね返した……!

 右足で着地し、左足と両手にその刀は掴まれていた……。


 押し返されながら舞の中の右手の刀に光が灯った。

 反射光などではない。

 光ったらそんなもの大技居合いの合図に決まってる。


 俺も戻る立体影の体を蹴る。

 つまり自分自身の体を使い空中で方向を補正して、居合いの体勢を構えた。


 一拍を置いた刹那。

 居合い斬りと居合い斬りが衝突する。

 双方が駆けるはずの居合い斬りは接触時の圧力が強すぎてぶつかったまま火花を散らす。

『ガチャァァンッ!!』


 お互いがお互いを通り過ぎることを許さない。

 そのまま水平斬りに持ち込み、互いの水平斬りを互いに縦の斬り下ろしで受け止める。

 そして再び斬り下ろしの衝突が目前で火花を散らし、その奥には彼女の冷たい紺色の瞳が見える。


「どうした?」

 彼女が俺の気分を気にかける。

「いいえ」

 食い気味だけど冷酷な声色で答える事しかできない。


 文句を言えるのか? 俺は。

 あの時何としてもシュプ=ニグラスを止めれば、、俺の頭を駆け巡るこの憎しみの感情は変わっていたのかもしれない。


 目の前の女が最強の剣士? 笑わせる。

 じゃあ何故俺はひれ伏していない。

 手加減されているのか? 亜美に同情も許さず、愛美を手配した俺にも何の言葉も無いコイツが?


 くだらない。


 俺は鞘を左手に引き寄せ、刀と鞘の交差斬りで彼女を押し退ける。


「そろそろか……ッ!?」

 彼女がそう呟いた時に、俺は既に彼女の上空から斬り下ろしを放っている。


 視界は赤い。覚醒ではないと俺でも分かる。

 でもきっとこれはそれに似た中毒症状なのかもしれない。


 彼女は下からの斬り上げで応戦する。

 斬り上げじゃなければ彼女の首を撃ち抜いていたのは間違いない。


「目なんか赤く光らせやがって……。欲情でもしてるのか?」

 彼女の言葉を待ってすぐ、扇卯烈拳・緋扇を活かし太刀筋を曲げる。


 曲がった太刀筋が気配を消したまま彼女の左首に入り込む。

 寸出の所で彼女は左手で止めた。彼女の刀は曲がった太刀筋で縛られたまま。足も胴体も動かせないはずだ。

 刀身はいつもと違うドス紫に光り、勿論手から血が出ることもない。


「やっぱりか……。くだらねぇ……」

 俺は酷く落胆する。


 彼女の額に汗が滲んでいる。

 初めての感覚なのか? 滑稽だ。ざまあ見ろ。守るべき人という生物を強さに見惚れ嘲ていた罰だ。


「うぐッ……何を……!」

 彼女の顔色がどんどん悪くなる。


「俺はこうやって幾千もの命を救ってきた。奪うことで揉み消してきたお前には分からないだろうな」

 既に彼女の記憶は見た。

 剣の才に生まれ変わりと持て囃され、友人を助けなかった悔いを跡形も無く忘れ、強さを武器に沢山の人の情欲を利用して五体満足に暮らす。


 それは俺が思っていたような甘い物ではない。

 妖刀を手に入れ、血塗られた悪鬼の魂。

 江戸を闊歩しては平然と平民の振りをして暮らすが、襲ってくる物の命を液体になるまで跡形も無く斬り殺す。


 彼女自身も処刑執行人という仕事を隠れて行っていた。


「悪鬼が……!」


 シュプ=ニグラスが直接手を下せなかったのは神がいたからではないだろう。

 ティアスは過去しかどうにかすることは出来ないと言っていた。


 つまり……コイツは人間的に終わっているが、感謝しなくてはならない。


 こんな心を持たない奴は今まで幾度と無く見てきたが、屈辱だ。


「呪いに囚われない悪鬼がッ!!」

「や、やめろ……!」

 彼女の目は潤んだかと思えば虚ろになり、その場に倒れそうになる。


 どうして立ち向かわない。趣味に逃げて、業を受け入れる。大切なものだけを守るために。

 俺は歯をぐッと食い縛る。


 琉威は倒れる途中で動きが止まった。悪鬼の血が敗けを認めないのだろう。


 彼女から即座放たれる居合い斬りを曲がった太刀筋でで掴み、刀を奪う。そしてそれをポイと投げ捨てた。


 次に彼女は膝を落とし、落とした刀を眠ったまま掴もうと飛び込んだ。

 掴む寸前で俺は飛び込む彼女の背中を踏み、地面に叩き付け、動けなくする。


 曲がった太刀筋で縛り、斬り付け続け体の神経系や筋肉まで紫刀で静止の眠りに誘う。


 憎い。

 俺は彼女のズルい生き方を否定しているが、外部から手に入れた力を否定することはジーニズを否定することになる。

(救うって何なんだよ……!)

 馬鹿馬鹿しくなる。


「すまないな……」

 本当は罪もない一般人なのに。

 その呪いの面影が、匂いが、未来のものと全く一緒なだけに……。

 本当に悔しい……。


 ピクリと彼女の人差し指が動く。

 おかしい。あそこまでやれば痙攣などしないはずなのに。


(もうやめてくれ……)

 俺は酷く後悔している。

 守り神の祟りに触れてしまったのだろうな。


 彼女は足元から脱出し、刀と同時に消えた。

 いや、部屋中を四足歩行で飛び回っている。


 見渡せば、愛美はもうそこにいない。

 琉威は瞳を赤く光らせて、二足歩行に戻り始める。

 姿勢を曲げたまま、こちらを睨んでいる。


 この世を掌握する最強の生物になろうという強い意思が、全ての生物に対する憎しみが伝わってくる。


 彼女は催眠毒にやられた神経系をリセットして、催眠毒を消化できるように神経系を作り変えた。

 さっきよりピンピンしているのは、もう栄養として取り入れてしまったのだろう。


「道理で……」


 考えたままのことが順序を踏まずとも現実化出来る能力、想造現壊イメージパスカル

 先祖から受け継いだ神殺キラー

 その中には神経系自由操作の能力が存在する。


 愛美と全く同じその力が無ければ神経系のリセットは不可能だ。


「愛美に何をした……?」

 大切な人を傷付けたかもしれないことと、そして持ち主の寿命を減らすこの能力を勝手に使ったことに怒りが湧き上がる。


「お互い様だろう……。二人に、三人に何をした?」

 それは彼女の声だ。御門琉威の気持ちが言葉から伝わってくる。



 *



 一方、愛美はさらしを巻き途中でワイシャツとブレザーを羽織りながら走る。

(やっちゃった……)

 あたしは仲間を裏切った。裏切った……。


 弓が撃ちたかった。

 大好きなのに、片目が無くなってから撃つと吐き気が止まらなくなる弓術が。

 あたしは克服したかった。恐怖から。


 さらしを巻き方を忘れて、知り合って間もない琉威に手伝ってもらっただけ。

 亜依海の家族だからと信頼していた。

 それがいけなかった……。

 彼女があたしの汗に触れた瞬間、彼女の瞳の色が琥珀色に変わった。


 つまりそれは……あたしの能力を持たれてしまった……。

 奪われたのかは分からない……。


 ヒーローがやってきて……ひたすら逃げた。

 大好きな人なのに……。

 怖くて怖くてひたすら逃げた。


 またやってしまったという悔いと恐怖涙にしながら土手の上を突っ走る。


 ずっと走っていた。父親から習った体術を使えばよかった。

 でも……何をされたか分からなくて……怖くて……。


 小石を踏んでしまい、バランスを崩す。土手から宙に浮き、右側の下り坂に向かう。


 体の制御が効かないんじゃなくて……。


 未来の、笑顔から牙を向く悪い表情を思い出す。


(もう、終わりだ……)

 ここまで頑張ってきたのに。あともう少しでそれも克服して、大好きな人に認められたのに……。

 なんで……。


『ドンッ!』

 何かがあたしを受け止め、土手の坂を転がる。


 下手くそな受け身で彼は体勢を整える。


 目を開け、夕日の影に隠れた顔色。

 気に食わない短めの金髪。


 三上龍生。

 こいつは本当に気に食わない。


 どうして、あたしの心の内を分かったように動く。

 初日から、暇だからって……。

 亜依海とは途中で別れるのに、どうして送ってくれるのか。分からなかった。


 今日だって神社まで着いてきて……。


『ほら、また泣いてる。そんなんじゃいつか追い抜かされちゃうぞ……』


 瞳孔を開き、忘れようとして忘れた古い記憶を……思い出した……。


 乱威智の弱さにうんざりして冷たくしてしまい、自己嫌悪に陥って眠れない深夜。

 部屋に入ってきた兄は調子に乗っていたあたしに、闘志足るものを教えてくれた。


 彼は自分の考え。胸が熱くなるようなヒーローの話を作ってくれた。


 唯一の憧れ。


 誰に負けることもないのに、その力を竜と人の為に使う。

 ただ、自分の意思は誰にも譲らない。

 受け継がせてもくれないズルい人。


 お嬢様抱っこをされたまま、あたしは龍生を見つめてしまう。


「あれ、案外……いや、何でもないや」

 本当にデリカシーが無くて、弱いくせに変なこだわりがあって生意気で……人がイラつく言葉を言う気に食わなさ。


 でも急に、優しくて……。

「え? 怪我でもしてるのか……!?」


 あの人みたいな熱い言葉で奮い立たせてくれる。

「よし、手当てしてやる。これが俺のやるべき事かな」


 ベンチに横たわらせてくれて、兄みたいにとても紳士で嫌らしい目をしない素直さ。


「あ」

 急に彼は両手で顔を覆う。


 かと思ったらあのバカみたいに、ちょっと変態で……。


「あのぅ……さらしからなんか見えてるんだけど」


 顔が真っ赤になって、胸を隠す。

 やっと息を意識した。


「お! 顔色は戻ってきたな」

 元気な笑顔かと思ったら優しい言葉で締めくくる。


 黒髪で、ひたすらに優しくて……でも一番あたしのことを想ってくれたあの人は……。

「あ、あれ?」


 あたしが初めて素直な気持ちを打ち明けたあの人は、もう……いない。

 気持ちの波が崩壊した。


「うぇっ、ぐっ……ひぇうっ……!」


「そっか……。また、辛いのか。よしよし……」

 起き上がらせて抱き締めてくれて……人前なのに子供みたいに泣きじゃくる。



 *



 その頃、神社は夕陽に照らされ、東から昇る夜の灯火に覆われ始める。

「はぁッ……」


 互いに一つの刀を持ち、刀を下げたまますり足で横に移動する。


 俺は心臓を自分の妖刀で突き刺して白炎を発動し、白い髪になっている。


 琉威はもう不死身を俺から手に入れたのか、同じことをして髪を赤色に変色させていた……。


 互いに能力、身体能力の向上がある。

 というところだろう。


 これは威嚇と捉えられ、竜相手にはまず使わない。

 亜美にも感情の二面性があるため、混乱させるし、真剣な刀勝負でも、アイツがズルをしてもこれから使うつもりは無い。


 でもコイツは違う……。

 悪鬼が体を乗っ取っている。

 今まで戦ってきた悪魔や魔王と同じ存在だ。

 根源が悪に染まり切っていたら、再帰誕リバースの応用で浄化してあげなくてはならない。


 人間として戻る場合もあればとうに寿命を力へ変換している場合もある。

 その場合は還り、新たな命として吹き返すか俺と共に来るか。その二つだ。


 もう一つは……逃げた愛美に鈴を呼んで貰う。

 催眠毒が効かなければ浄化の方法はかなり難しい。


 鈴に時を戻してもらっても、また悪鬼の現れを先伸ばしにするだけ。

 年単位で戻すことは……アイツにはまだ無理だ。


「そこをどけ」

「どかねぇよ……」

 鈴は俺達の希望の星だ。

 そんな将軍様を易々と襲わせる訳無いだろう。


「なら、お前が折れるまでッ!!」

「今度はお前が折れる番だ! 空っぽ野郎ッ!!」


 覇気と覇気がぶつかり合う。

 互いに刀を振り上げ、正面でぶつかる寸前に俺は本当の太刀筋を見せる。


「檄槍ッ!!」

 彼女の脇腹に水平斬りの一拏いちだ檄槍げきそうを入れる。

「ぐッ!!」


 その強力な衝撃は彼女の刀を怯ませ、内蔵を破壊し、吐血させる。

 赤い炎竜が彼女の脇腹に噛み付き、障子に叩き付ける。

 隠れていた痩せ型の門下生の青年。彼は恐れた顔色で、赤い髪の琉威を介抱しようとする。


「だ、大丈夫ですか師はっ……」

「逃げろッ!!」

 居合いを構えながら注意を促す。


 目を覚ました琉威は赤く光った瞳を爛々と動かしながら起き上がる。


「冷泉居合術」

 クラウチングスタートの形から、刀の柄に掌を当て冷泉家特有の居合い立ちをする。


 一方琉威は門下生を押し倒し、股間をまさぐり……。

「しっ、師範! こんな時っ……んむっ!?」

 唇を奪い、袴の隙間をそこに合わせ、腰を上げる。


「連れなる閃きは」

 昨日十二回しか試せていないッ!

「迷うな乱威智ッ!!」

 開いていた瞳を閉じ、精神統一させる。

(言葉や鎖が無くたってッ……!)


「師範! 目を覚ましてくだっ!」

 門下生はもがく。

「あっ、やめてっ! る――師範ッ!!」

 門下生に門下生の意思がある。皆が皆、師範に最強の業を背負わせたいだなんて思っていない。


 乱威智は目を開き、赤い眼光が青い眼光へと変化する。


「冷徹なる波の如しッ!!!!」


 連の応用を効かせた、静かなる閃きは冷徹なる波の如し。

 青い電撃のような真っ直ぐな閃光はこの世で最も高い音を立てる。

 生物には聴こえない音の刹那。


 強力な居合い斬りが琉威の刀を引き寄せ、彼女の胸に押し付け、神社の石床に転がらせる。


 転がった彼女を追う青い閃光は一度上へ昇り、彼女を押さえ込む。

「森からでもいいから逃げろッ!!」

 彼女の顔を見つめたまま、門下生に怒鳴る。


「はッ……はいぃぃっ!!」

 のけ反った門下生は這いつくばる体勢に変え、急いで駆け足で逃げていく。


 神社自体山になっていて高所にある。

(無事に生きてくれよ……!)


「がッ!!」

 俺は彼女を押さえ込んだまま、首筋に噛み付き、貧血を起こさせる。

 勿論、神経不可侵を使った状態だ。そうで無ければ能力全てをコピーされる可能性がある。


 呼ぶ前にジーニズの力は口元の唾液となって溢れている。


 唾液を首筋の血液に流し込む。


「はぁッ! はぁっ!」

 彼女の覇気が失われ、元の姿へと戻ろうとする。

 だがその速度は抗う力と相殺して遅い。


『ゴンッ!!』

 力強い頭突きと刀の柄で殴られ、気絶しそうになる。

「力を抜くなッ!!」


 ジーニズに怒鳴られ否が応でも上体を起こす。


(負けるかッ!!)

『ズガッ!!』

 その衝撃で背筋が否応なしに後ろへ反り返った。


 一瞬で目を覚ましたはずだったのに……。

 もうその時には行為は終わっていて……俺の体液が彼女の腹部に注がれていた。


(今の一瞬で……!?)


 彼女の顔色はどんどん戻り、髪色も赤色に変わっていってしまう。


 神経不可侵で、神経の接続を拒否出来たはずなのに……神経を接続された。

 力を読み取られる謎の不快な感覚が、脊髄を通って脳に響く。


 拳で彼女の右肩をぶん殴る。

 彼女はもう一度石床を転がる。


 袴の上からでも分かる。パンツが破かれている。


(どうして袴を破かない……?)


 彼女の汚れていたはずの胴着と袴は綺麗に戻っている。


(弱点みーっけ)


 刀を持ち、彼女の元へ飛び込む。

 右側から下、上と斬り付け、叩き付け彼女の左側へ回転し、背中を叩き斬るも刀で防がれる。


 怯まず、下から斬り上げを行い、臀部に力を奪う斬り付けを行う。

 先程の体液をしっかり返して貰う。

「うがッ……!」

 彼女はバランスを崩して前へ反り返る。


(ナイス……!)

 暴食の力を貸してくれたベルゼブブに感謝を忘れない。


 そのまま右上から左下の斜め斬り下ろし。

 左下からの左上への斬り上げ。

 左上から右下への斜め斬り下げ。

 三回とも避けられたが、彼女はこちらを向く隙がない。

(いけるッ!)


 倍速、四倍速、十六倍速、三十二倍速、六十四倍速

 、百二十八倍速で三連撃を繰り出した。

 千ノ刀・速、碧速の刃、三節。


 流石、剣聖。

 十六まで全て避け、三十二と六十四は見事に防いだ。

 だが、最後のは追い付かずに全部喰らっていた。

 やってる側の俺ですら避けるのは厳しいだろう。


 最後の斬り下げは斬り払いへと変更し、即座に彼女の心臓を突き刺した。

 ドス紫の刀を彼女の心臓周辺の神経のみを掴み取る。


(頂くぜ……)

 愛美からコピーした能力、俺の能力を奪い使えない呪いをかけた。


「んがッ!?」

 彼女の髪色は元の黒色へと戻り、ショックで泡を吹いている。


「サタンッ……!」

 刀を突き刺したまま、俺と立体影は上空千メートル、地中千メートルの位置にワープする。


 俺が刀から離れることで力の逆流を防ぐ。

 なる呪いもかけた。

 しっかりと狙おう。


 瞳を閉じて精神統一。


「天王抜刀術ッ!!」

 地中と天空からそれぞれ同じ刀を出現させる。

 柄をがっしりと掴み、那津菜流受け身術で体勢を安定させる。

 先程の居合いより姿勢を落とし、一直線の形を意識する。


 目を開き、エメラルドの眼光を放ち、いつもより力が湧いてくる。


 星で待ってる如月さんが……師匠達が、家族や支えてくれた人達が笑顔で背中を押してくれる!


天地威嶽てんちせきがくッ!!」

 技のみに全てを集中させ、天地碧嶽てんちへきがくが進化した。


 いつもなら緑の光を帯びた一撃が、赤い閃光の中に、エメラルドの炎が灯り……。

 天地を両断した。

『ドオオオォォォン!!』


 特大の雷の轟音が響き、最大級の技のみにに発動するジーニズの浄化の力で焼き尽くす。


 閃光と炎が煌めき、放射状に消えていく。


 勢いで地面に叩きつけられた俺は彼女の方を見る。


「うそ……だろ」

 彼女は悪鬼の生まれ変わりではあった。

 でも、悪鬼ではなかった。


 魂だけ受け継がれているからと思っていた。


 さあここで問題。悪となる概念を浄化して神となる者は何だ?

 だ。


 堂々と立ち尽くす彼女は服など脱ぎ捨て、体が光の白いオーラで描かれていた。


 胸の中心部に炎のマーク。囲うように波の模様。


 胴体の肌には風の模様が。

 そして下腹部には雷のマークと模様。


 太ももから足には岩や土や砂の模様が描かれ……。

 舞い上がった髪は金色に輝き、ポニーテールの髪止めは大きな月の装飾。


 太陽を模した煌々と輝く朱色の瞳。


 この星にあってはならない二体目の神が降臨した。


「聞こえる!?」

 耳元にティアスの声が響く。


「まずい、やっちまっ――」

「いいからッ……! 鈴ちゃんが来るまで、そこで足止め!」

 いや無理だ。

 あんなの相手にするのは俺一人じゃ……。


「なよなよすんなッ! やるって決めたんだろ!?」

 ジーニズに怒鳴られ、ハッと目を覚ます。


 上体を起こして、起き上がる。

 奴がこちらに気付いている素振りは無く、明後日の方向を見つめている。


 その方向にいたカラスを焼き殺した。


「私の力をコピーしなさいッ!!」

 俺に向かって光の柱が落とされる。


「ふぁ、はぁっ!?」

 空を見上げ驚いた時にはもう遅く、俺は彼女のを記憶を覗き見てしまった。

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