五 第二の密室(1)
――ドン! ドン! ドン! ドン…!
突然、頭の中にけたたましいノックの音が響き渡る。
「…!?」
心地よい微睡みを妨げるその耳障りな音に、僕は不意に意識を取り戻した。
目を開ければ、部屋の中はカーテン越しに差し込む日の光によってぼんやりと薄明るい……。
いつの間にか、外界はもう朝になっていた。どのくらい眠ったのだろうか? 昨夜はなかなか寝つけなかったので、いつ眠ったのかも定かではない。
僕のまだ覚醒し切れていない脳がそんなことを考えている間にも、その不快なほどにうるさいノック音は止むことなく鳴り続けている。
「ふぁ~あ……はーい。どなたですかあ?」
僕は眠気眼を擦り擦り、ドアの方へと近づいて行く。
「秋津先生! 起きてください! 大変なんです!」
すると、ドアの向こう側からは男性の叫び声が聞こえてくる。この声は柾樹青年のものだ。
「ああ、柾樹さんですか? おはようございます。今、開けますから待ってください」
僕はそう答え、すぐさまドアの鍵を開けようとするのだが、彼はそれすら待てない様子でなおも叫び続ける。
「先生! 大変なんです! 早く! 早くここを開けてください!」
「ふぁ~あ……なんですかぁ、朝から騒々しい。安眠妨害ですよぉ…」
その騒ぎにようやく目を覚まし、先生も半ば眠ったままの身体を引きずり起こしながら、なんとかドアの所までやって来る。
「どうしたんです? そんな慌てて…」
そう尋ねながら僕がドアを開けた瞬間、柾樹青年の血相を変えた顔が、その大声とともに部屋の中へと飛び込んで来た。
「秋津先生! た、大変なんです! 叔母が…叔母が死にました!」
「…………はい?」
唐突な話に僕と先生は、最初、なんのことだかよく理解できなかった。
叔母というと、あの部屋で亡くなっていた本木茂氏の妻の咲子夫人のことだな……その咲子夫人が急に亡くなったということか? でも、昨日見た限り、ややヒステリーぽかったとはいえ、いたって健康そうだったのだが……。
「咲子叔母さんが毒を飲んで死んでいたんですよ! しかも、叔父と同じ
聞いても真意を理解していなかった僕らの表情が、その言葉で一瞬にして強張る……そして、一気に半眠りだった先生と僕の頭は覚醒した。
「ど、ど、どういうことですかいったい!?」
僕は摑みかかるような勢いで柾樹青年に訊き返す。むしろ今では僕の方が興奮状態である。
「とにかく上に来てください! 詳しい話はそちらで!」
すでに体は廊下側を振り返り、急かす彼の言葉に僕と先生は顔を見合わせる。
「では、御林君、行きましょう」
寝起きで衣服は着崩れたまま、顔だけは精悍になった先生が、呆然と立つ僕とドアの隙間を縫って先に外へと出る。
「は、はい!」
一拍置いて僕もそれに続き、僕らは柾樹青年の後に着いて、再びあの二階にある問題の部屋へと急いで階段を駆け上がった――。
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