第15話

 文字の勉強を始めて1週間ぐらい立った頃だろうかコウもこれくらいの文字を覚えるぐらいは1週間もあれば余裕だった。


「ふむ...文字を覚えるの案外早かったね前の世界での教養がそれなりにあったからなのかな?」


 それもそうだコウは元々高校生だったのでそれなりの教養はあり、本人は自覚していないがそこまで頭自体は悪くはなかった。


 普段からまともに勉強すればそれなりに勉強はできたはずだろう。


「文字も覚えたことだしもうここ以外でもなんとか生きていけそうだね」


 確かにハイドの言う通りわざわざこの死の森などという危険な場所で生きなくても安全な街などで生きていけるだろう。


 文字を覚えればある程度の仕事は見つかるし、コウは元々高校生でもあったため商人見習いなどにでもなれば計算などもできるため重宝されるはずだ。


「あぁそうだコウは冒険者になりたかったんだよね?だったらまだあれを教えてなかったなぁ」


 ハイドは思い出したかのように呟く。


「あれってなんだ?まだ教わっていないことってあったか?」


 コウは気になりハイドに聞いてみるが一切答えてくれずヒミツだと言われる。


 一体何なのだろうか?色々と考えてみるが思いつかない。戦闘面には既にみっちり教えてもらい教養もバッチリなのだから。


「うーんとりあえず今日から準備するから5日後にでもやろうかまぁその間はゆっくりしていると良いよ」


 5日後に何をやるのか。ハイドなりの考えがあるだろうし多少なりとも真剣な表情をしていたのできっと冒険者になるためには大事なことなのだろうとそんな事を考えながら自分の家の中に入っていくのであった。


 あれから準備すると言われて5日が経つ。


 その間のコウは特に遊べるような物や事もなかったため魔法の練習をしたり、まだ読んでいない本を読んだりして暇をつぶしていた。


 ハイドは準備すると言った5日前から出掛けており、準備ができたら適当に呼ぶと言っていた。


 コンコンと自分の部屋のドアを軽くノックする音が聞こえてくるどうやらハイドが帰ってきたらしい。


「5日ぶりだね。準備ができたからご飯食べたり準備ができたら庭に出てきてほしい」


 準備ができたら庭に出てきてほしいと言われてベッドで横になっていたコウは重い体を起こす。


 昼ぐらいだたっため食事などを済まし外に出るとそこには異様な光景が広がっていた。


「なんだよこれ」


 目の前には角の生えた兎、汚らしい緑色の小鬼、40代くらいの男性が鎖で繋がれており、地面の上に転がされていた。


 兎と小鬼は暇つぶしで見ていた本で見たことがある。


 俗に言う魔物であり、兎はホーンラビットで汚らしい子鬼がゴブリンだ。


 ホーンラビットとゴブリンは前足と後ろ足を鎖で繋がれており、それなりにぐったりした状態で男性は追加で猿轡もされている。


「まぁそんな反応になるよね。今から教えることが冒険者になるためには必須になることだ簡単に言えば殺しを覚えてもらう」


(この男は今なんて言った?殺しを覚えてもらう?)


 冒険者になるということは魔物を殺したり盗賊などを殺したりすることもあるため殺しを覚えるのは当たり前だが、コウは虫ぐらいなら殺したことはあるけども動物などは殺したことがない。


 実際殺すとなるとかなりの抵抗感があるだろう。


「さぁホーンラビットから殺していこうか武器はそこに置いてある長剣で殺すと良い」


 隣においてある長剣を見るが全く殺す気が起きないが冒険者になるには殺していくことを当たり前にしないといけない。


 その場で色々なことを考えているとハイドがため息を付きながらこちらに歩いてくる。


「はぁ...そんなことじゃ冒険者にはなれないよ?少し手伝ってあげよう」


 地面に置いてある長剣を拾いコウの後ろに立つとコウの手に長剣を持たせ支えるような形になった。


「無駄な殺しはしたくないんだが?」


 既に無抵抗な状態のホーンラビットやゴブリンを見ながらハイドに言う。


「そんなこといわれてもねぇ...コウは実際の戦闘のときに相手を殺せるかい?無理だろう?だからここで覚えるんだ」


 ハイドから言われたことに何も言い返せないコウは黙ってしまった。


 確かに実際の戦闘では今までの模擬戦などとは違いお互い本気の殺し合いのために降参などは通じないし降参したということは死に繋がるだけだ。


「私はねコウに死んでほしくないんだ。これは私の我儘なんだ殺しを覚えるのは嫌だろうが許してくれ」


 そんな事を話していたらいつの間にかホーンラビットの前へジリジリと移動させられていた。


 ハイドに後ろから長剣を無理やり持たされホーンラビットへ長剣を振られる。


 長剣はホーンラビットの首筋に振られ吸い込まれるように入っていき、肉を切り裂き骨を砕く最悪な感触が手に伝わってきて顔が歪む。


「よし、次はゴブリンを殺すよ」


 隣に転がされているゴブリンに向かって同じように長剣が振られ先程と同じような感触が手に伝わってきた。


 ホーンラビットを殺したときと違ったことと言えばゴブリンに長剣が当たった瞬間にギャッ!っと鳴いたという事だろう。


 血の匂いや臓物の匂いが辺り一面に充満し先程、殺した2匹の感触が手に残っているせいかかなり吐き気を催す。


「吐かないでくれよ?最後に残ったこの人間だがこいつは盗賊だ。何人も商人を殺し悪事を働いていた悪人だから容赦しないで良い」


 盗賊と言われても同じ人だ。


 目の前の盗賊も殺されたくないのか猿轡をされているせいかモゴモゴと声を出しながら目に涙をためている。


 躊躇なくもう一度長剣を盗賊の首筋に振られ盗賊の頭が足元に転がってくる。


 転がってきた盗賊の顔を見ると瞳孔が完全に開き目から徐々に光が失ってくのがわかり、本当に死にたくなかったのか涙が溢れた跡があった。


 また切り離された首からは首の骨の断面が顔を覗かせ血が溢れてきており、壊れた蛇口のようになって地面を赤く染めていくのが見えた。


 ハイドがコウの手を握る力を緩めてくれたおかげですぐその場から離れ血や臓物の匂いがしない場所へ移動する。


「おえっ...うっ...」


 離れた場所でコウは先程、食べたご飯を全て吐き出してしまう。


 当たり前だろう...今まで虫しか殺した事が無い人が自分の意志ではないが人を殺してしまったのだ。


 けほっけほっと咽せ涙目になっているとハイドが近寄ってきた。


「どうかな?魔物や人を殺した感触は?冒険者になるという事はこれが当たり前なんだ。まぁ気分は良くないだろうから部屋で休むと良い」


 ハイドの言うことは正しいのだ。冒険者になるという事は魔物や盗賊を殺すのが当たり前になるからだ。


 コウは自分の魔法で水を作り出すと口に含んで口の中に残っていた吐瀉物をすすいで綺麗にする。


「今まで生きてきた中で一番最悪の気分だ」


 そう言いながら今まで感じたことのない不快感を胸に自分の部屋に戻るのであった...。




ここまで見てくださってありがとうございますm(_ _)m

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