第591話

 昨日の夜は野宿であったのだが、些細なイベントは起こったりしたが、これといって特に大きな問題が起きるようなことはなく、快適に過ごすことが出来た。


 ちなみに些細なイベントは何だったのかというと、夕食を取っている際にあの逃げてしまったリスのような魔物が再びコウ達の目の前へ姿を現したということだ。


 最初は自身が気持ちよく眠っていた小島を取り戻しに来たのではないかと思ったのだが、実際にはそんなことではなく、ただ単にコウ達のことが気になったのか、様子を見に来たようであり、攻撃してくるようなことはなかった。


 ただその時は丁度夕食時だったため、コウは警戒しているリスの魔物に対して食べていた料理を少しだけ分け与えると、すぐに警戒は解けてそのまま夕食を共にすることとになった。


 それにしてもその時はまさかこんな死の森の中で攻撃性の少ない魔物に出会うとは思ってもおらず、もしかすると珍しい魔物だったのかもしれない。


 そんな些細なイベントがあってからというもの翌日。


 リスの魔物とは別れを告げ、再び死の森の中をコウ達は歩き出したわけなのだが、先に進むにつれて更に木々は大きくなっていき、天然の日除けが作られていたりする。


 まるで物語に出てくるような幻想的な光景であり、前の世界であればこんな光景は普段生活している中では見ることはないだろう。


「おっ...開けた場所に出たけど何かぼんやりとするもんが見えてきたな。たぶんあそこだよな...?」


 そのままそんな幻想的な光景を眺めつつ歩いていると、森の中の一部にぽっかりと空いた広場ような場所が姿を現したのだが、そこは何故かぼんやりと空間が歪んでいるような感じがした。


 そういえばハイドから家は外から見られることがないような作りとなっていると聞かされていたので、きっと隠蔽の魔法が掛けられているのだろう。


 ということで、そのまま森の中の一部にぽっかりと空いた広場のような場所へ近づいていくと、ぼんやりとした空間がぐにゃりと曲がり、今度は鳥かごの形状をした黒い檻が周囲をぐるりと包み込み、中央には懐かし生家が現れることとなる。


「家から出る時は振り返らなかったけどこうなってたのか」


 そして門の前に到着したということで、門の前に立つと、何もせずともギィっという音を立てながら開き始め、中に入れるようになったのだが、見た感じ何も変わっていないので、やはりというか隠蔽の魔法が掛けられているお陰で死の森の中を闊歩する魔物達などには襲われていない様子。


「ふぅ...帰ってきたのか...父さんは家の中かな?」


 また家の外には父であるハイドの姿が見えないということで、もしかすると出掛けている若しくは家の中に今はいるのかもしれない。


 家の中にいるのであれば、門が大きな音を立てながら開いたということに気付かないなんてあるのだろうか?と疑問は覚えつつも、コウはそのまま久しぶりに父であるハイドにもしかしたら会うことが出来るということに口元が少しだけ緩んでしまう。


 とはいえ、何だかニコニコとした笑顔で再開するのにも、何だか癪なのでコウは頬を両手でぱちん!と軽く叩き、元のキリッとした表情に正すと、そのまま中央に建っている生家へ歩き出していく。


「俺の住んでた家に着いたぞ」


「キュ?」


 またコウは胸元を空けながら、中でゆっくりと寛いでいるフェニへ当初の目的地であった家に到着した旨を伝えると、ひょっこりと顔を出し、不思議そうな顔をしつつ、周りをぐるりと見渡していた。


 そしてコウは家の前に到着すると、扉についていたドアノブを捻りながら回し、小さな声で「ただいま」と呟くと、そのまま入っていくのであった...。



いつも見てくださってありがとうございます!


次回の更新予定日は多分8月24日になりますのでよろしくお願いします。

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