第593話
「呼吸していない...?」
「キュ?」
人というのは生きていれば、呼吸によって胸部や腹部などが上下する筈なのだが、一切そのような動きはしていないということにコウは気が付かされた。
そんなコウは反射的にハイドの口元に手を置き、呼吸を確認しながら胸部辺りに耳を当てて心臓の鼓動も確認し出したのだが、やはり呼吸はしていないということで手には吐く筈の息は感じず、心臓も動いていないこともあって何も聞こえることはない。
「お...おい...冗談はやめろって...俺が旅立つ前は元気だったじゃないか...」
そのため、ようやく自身の父親であったハイドが死んでしまっていることを理解したコウは動揺しながら後ろへ半歩ほど下がる。
生き死にについての経験は多少なりとも積んできたのだが、過去も含め、自身と親しかった人物が目の前からいなくなる経験はしたこと無かったコウはまさかの現実に頭の中が突然真っ白となってしまった。
「キュキュイ!」
更に足へ力が入らず、その場でへなへなと座り込んでしまうと、胸元の中にいたフェニがコウの様子に気付き、心配そうな鳴き声を出しながら飛び出し、肩へ止まると、慰めるかのように柔らかな翼を擦り付けてきた。
また目からじわりと涙が溢れ、頬を伝って木の床へぽたり...ぽたりと雨漏りのように落ち、小さな滲みを作り出していく。
「...フェニか...悪いけど少し一緒にいてくれ...」
「キュ」
そしてコウは今の状況を上手く飲み込むことが出来ないということで、ベッドに寄り掛かりながら肩に止まっているフェニの柔らかな翼に顔を埋め、嗚咽を噛み殺しながらすすり泣き始めるのであった...。
■
ハイドの死を確認してからどれくらいの時間が経過しただろうか?
長い間、泣いたせいでコウの目は大きく腫れて充血した状態となっており、これ以上は涙が出ない。
そして窓の外からは月明かりが差し込む時間帯となり、今までずっとフェニに寄り添ってもらっていたのだが、ようやく落ち着きを取り戻してきたということもあってか、今度は様々な疑問が頭の中に次々と浮かび上がってきた。
その頭の中に浮かび上がってきた疑問とは何故死んだのか?いつ死んだのか?などについてだ。
死んだにしてもまだどこも腐っているようには見えず、死んでから1日もすればする筈の死臭もしないため、つい先ほど死んでしまったようにしか見えない。
「手紙...?」
そのため、コウは死んでしまったハイドの遺体の状態をもう一度確認するために足へ力を込めて立ち上がると、側にある小さな机の上には1通の封筒が置いてあることに気が付いた。
そんな封筒の表部分にはコウの名前がハイドの字で書かれており、自身宛の何かだと理解したということで、何が入っているのかを確認するため、手に取ってそのまま開いていく。
そしてその封筒の中に入っていた物とは2枚の手紙であり、とりあえず重なっている2枚の内、上にあった1枚の手紙の内容を確認してみると、そこには過去に使用した魔法書のせいで自身の命が残り短く、次にコウが帰省するまで生きてられなくて申し訳ないという謝罪文や短い期間であったが一緒にいた際の思い出がつらつらと書かれていた。
また最後の方には飲んでいた魔法の薬の影響によって死んだとしても腐らないようになっているかもしれないので、自身の遺体処理については出来れば火葬などを申し訳ないがして欲しいとも書かれており、これはコウ宛への遺書なのだということが分かる。
「なるほど...だからハイドは腐ったり死臭がしなかったりしたのか...」
ということで、コウは何故死んでしまった筈のハイドの身体が腐ることや死臭を漂わせることがない状態でいるのか?についての理由は理解した。
一応、本人の希望として火葬をなるべくおこなって欲しいとのことなので、ここは希望を叶えてあげたいところではある。
「2枚目には何が書かれてるんだ...?」
そして1枚目の手紙が読み終えることが出来たということで今度は重なっていた2枚目の手紙を読むことにしたのだが、そこにはコウ自身のことについて書かれているのであった...。
いつも見てくださってありがとうございます!
次回の更新予定日は多分8月28日になりますのでよろしくお願いします。
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