第597話

「なんとか無事に森を抜けれたな」


「キュ!」


 死の森にある生家から旅立ったコウは1日半という時間を掛けて無事にローランへ続く道に辿り着くことが出来た。


 そして今の時間帯というと、暖かな日差しを振り注ぐ太陽が真上に来ている昼頃といったところだろう。


 さて...ここからローランまではそこまで距離も遠くないということなので、問題がなければ夕方前くらいには到着する予定ではある。


 まぁ走ればそれよりも早く到着する訳なのだが、そこまで急ぐ旅ではないので、ローランまで続く舗装された道をゆっくりとコウはフェニを肩に乗せながら歩き出すことにするのであった...。


 死の森を抜けてからというもの何事もなく、ローランまでの旅は順調に進み、自身達の真上にあった太陽は西の大地へ沈みこんでしまったため、時間帯は夕方頃となっていた。


「おっ...ようやくローランが見えてきたな」


「キュ!」


 そんなコウ達の目の前には目的地であったローランの街並みが姿を現したのだが、いつもよりも何だか人の列が少ない気がしないでもない。


 まぁBランクとなってしまったコウからしてみれば人が多かろうが少なかろうが、もう関係のないものなので、特に気にすることもなく、列の横を通り過ぎていく。


 そして城門へと難なく辿り着いた訳なのだが、何だか門兵達からピリピリとした空気感が伝わってくる。


「何かあったんだろうか?」


「キュ!」


 そんな門兵達の様子を不思議に思いつつ、コウは軽く手続きを済ませると城門を通り抜け、今度は街中を歩き出したのだが、この時間帯にしては大通りを歩いている人がいつもよりも少ない状態となっていた。


 また多くの人で賑わっている筈の噴水広場に到着すると、何故か中心部に人集りが出来ており、そこから演説かのように大きな声が聞こえてくることに気付く。


「何だ?」


「キュ?」


 そのため、コウは噴水広場の中心部へ耳を軽く傾けることにしたのだが、どうやら何かしらの出来事が何処かで起きたらしく、誰かがその話を広めているようであった。


「聞き取りづらいし近づいてみるか」


「キュイ!」


 ただ少し距離が離れているためか、少し聞きづらいということなので、コウはそのまま人集りの隙間を縫いながら噴水広場の中心へ向かうと、そこにいたのは商人のような格好をした男が立っていた。


 そんな商人のような格好をした男の話を詳しく聞いてみると、どうやら帝国関係の話のようであり、魔族が再び街中に現れて暴れ回った結果としてかなりの被害が出たらしい。


 もしかするとビビが言っていた胸騒ぎがしていた理由はこのことなのだろうか?


 とすれば早めに帝国から離れて良かったと言えるのだが、1つだけ心配な部分があった。


 それは帝国に滞在していた際に借りていた子熊の穴蔵という名の宿で受付をしていたロミという少女は無事なのか?ということ。


 短い滞在といったこともあり、コウはあまりロミという少女と関わってはいないが、それでもライラが親しくはしていたこともあるため、心配ではあったりする。


 もしこの話をライラが聞いているのであれば、きっと同じ様に心配している筈である。


 それにしてもここ最近は魔族と呼ばれる者達の動きが活発になってきたのだが、いったい何故、今頃になって現れては暴れ回っているのだろうか?という疑問が湧いてくる。


 とはいえ、そんなことを考えたところで、魔族達の行動原理など分かないため、答えに辿り着く訳もない。


 しかし何故、街中に人々が普段よりも少なく、ローランの門兵達がピリピリとしていた理由が何となくではあるが分かったということで、ライラが待っているであろう小鳥の止まり木という宿に向かうことにするのであった...。



いつも見てくださってありがとうございます!


次回の更新予定日は多分9月6日になりますのでよろしくお願いします。

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