第119話

「さて...こいつらをどうしようか」


 コウ達の目の前には10人の盗賊がランタンの様な形をした氷の檻へと閉じ込められていた。


 まるで動物園の猿であると思ったが盗賊達の怒りに触れるため口には出さない。


「本来なら魔物の餌にするのが早いですね」


「いやまぁそうなんだが...」


 確かにイザベルの言う通りさっさと首を跳ねて魔物に喰わせた方が早いのだが、今回はこのキャンプ場所を汚したくはないのだ。


 盗賊達の処理に頭を悩ませていると3台の馬車がコウ達の来た道をゆっくりと走っているのが見え、よく見ると荷台は檻のようになっており、中には今しがたコウ達が無力化した盗賊達と似た様な姿格好をした数人の男達が捕まっていた。


「イザベル。あれって人攫いか?それとも奴隷商か?」


「あぁ...あれは犯罪を犯した奴隷でしょうし奴隷商ですね」


 イザベルに尋ねるとどうやら奴隷商で間違い無いらしい。


 アルトマード王国では一般的に犯罪奴隷以外の奴隷は禁止されている。


 とはいえその犯罪奴隷以外の奴隷禁止をを良しとしていない貴族もいるようで完璧に取締などは出来ず、裏では少年少女の奴隷や多種族の奴隷の取引を行われている事もあるらしい。


「ちょっと盗賊達を見ててくれ」


 もしかしたら今、捕まえている盗賊達を犯罪奴隷として引き取ってくれるのでは?と思いコウはイザベル達に盗賊を見てもらうように言うと急いで奴隷商の馬車の元に向かって走り出す。


「そこの馬車!止まってくれ!」


 大きな声で呼び止めると奴隷商の馬車はコウの声に気がついたのか3台の馬車はゆっくりと止まる。


「ふむ...なんでしょうか?」


 先頭の馬車の御者台から初老の男性が降りてきて不思議そうな表情をしながらこちらへ話しかけてきた。


 それもそうだ。見た目が幼い子供が奴隷商に話しかけてくる事など滅多に無いし、まず第一にここは街の外で子供が1人でいる事自体が不自然だ。


「悪いな馬車を止めてもらって。俺はコウと言ってCランク冒険者だ」


 コウは収納の指輪の中から自身のギルドカードを出して奴隷商へと見せる。


「おぉ...まさか冒険者の方とは思いませんでした。何か御用ですかな?」


「それがだな...」


 奴隷商へと盗賊が襲ってきたので返り討ちにして無力化している事、無力化したはいいが処理に困っている事を細かく説明していく。


「奴隷商側で引き取って貰えないか?」


「勿論大丈夫ですよ。我々も今回の仕入れした犯罪奴隷が少なくて困っていたところなのです」


 お互いの利害が一致したという事なので無事に無力化した盗賊達を処理する事ができコウはホッと胸を撫で下ろす。


 もし引き取ってくれなければ殺して他の休憩場所を探すか、丸一晩盗賊達の面倒を見る羽目になっていたかもしれないのだ。


「じゃあ連れてくるから待っててくれ」


 コウは再びイザベル達のいる場所に走って戻ると奴隷商とのやり取りを軽く説明していく。


 そして盗賊達が閉じ込められているランタンの形をした氷の檻の前に立つと盗賊達はこちらに気がついた様で睨み付けてくる。


「なんの様だガキ」


「助けてやろうと思ってな。立って両手を前に出せば外に出してやるよ」


 コウの言葉を疑いつつも、この頑丈な氷の檻から出られるならと思ったのか全員コウの目の前に立ち両手を前に出すと盗賊の手首と足首に氷の枷の様なものが纏わり付く。


「やっぱ盗賊だな。頭が悪い」


「てめぇ!やっぱりなんかしやがったな!」


「いちいち煩い。これでいいだろ?」


 ぱちん!と指を鳴らすと盗賊達を閉じ込めていた頑丈な氷にヒビが入ると音を鳴らしながら崩れていく。


「外に出すといった約束は守っただろ?さぁ行くぞ」


 コウの手元には氷で出来た鎖があり、それは盗賊達全員の手首足首に付いている枷に繋がっていてグイッと引っ張ると盗賊達は引っ張られた為、一歩前へ進む。


「ふざけんな!俺らは奴隷じゃ...痛ってぇ!」


 引っ張られた盗賊達は抵抗する様に後ろへ下がろうとするが手首足首に付いている枷が締まりだし盗賊達は痛みに悶える。


 まるで西遊記に出てくる孫悟空の頭についている緊箍児の様だ。


「ちゃんと歩かないと手首足首が切れるぞ」


 流石の盗賊達も手首足首が無くなるのは流石に嫌だった様で文句を言いながら渋々コウの歩く方向へと歩き出す。


「悪い。待たせたな」


「ふ~むなかなか多いですな。とはいえ労働力としてはかなり良いですね」


 基本的に犯罪奴隷にも階級があり、盗賊などは下の下として扱われ鉱山やダンジョンの攻略に使われ行くことが多いし中には表では言えないような魔法の実験などにも使われることもあるらしい。


 消耗品のように使われ、なんとも命の軽い世界である。


 とはいえ盗賊達の今までの行いからしたらしょうが無いことなのだろうか。


「ではこちらで引き取らさせていただきますぞ」


「あぁ任せた」


 奴隷商から盗賊の取引料金としてある程度の臨時収入を得るとコウが連れてきた盗賊達に氷の枷ではなく、代わりとして鉄でできた枷を付けていく。


 勿論、犯罪奴隷なってしまうと確実に良くない未来が待っているという事を知っているためか盗賊達は抵抗する者や泣き崩れる者など様々だ。


 馬車に収容されていく盗賊達を見ていると最初から盗賊にならなければいいのにとコウは思う。


 まぁ人にはそれぞれの事情があるので何とも言えないところなのだが。


 無事に盗賊達は馬車の中へ収容されると先程取引した初老の男性は頭を下げ御者台へ乗り再び馬車はゆっくりと進み出す。


 檻からは反抗心が有り余った盗賊達が叫んでいるが馬車が進みにつれて声が遠くなっていく。


「さて...これでようやくゆっくり出来るな」


 無事に頭を悩ませていた盗賊達の処理が終わりようやく平穏が訪れることとなるだろう。


 盗賊達との争いで既に夕日は沈みかけており、大地へと太陽が半分ほど隠れかけている。


 そして夜の帳が下りてくる前にコウは早足で今日のキャンプとして予定している場所に向かうのであった...。


ここまで見てくださってありがとうございます!


そしてブクマや星やハートをくださる方もいつもありがとうございますm(_ _)m

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