第590話

「おっ...ここは何にも変わってないと思ったけど木が大きくなってるような気がするな」


 方位磁針を頼りにコウは死の森の中を歩き回っていると、夕方前には最初の目的地としていた小島が浮かぶ湖へ無事に到着することとなった。


 そんな小島が浮かぶ湖は以前、来た時と全くもって姿は変わっていないのだが、小島の中央にある1本の木は少し成長したのか、以前よりも大きくなっているように見えなくもない。


 そして反対側の岸を見てみると、そこには群れと思われるウルフ系の魔物が水を飲みに来ているのも見えたりする。


 さて...ここへ到着することが出来たということは生家までの道のりの2/3を超えたということとなり、以前よりもかなりのハイペースと言えるだろうか。


 とすれば、生家へはもう直ぐ到着するとは思うのだが、既に時間帯は夕方前であり、とりあえずはこれから夜が訪れることとなるので、安全だと思われる小島で野宿することにした方が良い筈である。


 ということで、コウは小島へ向かうにはまず道を作らないといけないため、透き通るほど綺麗な湖へ指先をゆっくりと入れると、魔力を小島に向けてじんわりと水に溶かすように流していく。


「こんなもんかな?」


 そしてある程度、魔力が湖の水に浸透したと同時にコウは凍れと念じると、ぴきぴきと音を立てながら湖は凍っていき、以前と同じような小島まで繋がった綺麗な氷の道が作り出された。


 そのため、コウは足を滑らせないようにゆっくりと綺麗な氷の道の上を歩き出し、中央に浮かんでいる小島まで向かっていく。


「あそこの木に到着すればゆっくり出来るな...って何だあれ?」


 何事もなく、コウ達は小島へと辿り着き、中央にある木の元へと向かおうとしたのだが、その途中の地面の上でまん丸とした茶色の毛玉が大きくなったり小さくなったりしているではないか。


 明らかに無機物のような物ではないと思うのだが、目の前のまん丸とした茶色の毛玉が一体何なのか分からない。


「ん〜何か投げてみるか」


 そのため、様子を伺うためにコウは偶然にも足元にあった胡桃のような木の実を手に取り、投げつけてみると、「チチッ!」という音を発しながらまん丸とした茶色の毛玉は見た目が変化し、ふわふわの尻尾の先端に魔石が付いたリスの見た目となった。


「リスみたいな魔物だったのかあれ...」


 どうやら茶色の毛玉はリスの魔物だったらしく、自身の近くにある木から胡桃のような木の実が落ちてきたと思っているようで、首を傾げながら空を見上げていた。


 それにしてもどうやってこんな湖の中央にある小島まで来たのか?や危険性はあるのか?など色々と気になるところ。


「判断がつかないしとりあえず姿を見せてみるか」


 ということで、コウは目の前にいるリスの魔物に攻撃性があるのかどうかを知るため、試しとしてこの場で自身の姿を見せてみることにし、外套への魔力供給をやめていく。


 すると認識阻害効果で見えていなかったコウの姿が急に現れたということで、リスの魔物は驚いたのかその場で大きく飛び退き、モモンガのような皮膜を広げると、尻尾の先端についた魔石を光らせ、小さな旋風つむじかぜを作り出し、そのまま何処かへ飛んで行ってしまった。


「なるほど...あぁやってここまで飛んできたのか。逃げたってことは臆病な魔物なのか?」


 そんなリスの魔物が被膜を広げて空を滑空していく姿を見たことで、どうやって小島まで来ることが出来たのかコウは何となくではあるが理解することが出来た。


 それにしても自身が姿を現しただけで逃げ出してしまったのなら、もしかすると臆病な魔物なのかもしれない。


「まぁいいや。とりあえず夜が来る前に野宿の準備をしないとな」


 こうしてコウ達の目の前にいたリスのような魔物は何処かへ逃げてしまったということで、とりあえずは周囲が真っ暗になる前に野営の準備を進めていくことにするのであった...。



いつも見てくださってありがとうございます!


次回の更新予定日は多分8月22日になりますのでよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る