第3話

 壁一面は木材で作られた小さな窓が一つある部屋に、1人の少年が清潔そうな真っ白の服を着させられてベッドの上で寝かされていた。


 ベッドの素材もしっかりとした木材で出来ており、シーツはフワフワとした羽毛で雲のように大きく、少年はそんなシーツの中へと沈み込んでいるため、とても柔らかな素材で出来ているのだろうと思われる。


「んぁ...?」


 そして少年は拳を握り目をごしごしと擦りながら深い眠りから覚め、口からは少しだけ涎が垂れていたのに気づいたのか腕の服で拭う。


 寝ぼけた目で周りを見る。普段、日本では見ないような木材で出来た部屋となっており、テレビなどの電子機器が一切置かれておらず質素なものであった。


 窓は木の扉で閉められているため外は見えないのだが、小さな隙間からは薄っすら光が漏れているので、夜ではないことが分かる。


(どこだここ?知らない島に流されて誰かに助けられたのか)


 ベッドの近くには机があり、水差しや食べかけのパンなど生活感がある物が置いてあるのが見えたので、きっと誰かが生活しているのだろうということが推測できる。


 とはいえ誰かいるような気配はしない。


(今は誰もいないのか?少し探すか)


 ベッドの下には革で出来た靴が置いてあり、履いてみるとピッタリのサイズになっているので、もしかしたら自分用に用意されたものなのだろうか。


 日本人としては家の中を靴を履いて歩くのは抵抗があるのだが、郷に入っては郷に従えという言葉が日本にはあるので、この家の中では靴を履くのが正しいのかもしれない。


 靴下が無いため靴ずれを起こしてしまいそうであり、履き心地が悪いがそこは我慢しながら歩くしか無い。


 キィ...と金具の鳴る部屋の扉を開くと、目の前はちょっとした廊下となっており、左手にはもう1つの部屋があって奥には下へ降りるための階段があるのが見えた。


 足を一歩づつ動かし、壁伝いに歩いていくと階段までたどり着いたので、そのままゆっくり降りていくと、リビングのような部屋が見えてきた。


 少年はリビングの入口からチラリと中を覗き込む。


 すると暖炉には残火が残っており、近くの机の上には飲みかけのコップなども置いてあった。


 やはりここには誰かが生活しているようだ。


(さっきまで人がいたような感じだな)


 誰かが先程までいた痕跡を確認できたので、ここで待っていればきっと誰か帰ってくるだろう。


 もしかしたら家の外に助けてくれた誰かがいるかも知れないので、少し外も見ておくかと少年は思い、リビングの中へ一歩踏み出して奥にある外に続くであろう扉に向かって歩きだす。


 ふと部屋の隅にいびつな鏡が置いてあるのに気づき、少年は歪な鏡の前に立つと、ピタリと少年の身体の動きが止まった。


 そして目を見開きながら歪な鏡に映った人物をジッと凝視する。


「誰だ...?これ...」


 時が数分止まったような気がするぐらいの戸惑い。


 そして気づく。自分の身体に大幅な変化がある事を...青い髪に小学生よりは大きいが見た目年齢的には12~14歳ぐらいの中性的な美少年の様な見た目であった。


 今までの自身の姿とはあまりにもかけ離れすぎている。


「嘘だろ?見た目が前と違う...どうなってるんだ?俺は...」


 何が起きたのかわからない混乱状態に陥った少年は落ち着くように深呼吸をする。


「落ち着け...きっと俺を助けてくれた人が近くにいるはずだ。その人に話を聞こう」


 そう言いながら自分が落ち着くように言い聞かせる。 


 そして自身が元々向かおうと思っていた扉がキィ...と音を立てて開くとそこにはガラス越しで見た事のある男がこちらを見てにっこりと微笑む。


「◆◆◆◆、◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆」


 青い髪の男は鏡の前に立つ少年へと謎の言語で話しかけてきた。


「なんて言ったんだ?」


 急に話しかけられるが目の前の男が何を言っているのかはわからないし、聞いたこともない言語のためかつい聞き返してしまう。


 英語でもなく中国語でもない普段聞いたことのない発音。


 男も少年が言った言葉を理解できないようで、頭上にクエスチョンマークを浮かべながら首を傾げる。


 そして眼の前の男は思いついたように手をぽんと叩くと近くにある棚の引き出しの中から小さな青い水の雫の形をした宝石が装飾されたイヤリングと真っ黒なチョーカーを取り出してくる。


 そして男は少年の前に近づき屈むと、イヤリングを見せ耳につける手振りと首にチョーカーを付けるような身振り手振りをしてきた。


 少年はそのような物を付けたことはないのかわからないので、男は少年の代わりに割れ物に触れる家のように優しく耳にイヤリングをそして首にはチョーカーを取り付けていく。


 別に痛いことはされていないため、特に拒否することもなくされるがままの状態だ。


「ふむ...これで聞こえるかな?おはよう私の可愛い息子」


 相手の男の声がいつも聞き慣れた日本語で話しかけてきたため、少年はつい口を大きく開き、驚いてしまう。


「は...?さっきまで日本語じゃなかったじゃないか?もしかして日本語を喋れるのか?」


 男に向かって驚きながらも意思の疎通が可能になったのでついつい質問してしまう。


「ふむ..."日本語"という言語は知らないがお互いに意思疎通できるようになった理由は知っているよ。耳にイヤリングをそして首にチョーカーを付けただろう?それのおかげだよ」


 男は自分の耳と首を指先でとんとんと触り、更に説明を続けるように喋る。


「それは耳に付けることで相手の言ってることがわかる。チョーカーは喋る際に自分の言ってる事を共通語に変えてくれる便利なダンジョン産の魔道具だ。滅多に手に入らないし貴重なものだよ」


 耳にあるイヤリングと首にあるチョーカーを触りつつ、説明された多量の内容を頭の中で整理しようとするが上手く整理できず、コウはわけのわからない顔をする。


(何を言ってるんだ?魔道具?本当は日本語を喋れただけなんじゃないか?)


 表情がコロコロと変わっていく少年が面白いのか目の前の男はニコニコとした表情をしていた。


「いやそれよりなんで俺はこんな身体になったんだ?ここはどこなんだ?というか息子ってなんだ?」


 ニコニコとした表情の男に向かって現状を把握したいがために質問を連続で問いかけていく。


 自分の疑問を解消できるのは目の前の男しかいないため、質問が多くなるのはしょうが無い。


「質問が多いね。1つずつ答えよう...君は以前どこに住んでいたかは知らないが君の魂をその"身体"に入れさせて貰ったよ」


「2つ目の質問だがはここは死の森という場所だよ。場所は浅いが殆ど人が来ないんだ」


「3つ目は君は僕の息子ただそれだけだよ...。あぁ君の名前はコウという。覚えておくと良い」


 全ての質問にスラスラ答える男。


 コウと言われた少年はキョトンとした表情で男を見て、再び質問した内容と答えられた内容を組み合わせるように頭の中で整理整頓していく。


(この男はなんて言った?魂を身体に入れる?日本に死の森なんて無いぞ...?というか俺の父は...あれ?そもそも誰だっけ?)


 魂を身体に入れるなんて聞いたこともないし、まず日本では死の森なんて場所もないのである。


 そしてこの男は父ではないとはわかっているのだが、前の家族の顔も名前も何故か思い出そうとすると、頭にモヤが掛かるような感じがして思い出せない。


 また自分の前の名前も思い出せないのだ。記憶にあるのは以前、自分は高校生ぐらいであり、海の近くに住んでいたことや一般的な教養についてだろうか。


「混乱しているだろうね...私が作った身体へ完璧に定着するような魂を僕がダンジョンで偶々見つけた魔導書で君の魂を見つけ身体に定着させたんだよ」


「記憶も覚えている事と覚えてない事があるだろう...それは私が魔法使いとしてまだ未熟だからだ。すまないね」


 頭を掻き軽く謝りながら男はコウに言う。


 日本ではありえないような事を...。


「待て待て!俺は死んでお前が偶然にも俺の魂とか言うのを見つけてこの身体に入れたのか!?ありえない!大体死の森ってなんだ日本には無いぞ!」


 コウは自分の身体に手を起きつつも男に向かって今、起きていること全てを否定するかのように自分の中に溜まった感情をぶちまける。


「まぁ魔導書の力が死んだ魂を拾ってきたのかそれとも生きているうちに魂を抜き取ったのかはわからない。ダンジョンの魔導書はそういうものだからね」


 手を上げて首を横に振りまったく知らないといった感じだ。


「あと"日本"という場所は知らないがここはアルトマード王国の隅っこにある死の森だよ。さぁ質問は良いかい?とりあえずはご飯にしようか」


 男はコウに溜まった感情をぶちまけられてもまったく気にしてもいなく、むしろコウのほうが異常であり、おかしいみたいな感じだった。


 そして黙っていると男はある程度、質問が無くなったと思ったのかコウから離れてリビングの片隅にある台所の方向へと反転すると歩き向かうのであった...。



ここまで見てくださってありがとうございます!


そしてブクマや星やハートをくださる方もいつもありがとうございますm(_ _)m

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