第81話

 女性に「住んでいる場所に泊まりに来る?」などと言われれば少しは甘いことを期待してしまうのが男の性だ。


 コウも例外ではないし勿論、誘われた時は嬉しかった...ただ誘われた相手が問題である。


 誘われた相手はライラであり、見た目は確かにかなり良い。


 金色のサラサラとした髪にスッと伸びた鼻筋、聖女と言われても遜色のない見た目であって誘われたら誰もが喜ぶだろう...しかしライラだ。


 少しだけだが今まで一緒に旅をしてきた結果、ライラは残念美人だということがわかっている。


 そして今までの行動から察するにどうせ碌な事にはならないだろうなと思っていたが、推測は見事に当たってしまう。


「やっぱりこんな事だろうと思った」


 コウの周りには保育園児から小学生低学年ほどの大きさの子供たちがキャッキャと遊んでいた。


 そう、ここは孤児院...恵まれなかったり親に捨てられたりした子供たちを集め養護するための施設だ。


 ねぇー遊ぼうよー。

 お兄ちゃん冒険者って本当なの?

 鳥さんかわいいね!

 このじゃらじゃらしたものってなーにー?


 やいのやいの小さい子供たちがライラが連れてきたという珍しい来訪者のコウへと群がり四方八方から声が聞こえてくる。


 コウは聖徳太子ではないので何人もの声を聞き分けれるわけないのだ。


 そしてフェニは子供たちに色々と絡まれるのが嫌だったのかいつの間にかコウの肩から子供が届かないような高い棚の上へと移動し避難していた。


 薄情者め!とコウは思いつつも子供たちを相手する...まるでこれでは保父さんだ。


「どうですか~?賑やかで良いところですよ~」


 ライラも子供達に人気があるのか色々と遊び相手しながらも話しかけてきた。


 別に悪くはない...賑やかなのも悪くはないのだが、女性に誘われて少しでも何かに期待した自身が憎らしい。


「すいません...冒険者様...」


 ライラの後ろから1人50歳ぐらいの男性が現れコウへと謝罪してくる。


 見た目は神父が着るような服を着こなしているのでライラと同じく神を信仰している者だろう。


 ライラと違って常識のありそうな人のためコウは心のオアシスを見つけたような気分となった。


 適当に子供をあしらいつつ、コウはその場から離れ神父の側へと避難していく。


「本当にすみません...子供たちには後で言っておきますので...」


「いや...まぁたまには子供の相手も悪くないかな」


 何度もヘコヘコと頭を下げ謝る神父にコウは気の毒に思い、多少なりともフォローを入れているとライラが近くに寄ってくる。


「ディード神父~そういえば前ここにいたリファ君はどこいったんですか~?」


「リファ君なら養子として引き取られていったよ。きっと幸せになるだろうね」


 どうやら前までここで育てられていた男の子がつい最近、養子として引き取られていったようだ。


 ライラは子供が養子として引き取られたことに少し寂しそうな顔をするがすぐに「子供が幸せなら良いことですね」と言い気持ちを切り替えたようだ。


「そういえば冒険者様はここに泊まられるということでよろしかったでしょうか?」


「あぁ1日だけ世話になる」


「でしたら2階の一室が空いていますので...ライラさん案内してあげて下さい」


 コウとしては1日だけ泊まって明日は朝から聖都シュレアを観光した後に馬車でも探してローランへと帰ろうと考えていた。


「では~コウさん案内しますね~」


 2階へ階段を登ると結構な数の部屋がありライラに付いていくと角の一室へと案内された。


 部屋の中を見てみるとベットとテーブルや椅子などしか置いていない質素な部屋となっており窓も小さな小窓1つだけだ。


 小窓からは孤児院の入り口が付近がよく見え、外ではまだ子供たちが遊んでいる。


「ん、ライラありがとうな」


「いえいえ~こちらこそ~コウさんは命の恩人ですからね~!」


「気にするな。またなんかあったら助けてやるよ」


 ライラと出会ってからほんの数日だが、明日には別れてしまうのは少しだけ寂しくもあった。


「そういえば夕食はどうされますか~?みんなで食べますか~?」


 どうやら孤児院の子供たちと一緒に食べるかどうかのお誘いらしいく、特に断るような理由もないためコウは頷き了承する。


 たまには大勢で食べるのも悪くないだろうか。


「ただ孤児院なので~あまり期待はしないで下さいね~」


 ライラはそう言い残すと扉を閉めライラのパタパタとした足音がし遠ざかっていく。


 コウは近くにあるベットに横になると夕食まで少しだけ眼をつぶることにしたのであった...。


 夕食も食べ終わり子供たちやコウも寝る時間帯となっていて孤児院は静けさに包まれていた。


 といってもコウは少しだけ夕食前に仮眠をしたためかあまり眠たくはない。


 何となく部屋の小窓から外を眺めていると孤児院の入り口付近に人影が見えた。


 今日、出会ったディード神父であり夜の為暗くあまり鮮明には見えないが何かを抱えているようでそのまま孤児院を出ていってしまう。


 次に孤児院の入り口付近に見えたのがライラの姿であり、ライラもディード神父の後をつけるように闇の中へと消えていく。


 そして次の日の朝、コウはライラに最後のあいさつを済ませ別れを告げようとするが孤児院の何処を探してもライラの姿は見つからなかった...。



ここまで見てくださってありがとうございますm(_ _)m

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