第374話

 目の前にそびえ立つ、巨大な木であるレイニーウッドからこちらに向かって飛んでくる黒い何かは何なのだろうと思い、ジッとコウは見つめると、それは約1m程の大きさをした空を飛ぶ3匹の黒い虫であった。


 こちらに向かってくる黒い虫の見た目ははえあぶに近しく、頭部に2つの大きな黒い複眼、口元には下に向かって生えているギザギザな大顎と返しの付いた小顎が持ち、背中にある薄いはねを小刻みに動かして不快な羽音を鳴らしている。


 そんな蝿や虻の見た目をした魔物の名前はイビルホースフライといい、レイニーウッドを縄張りとしており、ピィアリの実の匂いに釣られてきた獲物を襲うという厄介な魔物である。


 また倒したとしても何かしらの素材としての使い道もあまりないということもあってか、冒険者達の中では好かれてはいなかったりする魔物だ。


「うへぇ~...なんだかあんまり可愛くない魔物ですね~...」


「虫系の魔物はどれもこれも可愛くないですよね」


「可愛い魔物なんていたか...?」


「いるじゃないですか~コウさんの肩の上に~」


「キュ?」


 女性陣の2人はこちらに向かってくるイビルホースフライという魔物の見た目が可愛くないと言っているが、今まで見た目が可愛かった魔物はいたような記憶の中にはなかったので疑問に思っていると、ライラがコウの肩に視線を移し、指をさす。


「ん?あぁそういえばフェニも魔物だったな」


 コウはライラに指をさされた方向へ視線を移すと、そこにはいたのは愛くるしい姿の相棒であるフェニであり、普段から一緒にいて感覚が麻痺しているが、魔物だったのを思い出した。


「コウさんライラさんそろそろ...」


「おっと...悪いな。とりあえず牽制として氷矢でも撃っておくか」


「コウさんお願いします~!」


 そんなことをライラと話していると、イザベルからイビルホースフライが迫っているということを伝えられるので、コウは牽制として素早い相手に有効な氷矢を何本も作り出し、そのまま撃ち出していく。


 そしてコウの作り出した何本もの氷矢は一直線にイビルホースフライの元へ飛んでいくが、流石は虫の魔物。


 飛んでいく氷矢よりも動きが速いためか、いともたやすく避けながら、何事もなく、こちらへ向かってくる。


「あ~動きが速いから避けられちゃいますね~」


「駄目か...まぁ何となく分かってたけど」


「ここは私に任せてみて下さい」


 イザベルはコウの前へと立つと、手のひらに小さなつむじ風を作り出し、向かってくるイビルホースフライに向けて腕を振るう。


 そして小さなつむじ風はイザベルの手のひらから離れると、土埃や地面に生えている草を根っこから無理やり引き抜き、全てを吸い込みながら徐々に成長していき、巨大な竜巻へと姿を変えていく。


 石ころなどの固い異物も風と共に巻き上がっている筈なので、もしあの巨大な竜巻に巻き込まれてしまえば、飛来物によって全身をズタボロにされてしまうだろうか。


「それにしても凄い風だな。この風ならあの虫達は何処か遠くに飛ばされるんじゃないか?」


「どうでしょう?まぁ中に巻き込まれたら無事で済むとは思わないですけどね」


「ひ~!風で前髪が大変なことになります~!」


「キュ~!」


 これでこちらに向かって飛んでくるイビルホースフライ達はイザベルの作り出した巨大な竜巻へ吸い込まれてしまい、無事に方が付くだろうとコウ達は思っていた。


 しかしこちらに向かってくるイビルホースフライ達は怯む様子はなく、背中にある薄い翅を更に小刻みに動かすと、風の障壁のようなものが身を守るかのように作り出され、そのままイザベルの作り出した巨大な竜巻の中へ躊躇ちゅうちょせずに入っていく。


 そして様子を伺っていると、イザベルの作り出した巨大な竜巻の中を独自の魔法によって難なく突破し、イビルホースフライ達は強靭な上顎と下顎を剥き出しにして、コウ達へ襲いかかるのであった...。



いつも見てくださってありがとうございます!


評価やブクマなどをしてくださると嬉しいですm(_ _)m


次回の更新は6月16日になりますのでよろしくお願いします。

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