竜が紡ぐ3 ~地球にやってきた異能力者の物語~

涼太かぶき

第1話 ~二度目の学園生活~

 地球に到着した乱威智らいち達。

 宇宙の中から選ばれた異能力者である彼等は、地球を邪女神シュプ=ニグラスの企みから守るためにやってきた。


 大人数で訪ねても困るだろう。

 その親戚の家に住まう鈴と愛美の付き添いとして、俺は一軒家の目の前に立っている。

「な、なあ、俺がインターフォン押すのか?」

 緊張でガチガチな姿を二人はニヤニヤしながら見ている。


「当たり前じゃな~い。兄貴なんでしょ?」

 鈴は下から目線であざとくお願いしてくる。

 金髪のツインテール。琥珀色の瞳。誰かさんと一緒な整った顔……


「おい」

「ぐぇっ」

 愛美に首元を掴まれ、そのまま首を絞められそうになる。


「あたしはともかく、妹に発情するのは流石に無いわ」

 グレーのパーカーのフードから見える天然パーマの金髪ロングヘア。

 左目は黒い海賊眼帯をしており、失明している。右目は勿論見えていて、ギラつく琥珀色の瞳でこちらを睨んでいる。


「いやっ……俺も首絞めの趣味は、ねぇッ……!」

 苦しみながらも答える。

 鈴から偏見の視線も感じる。


「人の家の前で何してるんですか!!」

 ピンク色のポニーテール、同い年くらいの女の子が視界の端に見える。


 首絞めが緩んだ。

『ガブッ!』

 愛美の腕を掴み、指を甘噛みして舌で指のはらをなぞる。


「ひえっ……!あんたねぇ……」

「ゾワッてするのはお化け屋敷みたいで怖いもんな」

 彼女はお化け類いが苦手だ。だから動物に舐められただけで動けなくなってしまう。


「わ、私達は決して怪しい者じゃ無いんです!」

 正義感の強い鈴は焦って怪しさを強調している。


「今日から君達の家に住まう二人を連れてきた」

 俺は単刀直入に訳を話す。


「あーー……はじめまして?」

「はじめまして……だと思うが」

 俺は首元を擦りながら彼女の挨拶に答える。


「はじめまして!天崎鈴です!」

「…………」

 鈴は元気よく挨拶するも、愛美は黙っている。

(また人見知りかよ……)


「愛美……」

「う、うるさいわね!今言おうとしてたの!」

 スカすつもりだったと顔には書いてある。


「鈴ちゃんと……愛美ちゃん?よろしくね!コホンッ!私は愛理奈だよ~!よろしくぅ!」

 中々に痛めの挨拶に繋げてきた。


「な、なにその目線……!」

「いや……びっくりしただ」

「ふん……」

 俺が弁明を遮るように愛美は機嫌を悪くしていた。


「お姉ちゃん……!仮にも一緒に住む従姉妹なんだよ?」

「わ、わかってるわよ……よ、よろしくね」

 鈴の説得を受け、愛美も機嫌を直して握手を求める。


「よ、よろしくお願いします……!お姉さん!」

 意外と良い子だった。


 年齢は一個年下の鈴と同い年だそうだ。

 だから先程のこともあり畏まったのだろう。


「え、ええ」

 どちらが握るか否かの、ぎこちない握手をしている。微笑ましい。


「お兄さんは来ないんでしたっけ?」

「ああ、でも……」

 夕食だけでもご馳走になるつもりだった。

 でなければ……


「ええ!来ないわよ!彼女にお熱なんですって!」

 鈴が強い口調で主張してきた。

「いや……」

「そもそも初めから大人数で押し掛けたら……って言ったのあんたでしょ?」

 愛美にも都合の悪い話を引っ張り出される。


「べ、別に夕御飯くらいよければ……あ、彼女さんも」

「よくない!」

 愛理奈が気を遣ったのに鈴が断る。


「ま、今日のとこは……手出しなさい」

「え?」

 愛美に突然手を求められて今度は握り潰されるのかと思った。


「はい」

 ポケットから何かを取り出す。

 手の上に乗っけられたのは……一万円二枚。


「おいおい、俺は……」

「気持ちよ。受け取りなさい」

「あ、ありがとう……」


 財産力……戦闘での貢献は俺の方が高い。

 抱える仲間も少ない。

 でも姉の気持ちというなら受け取らざるを得ない。

 認められたみたいで素直に嬉しかった。



 その場を後にし考える……

 俺、彼女とまだ仲直りできていない。


 小さめのホテルに一週間の予約を取った。

 無駄遣いはあまりしたくない。いつ誰に何が起こるかなんて誰にも分からないから。

 明日行く学校の制服を取り出す。


「懐かしいな……」

 綺麗な紺色のブレザー。

 戦闘服とブレザーを同時に着なくてはいけなかった思い出の詰まった数年前を思い出す。


 あの頃は今の彼女、結衣とやっと彼女になれた。

 剣を交えて血を流しながら戦ったり、キスもした。

 そして仲間達と過ごした毎日。


「懐かしいな」

 近くに置いてある赤と黒の刀が喋る。

「そうだな……」


 いつも側にいた俺の武器、妖刀村正銘……

 それに取り憑いた竜神ジズ。

 ジーニズといつも呼んでいる。


「大体鼻の下伸ばしてたけどな」

「あれは仕方ない」


 彼と談笑しながら用意を済ませ、買ってきた食事を食べて……

 一通り終わったらベッドで横になった。


「きっとお前なら新たな友達に溶け込めるだろ。誰かは必ず誰かを必要とする」

「そうだな……」



 次の日、時間通りに起きて指定の学校へ向かう。

 しばらく戦闘など無かったから体調は万全だった。


 人々は俺の赤い髪色を見てもそこまでは驚かない。

 それどころか髪色の変わった人間がチラホラといて……いや、七割を占めていた。


「予想より進んでるみたいだな……」

「ああ、だけど僕らが足止めしたから、連れていかれずに済んでる」

 関わるべきないものが関わっている異常事態。

 それでもジーニズは前向きに考えさせてくれる。



「天崎乱威智です。よろしく」

 端的に自己紹介を完結させる。

「天崎愛美よ。よろしく」

 教壇に立つ俺達に拍手が送られる。


 髪色の変わった……能力を持った転校生。

 でもそれすら普通の転校生のような反応でクラスがざわめいている。


「あれが噂のめっちゃ強い人達?」

「そうそう、外の星から来たっていう……」

「それはともかく美男美女だなぁ……」

 俺ら兄弟の情報は既に公開されている。

 それもここに来る条件の一つだった。


「じゃあ、あそこに座ってね~」

 年老いた先生に指定された席を見る。


 窓際の列の内側。なのに俺の隣の席は空いている。

 名簿を見ると一つ後ろが愛美。愛美の隣には金髪の男子生徒が座っている。

(めっちゃ端……)

 でも愛美が後ろなのはちょっと……

 そもそも何故姉と同じクラスになってしまったのか。


 こういうのは普段知り合わない人とも話して見聞を広めてほしいという目的で……


「よろしくな!俺は烏橋からすば優太だ」

 席へ座ると、前に座る茶髪の天然パーマの男子、優太が元気よく声をかけてくれる。

「ああ、よろしく。」

 強ばってしまうかもしれないと思い、ちょっと軽く答えた。


「先生は~担任の先生を、探してきますからね~」

 年老いたおじいさん先生は自分が担任であることを忘れて教室を後にする。


 クラスにざわめきが戻る。

 二人とも暗くて怖いのか、誰も近寄ってこない。

「なあなあ、俺も異能力持ってるんだぜ!」

 前に座る彼は共通点をアピールしてくる。


「そうか、どんなのなんだ?」

「物質を溶かして変形させる……!」

 彼は窓に触れると窓がグニャリと変形し、元に戻る。

「使ったの先生に内緒な……!」

「おう」

 どうやら学内では勝手に能力を使ってはいけないそうだ。


 担任の先生がポンコツ過ぎて具体的な話は一切話されていない。


「というか使っちゃいけないのか。説明されなかった」

「ま、まあ責めないであげて……?」

 彼はおじいさん先生の味方をする。


「それより君のは……!まあ教えたくなかったら全然いいんだけどさ!」

 これが気になっていたからだろう。先に自分の能力の話をしたのは。


「うーん、火も出せるが危ないし……あ、ワープできる」

 ちょっと面白いことを考えた。

「まじか!見たいなぁ~」

「おっけー」


「サタン……」

 小さく呟き、俺はその場から姿を消す。

「わっ!」

 彼はすぐに俺を見つけた。


 俺は愛美の後ろへと周り……さあ何をしてあげよう。

「姉ちゃん」

「なに」

「肩揉もうか?」

「結構よド変態」

(あらら?)

 ちょっと機嫌が悪いようだ。せっかく恥を忍んで姉ちゃんと呼んだのに。


 もう一度ワープして元の席に戻る。

「すげぇ……」

「あとは分身出して姉の周りを囲うことも出来る。しないけどな」

 機嫌が悪くなければやっていただろう。


「ほへぇ……やっぱお姉さんはもっと強い能力を?」

「あーそうだ。化けも――」

『ドヂュンッ!!』

 銃声と電撃音が混じった音が頬を掠める。

 後ろから俺の頬を掠め、俺の席辺りで止まるように電磁レーザーを打たれた。


 クラスの視線が一点に集まる。


 頬からは血がたらりと垂れる。

「言いなさいよ。自分は不死身の化け物って」

(機嫌悪ッ!! ま、まさか……)

 急いでスマートフォンのカレンダーを見る。

 愛美とだけ書かれた予定がある。


 俺は姉の生理周期を完全に把握している。

 何故なら一番被害に遭うからだ。


「ふ、ふふふふび不死身なのかぁ~すすすすげぇな!」

 彼は目を回して汗を吹き出しながら驚いている。


「大丈夫だ!俺以外には手出ししない。俺が死んでも生き返るから……ほら」

 頬の傷を見せる。その傷は勝手に塞がっていく。


「ほんとだ……」

 目を回すのだけは止まったようだ。

 そして彼はふと愛美に目をやる。


「何よ……」

「その目……妹さんはツインテール?」

「おい!」

 俺は彼に睨みを効かせて近寄る。


「手を、出したのか……?」

「いやいやいや出してない。俺がやってるサッカークラブに来たんだ昨日」

 彼は否定をして訳を話す。


「あんた、何を鈴に話したの?」

 高圧的な言葉が背筋を駆け抜ける。


「いや話してはない……ただ……」

 そこから彼は昨日起きたことを話してくれた。



 土手の下のサッカーグラウンド。

 ユニフォームを来た男子高校生の集団がサッカーをしていた。


「ちょっ!」

「おいっ!」

 優太がゴールキーパーとして見るいつもの風景。

 だがチームメイトがプレイ中なのにざわめいている。


「集中しろー!」

 声をかけた途端、サッカーボールが高速でバウンドしてゴールを撃ち抜いた。

 久々の撃ち抜かれる感覚。


「なっ!?」

 目の前には金髪ツインテールの一つ二つ年下に見える女の子が立っている。


「挑戦状よ。買ったらチームに入れなさい」

 高圧的というよりは元気そうな声で挑戦的な態度だった。


「キャプテン!そいついきなり……」

「ああ、ただしPKで入れられたらな」

 俺は条件を出した。一見ゴールキーパーが不利に見える条件。


「舐めてるのかしら」

 彼女は瞬間移動程の速さで所定位置に移る。

 俺のオーケーサインに仲間は止まって動かないまま。

「舐めてないさ。五回やって一度でも通せたら君の勝ちでいい」


「ふーん、何かあるわけね」

 彼女は軽くボールをリフティングさせると、そのまま空中から鋭い回し蹴りを放つ。

『ビュンッ!』

 勿論普通の蹴り方ではない。速度も投球より遥かに速い。


 残念ながら反応速度など関係ない。

 俺は上のポストンに手を翳し、鉄の物質をねじ曲げゴールを封鎖する。

 ボールが通過したら元に戻す。


「は?」

「入らなかったな」

 煽るように返事を返す。


「くッ」

 彼女は悔しそうに歯を食い縛る。

 また同じリフティングからの回し蹴りシュート。


(いくらやっても……)

 鉄を捻じ曲げようとした時……

『シャラン……』

 鈴の音と共にゴールの網は揺れていた。

「は?」

 訳が分からなかった。


 弾道予測は合っていた。でも、間に合わなかった。

 スピードが反応できない速度で上がったとかではない。


 彼女が打った瞬間、ゴールの網を揺らしていた。

「な、んで……」

「なんであんたが鉄曲げられて、こんな金髪黄色目の私が、運動能力だけ高いなんてあり得ないでしょ?」


 確かに見た目は……

 というよりあの金髪ツインテールは……

 近々他の星から来る異能力者がいるとアプリのニュース欄で見た……


「天崎……」

「天崎鈴よ。時間空間を操ることができて近接能力もあの中ではかなり高い。覚えておきなさい!」

(そうか……時間を操った?)


 俺は目の前に現れた最強の現実を受け入れられなかった。


「覚えておくのはお前の方だ」

 背の高いディフェンダー三人が鈴を囲う。

「何よ……力なら――ひゃっ!?」

 彼女の目の前に広がっていたのはテントのように張ったユニフォームズボン。


 彼女は瞬間移動でそこから抜け出し……

「さ、最低なチームね!女の子一人入れてもくれないなんて……!」

「そうさ最低さ!お前の穴に入れてくれりゃ入れてやってもいいけどな!」

 ガハハと笑う皆。


 俺は喪失感で気にも止めなかった。

 彼女は土手から去り、練習はいつものように再開した……



「ってなことがあったんだ」

「…………」

「…………」

 俺と愛美は暗い表情で優太を見つめる。


「あ、あのお二人さん?」

 彼は反応を伺う。


「入れてやってくれ!」

「そのディフェンダーのチ●コ電撃で焼くから教えなさい」

 俺は頼み、愛美は恐喝紛いのことを口走っている。


「えっ、入れるのは反対じゃないけど……今なんて?」

 彼は彼女のいきなりの発言に驚いているようだ。


「チ●コ焼くからって言ったのよ。分からない? 分からないならまずはあんたの――」

「ちょっと待った」

 愛美の隣の男子が立ち上がり止める。


 髪色は金髪、髪の長さはすっきりとしたショートヘア。

(これまた近くで見ると自然な金髪だな……)

 去年の秋からこの星で能力者が増えた。その能力の影響だろう。


「俺は三上龍生だ」

 彼は座っている彼女の目線に合わせて話す。


「な、なによ」

「君は人と正面で目を合わせたがらない。星を背負う人間がどうして……」

「それ以上はやめろ」

 それは俺が言うべき台詞だ。

 俺が初めて高圧的にストップをかける。


 周囲の空気が止まる。

「俺達は背中を預ける姉弟だ。愛美、お前がそんななら戦闘から一度降りてもらう。そもそもその約束だよな?」

 俺は愛美の目を見て、真剣に告げる。


 戦闘に参加せざるを得ない理由は、一度も欠けることが出来ない戦いが控えているからだ。

 それが明日にでも来てしまったら……


「はぁ……頭冷やしてくるわ」

 彼女は強く椅子を立ち上がり、教室を出ていった。


「悪いな……家族のことに口出して」

「いいんだ。ああやって冷静になってくれればまた立ち上がって帰ってくる」

 俺は三上のフォローを優しく受け入れる。


「す、すげぇ……歴戦の台詞っぽい」

 優太は一番困る反応をしてくる。

「いや、わ、分かるけどさ?」

「なるほどな!歴戦の覇者ってことか!」

 三上が肩をがっしり掴んで揺らしてくる。

(全くなるほどじゃねぇ……)

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