第113話
日は暮れて夜空に月が雲の合間から顔を出し馬車が進む道を月明かりが照らし出す。
馬車に付いている小窓からは明かりの点いたローランが見えており、もうすぐで到着するのがわかる。
ローランへ進んでいる間、明かりが灯る魔道具で照らされていた馬車の中ではライラから様々な質問をされていた。
例えばコウの出身やフェニとの出会いなど様々なことについてだ。
若干のフェイクを混ぜつつ、話をしているが本当のことを言ったりはしていないので少しだけ心苦しい。
本当のこととは自身の身体は作られた事やその身体に世界を超えて魂が定着した事などについてだ。
言っていない理由としてはまず第一に聞かれなかった事、そして死の森という辺境の地でコウの身体を作って魂を定着させたということはこの世界では禁忌な事かもしれないからだ。
コウの身の上の話をローランに向う間はずっとライラとしていたので退屈はしなかったし過ぎる時間も早かった。
「そろそろ到着するよ」
馬車の小窓からそろそろローランに到着する旨を御者から伝えられ、暫くすると馬車がゆっくりと速度を落としていき停止する。
村長から渡されたクッションのお陰なのか、今回の馬車の旅はクルツ村に向かっていた時よりもお尻の痛みが軽減されて心の中でそっと感謝の祈りを捧げておく。
馬車から出るとそこまで夜のためかもうそこまで人はおらず街の中に入るのはそこまで苦労しなさそうだ。
「到着しました~!」
後ろの馬車からライラも出てくると馬車で座りっぱなしだったためか凝り固まった身体をほぐすように伸ばしていた。
「さっさと終わらしてご飯でも食べよう」
「いいですね~初の依頼達成ということでパァ~っと行きましょ~!」
ライラはご飯ご飯と呟きながらかなりご機嫌だが実際料金を払うのはきっとコウになってしまうのだろう。
まぁ初の依頼達成だし良いかと思いつつ、門の前まで歩き手続きを軽く済ませ街の中へと入ってゆくと多くの店が依頼の終わった冒険者のお陰で繁盛しているのが見えた。
後で入ってみようかなと思える店を覚えながら冒険者ギルドへと向かって歩いていく。
特に何事もなく冒険者ギルドへと到着するとライラは中にはいっていき、コウは今日討伐したレイジーベアとフォレストウルフを解体してもらうべく隣の倉庫へ入る。
解体には時間がかるということなので解体した素材の受け取り主はライラという冒険者がすると伝え冒険者ギルドの入口付近で後はゆっくりと待っていた。
何組かの冒険者がギルドの中へ入っていったり出ていったりしているのを見送っているとライラがようやく冒険者ギルドの中から出てくる。
「お待たせしました~!」
ライラの手には小さな布袋を持っており、こちらに歩いてくる度にお金が擦れるような音が鳴っていた。
「取り敢えず渡しておきますね~」
「ん?なんでだ?」
「宿代ですよ~」
あぁ宿代かと思いつつ、コウはライラからお金が入っている小さな布袋を受け取り中を確認するとそれなりのお金が入っているのが見えた。
コウは1枚の金貨を取り出すと残りのお金が入った小さな布袋をライラへと返すことにする。
「これだけで十分だ。後はこれからの宿代やらに取っとけ」
「太っ腹ですね~あの宿は金貨1枚じゃ泊まれないって知ってるんですよ~?」
「まぁ結構お世話になったこともあるしな。取り敢えずご飯に行こう」
ご飯に行くというのはライラも同意らしく元来た道を振り返り、先程入ってみたいと覚えていた店へと向かって2人は歩き出す。
目的の場所は大衆食堂のような場所でそれなりに繁盛していたところであり、値段もそこまで高くなさそうなのでコウ達にとってはちょうど良さそうなところだった。
「いらっしゃい!2人だね!奥の席に入りな!」
恰幅の良いおばちゃんが厨房から声を張り、周りの客たちの声に負けないように案内をしてくれる。
コウとライラは奥の席へと移動して席につく。
机の上に開いてあったメニューを眺めてみると書いている文字は理解できるのだがどれがおすすめかはわからない。
「またせたね!注文は何だい?」
先程まで厨房にいたおばちゃんが気配もなくいつの間にかコウ達の席の前にきていた。
「おぉ...気配を感じなかった...。じゃなくてどれがおすすめなんだ?」
「そうだねぇ...全部おすすめなんだけどよく頼まれるのは今日の日替わり夕食ってのが人気だわね!」
「じゃあそれを2つと果物はあるか?」
「果物ならあるよ!じゃあすぐ作ってくるからちょっとだけ待ってな!」
そう言い残すとおばちゃんはすぐに厨房へと戻っていく。
机の上にはいつの間にか水が置かれており、飲んでみると温く感じる。
まぁ普通の店には冷たい水などを置いているわけでもないのでこれが普通なのだろう。
暫くライラと話しながら料理が来るまで雑談を楽しんでいると1人冒険者の身なりをした中年の男が近づいてきた。
どうやら酒をかなり飲んでいるらしくアルコールの臭いがぷんぷんと男から臭ってくる。
「おいおい!ガキがこんな極上の女を連れてやがる...悪いことは言わねぇが俺に譲りな!いい思いをさせてやるぜぇ?」
声を大きく張り、ライラに手を伸ばそうとしていたのでコウはすぐに席を立ち男の腕を掴み止めた。
「...絡まれるのは久々だな」
「あぁん?ガキが調子こくなよ?俺は明日からCランク昇格戦受ける男だぞ?」
「だからどうした?食事前の運動だ...表に出ろ」
一部の冒険者はコウという存在を知っているのか絡んだ男を可哀想な目で見ているのだが男は頭に血が上っているのか周囲の目には気づかない。
「おもしれぇ...教育してやる...」
男は唸りながら呟き店の外へと出ていくのでコウも料理が来るまでの運動として店の外へと出ていくのであった...。
ここまで見てくださってありがとうございます!
そしてブクマや星やハートをくださる方もいつもありがとうございますm(_ _)m
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