第371話

 翌日の朝。


 イザベラからお願いされた果実を取りに行く準備も前日中にできたということで、コウ達一行は王都にある南門へと向かって歩いていた。


「この面子で何処かに行くのは久しぶりですね~」


「そうですね。確か私の別荘に行った時以来でしょうか?」


「海なんてなかなか行く機会は無かったし楽しかったな」


「キュ!」


 そんなコウ達がこれから向かう先は南門を出て真っ直ぐ先に行ったハーベストヒルという場所である。


 ハーベストヒルはこの王都から馬車で走れば昼頃には到着するぐらいの距離であるため、移動に時間は掛からず、向かうだけであればそこまで大変ではない。


 そのハーベストヒルには今回、取りに行く予定の果実があり、それは"レイニーウッド"という傘のように葉を広げた巨大な果樹にみのっているらしい。


 そんなレイニーウッドに実っている果実の名は"ピィアリの実"と言い、外見は桃ぐらいの大きさでハートの形といった特徴をしており、色は緑や桃色など様々であるようで、香りがとても良い果実だ。


 そしてピィアリの実というのは一般的にはあまり流通しない果実であり、王都内にあるどこの青果店に行っても取り扱っていないだろう。


 何故、一般的に流通しないのかと言うと、まず採取するとそのピィアリの実という果実は劣化が早く、その日の内に消費をしないと腐ってしまい、また長距離の運搬など簡単にできないからである。


 またそのピィアリの実がみのるレイニーウッドには、とある厄介な魔物が縄張りとしているらしく、ピィアリの実を餌として獲物を誘い込むと襲ってくる様なので、手に入れるのも簡単ではないらしい。


 そのため、一般的に流通せず、貴族のような上流階級の人物達が食べるような果実となっている。


「あれが今回乗る馬車になります。それなりに良い馬車ですので振動は心配いらないかと」


「わぁ~大きな馬車ですね~!」


「キュイ!」


 南門に到着し、イザベルが指をさした方向に視線を移すと、そこには白薔薇騎士団の紋章が扉に描かれた大きな作りをした馬車であり、前には馬車を引っ張るために必要な毛並みの良い茶色の馬が2頭繋がれていた。


 そして、その2頭の馬を世話しているのは白薔薇騎士団の団員で、今回は最も馬車の操作に長けた団員を御者として人選をしたとのこと。


「いつも馬車を用意してくれてありがとな」


「いえいえ。用意といってもジュディに頼んだだけですけどね」


 ジュディというのは身の丈ほどの大きな盾を背中に背負っている白薔薇騎士団の副団長であり、イザベルの次にクラン内では偉く、右腕のような人物だ。


 そんなジュディにイザベルが出掛けるので、白薔薇騎士団の指揮を頼むという旨を伝えると、また出掛けるんですか?といった顔をして眉間に皺が寄っていたらしいが、なんとか頭を縦に振ってくれたみたいである。


 そして馬車に近づくと、イザベルの存在に気づいたのか、団員は馬の世話手を止めて、こちらに向かって笑顔で駆け寄ってきた。


「イザベル様!今日はよろしくお願いします!」


「お疲れ様。今日はよろしく頼みますね」


「はい!馬車の運転ならお任せ下さい!」


 とりあえず立ち話も程々にして、外に出る手続きを手早く終わらせ、さっそく用意された馬車へコウ達は乗り込むと、馬車の前に付いた小窓から御者席に乗った白薔薇騎士団の団員がちらりと顔を覗かせ、全員がちゃんと乗ったのか確認をしてくる。


 そして全員が乗ったのを確認し終わると、馬車はゆっくりと前に進み出し、今回の目的であるピィアリの実という果実があるというハーベストヒルに向けて出発するのであった...。



いつも見てくださってありがとうございます!


評価やブクマなどをしてくださると嬉しいですm(_ _)m


次回の更新は6月10日になりますのでよろしくお願いします。

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