第101話

 ここは西門。この場所の防衛を担当し、指揮をするのは白薔薇騎士団の団長イザベルだ。


 目の前には既にゴブリンの約500匹の大群が見えており、迎え撃つため冒険者や自身の団員を横に大きく広げ、陣形を展開していく。


 そして中には白薔薇騎士団の1番隊隊長つまりはコウに絡んだことのあるエリスや副団長のジュディは中央に立っているイザベルを守るように陣形を組んでいた。


 そしてジュディは普段、背中に背負っている大盾を構えているのが見える。


「では投石機部隊!投石開始!」


 イザベルは手元に小さな黒い石を持っており、それに向かって声を出すと拡声器の様に声が周囲に響き渡る。


 城壁の上にいる投石部隊はイザベルの声を聞くと、目の前まで来ていたゴブリンの大群に向かって投石を開始し始めた。


 投石機は20機程もの数を揃えており、一斉に大きな石などが飛んでいく姿は中々な光景だろう。


 投石された大きな石はゴブリンの大群の中に着弾すると、その場にいたゴブリンは大きな石に押し潰され、更に石は転がり跳ねるのでどんどんとゴブリンを潰していく。


 威力は絶大で多くのゴブリンを轢き殺していくが、それでもゴブリン達の進軍は止まらず死んでいった者達を足で踏み砕きながら前へと進んでくる。


「次いきます!魔法部隊と弓矢部隊!攻撃開始!」


 本来ならば、何度も投石機を使いたいのだが大きな石の充填などは時間が掛かってしまうため次の攻撃へとイザベルは移していく。


 魔法部隊は少しだけ前に出て、弓矢部隊は投石機のある城壁の上から攻撃を開始し始める。


 勿論、こちらの攻撃も効果的なのか、弓矢部隊の攻撃や魔法部隊の様々な魔法のお陰で進軍してくるゴブリン達は数をどんどん減らしていった。


 しかし止まらずに進軍してくるためなのか既に目の前までゴブリン達は来ているのでこれ以上近くで弓矢や投石などで攻撃すると自軍に被弾してしまう可能性がある。


 ということなので残りの約半数以下まで減ったゴブリン達は接近戦で倒すことにし、イザベルは弓矢部隊などに指示出すと雨のように降っていた弓矢が止まりゴブリン達は好機だと感じたのか、近づいてくるスピードが上がっていく。


「ジュディ!大盾の加護を!」


 白薔薇騎士団の副団長であるジュディに向かってイザベルは指示を出すと、ジュディ頷き構えている大盾から光が溢れ全体の冒険者へと光のベールのようなものが包み込む。


 これは加護であり、効果としては身体能力の向上などだろうか。


「皆さん!二人一組でお互いをカバーし合うようにゴブリンとの戦闘でお願いします!」


 イザベルの指示に従うように二人一組となると、ゴブリン達は冒険者たちに牙を剥き襲いかかる。


 今回、救いがあるとすればゴブリン達には弓や剣、棍棒などの武器を持っているものは少なく殆どの攻撃方法が素手なので倒すのは簡単だ。


 寧ろ、この戦場に立っている冒険者はDランク以上であり、大盾の加護を貰っているためゴブリン程度なら問題ない。


 しかし人の体力は有限であり、長時間の戦いの疲れから不用意な一撃をゴブリン程度からで貰ってしまうかも知れないのだ。


 早くこの戦いを終わらせる為の手っ取り早い方法は、このゴブリン達を纏めている存在を倒すことである。

 

「早めにゴブリン達の指揮官を潰さないと...」


 現在、倒しているゴブリンは朝飯前の軽い運動のようなもので、何処かにメインである巨大な魔石から孵化した魔物がいるはずなのだ。


 イザベルは愛用のレイピアを変幻自在に振るいゴブリンを片手間に倒しつつ、周囲を見渡していく。


「見つけたっ!」


 そして"それ"はゴブリンの軍勢の中心部に存在し取り巻きに守られるような形で胡座をかき座っているのをイザベルは見つけた。


 見た目はそこらのゴブリンとは違い、普通のゴブリンは1m程の身長なのだが上位種ということなので倍の2mはあり、額からは血のように赤い角が生えている。


 皮膚の色は緑色ではなく黒色へと変わっており、筋肉質な肉体だ。


 そして一般的な男性の胴体ほどの太さのある1m程度の大きな棍棒を片手で支え、地面へと突き刺すように置いていた。


 イザベルは目的の相手のいる中心部へと走り出し、ゴブリン達を豆腐のように切り捨てながら進んでく。


 中心部にいる上位種のゴブリンの前へと辿り着くと、ゴブリンの上位種は値踏みをするかのようにイザベルへと視線を向けた。


「良い見た目の人間だナ...飼うカ」


 イザベルの事を頭のてっぺんから爪先まで舐めるように視線を這わせた後、流暢な人語で喋りだす。


 そして出た言葉はイザベルをまるでペットのように飼うという発言だった。


「ん~中々人語を喋れるということは最上位種でしょうか?」


 ゴブリンの発言を無視するようにイザベルは目の前の大きなゴブリンを観察しながら考察していくと無視されたのが気に食わなかったのだろうか。


 胡座をかきながらゴブリンは片手で支えている大きな棍棒で目の前のイザベルに向かって、かなりの速度で振り下ろすと地面が大きく揺れ、振り下ろした場所は砂埃が舞う。


 しかしゴブリンの顔は苦虫を噛み潰したような顔をする。


 舞っていた砂埃が落ち、棍棒を振り下ろした場所の視界が晴れていくとそこには無傷のイザベルが立っていた。


「人が考え事をしている最中に攻撃とは野蛮ですね。ではさっさとこの戦いを終わらせましょうか」


「戦いを終わらせル?人間如きが舐めるナ!」


 最上位種であるゴブリンは再びイザベルに向かって大きな棍棒を振り下ろすと今度は地面に当たる前に大きな棍棒はバラバラになっていく。


 イザベルの周囲には薄っすらと気流のようなものが見え、それのせいで棍棒はバラバラになってしまったのだろう。


 そしてイザベルはレイピアを構えると同時にその場から消え、残ったのは舞い上がった砂埃だけであり、最上位種のゴブリンの背後にいつの間にかイザベルは移動していた。


 持っているレイピアを腰についているホルダーへと仕舞うと上位種のゴブリンの身体の五つの部分、つまりは頭、両腕、両足が胴体からずるりと離れていく。


「私の二つ名は疾風と言いまして速さには自信があるんです。では...永遠の眠りへとさようなら」


 周囲のゴブリンは自分達の指揮官がやられてしまったのに動揺し、全体の動きが鈍くなっていってしまい一部のゴブリンは敗走状態だ。


 冒険者達はその絶好のチャンスを見逃すわけもなく、追撃しゴブリンを1匹残らず狩っていく。


「ふぅ...こちらはもう大丈夫ですね。他の場所は大丈夫でしょうか?」


 イザベルは西門の防衛に成功したことにより一息つくと他の門の防衛を心配するのであった...。



ここまで見てくださってありがとうございます!


そしてブクマや星やハートをくださる方もいつもありがとうございますm(_ _)m

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