第582話

 ゴブリンやオークの縄張り争いをディーンに何とかしてもらった後は特に何事もなく、王都に向かって馬車は走っていた。


 そして王都に向かって走る馬車の中でコウは先ほどの話の続きとしてディーンに手の甲の紋章はいったい何なのかについてを詳しく聞いたりもした。


 そんなディーンから返ってきた返答はどうやら本人も手の甲にある紋章について詳しく分かっていないようで、出会った教会の人達からは退魔の証と呼ばれているとのことであった。


 それにしても退魔の証というものは聞いたことないが、退魔という言葉の意味から察するに魔物達に対して特別な力を持つような感じがしないでもない。


 そんな馬車の中であれやこれやと話しながら旅を続けていると、あれよあれよといつの間にか夕方となり、間もなく王都へ到着という旨を御者から伝えられた。


 そのため、馬車の窓から正面を見てみると、そこには建物や城壁が夕陽に照らされ、茜色に染まった王都が姿を現しており、城門前には王都に入るため、多くの人々が列を成していた。


「おぉ!あれが王都なんだね!大きいなぁ!って落ちる!」


「危ないって!」


「ははっ!ごめんごめん!初めて見る王都だからついね!」


 そしてディーンは初めて王都を見たということで、馬車の窓から身を乗り出しながら興奮していた訳なのだが、車輪が石を踏んだことによってガタンッ!と大きく揺れ、そのまま馬車から落ちそうになったため、コウは何とか足を掴んで中へと引き戻していく。


 せっかく無事に王都へ到着したというのに、こんなところで馬車から落ちて死んでしまいましたなんて洒落にすらならない。


 さて...そんなコウ達を乗せた馬車はというと、そのまま多くの人々が作り出す列に並ぶことはなく、特別入口から王都の中へ入ることとなり、王都内に入ると御者から今度は何処まで行けばいいのかと聞かれた。


 まぁ馬車から降りて歩いて行くのも面倒だし、このまま乗せて行って貰えるならだいぶ楽なので、冒険者ギルドまで向かうようにとお願いをしていくことにした。


「皆様。冒険者ギルドへ到着致しました」


 そしてコウ達を乗せた馬車は王都の街中をゆっくりと進んでいき、冒険者ギルドに到着したということで、停車したと同時に御者から声を掛けられため、そのまま馬車から降りていくことにした。


「ディザーさんが居るといいけど」


「ジールさんよりは居る確率が高いと思いますよ〜」


「...それもそうだな」


「キュ!」


「ここが王都の冒険者ギルドかぁ...立派な作りをしてるなぁ...」


 冒険者ギルドの建物の作りに感心しているディーンの背中を押しつつ、コウ達は中へ入ると、ギルドマスターであるディザーに会うためにとりあえず受付へ向かった。


「本日はどうなさいましたか?」


「あぁディザーさんに会いたくてな。今って会えないか?」


「Bランク冒険者様...少々お待ち下さい」


 そして受付に辿り着くと、受付嬢からどんな要件かと聞かれたので、コウは収納の指輪から自身のギルドカードを取り出し、それを見せながらギルドマスターであるディザーに会えないかと聞いていく。


 すると受付嬢は目を丸くし、少しだけ待って欲しいと言いつつ、受付から立つと、ぱたぱたと足音を鳴らしながら近くにある階段を登って行ってしまった。


「コウ君ってもしかすると意外と凄い人?」


「どうだろう...上には上がいるしなぁ...」


 そんな受付嬢の対応を見たディーンからはもしかするとコウは凄い人物なのではないかと尊敬の眼差しを向けられた。


 しかしSランク冒険者であるエルフィーやAランク冒険者のイザベルなど自身よりも上の存在が身近にいるためか、正直なところ自身が凄いのかについては何とも言えないところ。


 まぁ同年代と比べてみると、実力的には一歩や二歩どころではないくらい先に行っているので、年齢からしてみれば十分に凄い部類と言える訳なのだが、あまり同年代の冒険者と出会うことがないため、コウとしてはあまり理解していなかったりする。


 そして暫くの間、受付の前で待っていると、先程の受付嬢がディザーそして見知らぬ何人かの聖職者の格好をした者達と共に近くの階段から降りて来るのが見えた。


「久しぶりだな。ディザーさん」


「ジールからお前らが来るのは事前に聞いていた。ここまで彼を連れてきてご苦労だった」


 どうやらディザーはジールから事前にコウ達がディーンを連れて王都に向かうということを聞いていたようだ。


「ここまでで良いんだよな?」


「後は此方で対応する。さて...ディーンとやらは私達に付いて来てもらおうか」


「うへぇ...何だか悪いことをした人の気分だよ...じゃあコウ君達もまた会えたら会おうね」


「あぁ元気でな」


「聖都も良いところなので楽しんで来て下さいね〜」


「キュイイ〜!」


 そしてお互いに別れを交わすと、ディーンはまるで罪人のようにディザーと聖職者の格好をした者達に囲まれ、連行されるかのように近くの階段を登っていってしまった。


 もしかするとここでは話せないような特別な話があるのかもしれない。


「俺達も行くか」


「キュ!」


「そうですね〜夕方ですし今日は王都で1泊でしょうか〜?」


「あぁいつもの宿に行こうと思ってる」


 さて...これでジールからの依頼であったディーンを王都まで連れて行くということを無事にこなすことが出来たため、後はローランに帰るだけなのだが、既に時間帯は夕方。


 わざわざ危険を冒してまでローランへ帰りたくはないということで、とりあえずコウ達は王都で1泊しようと考えていた。


 そしてそんな事を話しながら冒険者ギルドから外に出ると、そこには先程まで乗っていた馬車がまだ待っており、不思議に思ったコウは御者に何故、待ってくれていたのか聞いてみると、ジールが既にローランと王都の往復分の料金を払ってくれていたらしい。


 ということで、コウ達は再び馬車に乗り込むと、御者には明日の朝ローランに向かう旨を伝え、今日は王都に立ち寄った際にいつもお世話になっている森の安らぎ亭という宿へ向かうようにお願いするのであった...。



いつも見てくださってありがとうございます!


次回の更新予定日は多分8月6日になりますのでよろしくお願いします。

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