第29話 畑と川の幸

 けもの道から車道へと幅を広げて、収穫小屋という宿屋?も出来た。

 川から引き込んだ養殖池も大きくなって、魚も食える大きさに育ってきた。


 これは皆を呼ぶしかないと思い、久太郎にお願いしてイワナ、ヤマメを相当数集めて貰った。他にも手長エビと沢蟹を集めたが、ウナギやナマズはもっと育てて数を増やしてからにしようと思う。


「コウ様、本日はお呼び下さりありがとうございます。」


 俺の前には風神様、雷神様を筆頭に犬神一族が整列している。

 右には小太郎が控えていて、左には雅が畏まっている。

 左端には少数の狐。派遣されて来ている九尾の一族が整列している。

 後ろの方には河童の久太郎の一族が集まっているが、整列という概念は無さそうだ。


 そして俺の後ろには、巨大なBBQコンロが並べられていて炭火でイワナ、ヤマメの塩焼きが香ばしい匂いを放っていた。


「今日は皆には道の拡張と養殖池を手伝って貰った礼をしようと思う。なんで俺が養殖池に拘ったのかが分かって貰えるはずだ。」


「「「「「はい!!」」」」」

 全員で声を揃えた良い返事だ。

 ただ、匂いに釣られて涎をダラダラ垂らしてるのは頂けないが…


「では、雷神様。」


「はっ!コウ様。では僭越ながら我が音頭を取らせていただく。乾杯!!」


「「「「「カンパイ!!」」」」」


 今日は生ビールサーバーを準備して見た。

 ジョッキはガラスだと割ってしまうだろうから、木のジョッキだ。

 だからジョッキを合わせた音が、カコンカコンと面白い音がしている。


 実はコレは各人で手作りして貰った。自分で作ったものなら見分けが付くだろうし、オリジナルの模様やデザインを進めた。

 大きさは不公平感が出ない様に、500mlまでとして、大きすぎるジョッキは却下したので、ほぼ同じくらいの大きさになっている。


 デザインはオーソドックスな円筒形から取っ手付きのジョッキ型、四角や楕円、ブーツジョッキを作ろうとした奴も居たが足先の部分が上手く彫れずに形だけブーツ型だったりする。これらは俺がこんな形のジョッキがあると教えたので、そこから野菜型だったり、ハイエース型だったりと個性的なジョッキを作っていた。

 中には売り物になりそうな仕上がりを見せる物もあり、作り溜めさせようかと思っている。


「旨い!!」


「うん。美味しい!」


 雷神様、風神様がイワナの塩焼きに齧り付いて感嘆の声を上げている。

 他の皆も口々に旨い美味いと言っていて、今までこんな旨い魚があの川に居たなんて知らなかった様だ。

 まぁ、川には河童も居たし、魚を捕るよりイノシシを狩った方が速いし食い出もあるから考えた事も無かっただろう。


 今回、魚の旨さを知って養殖池を増やそうとする話が既に飛び交っている。

 成熟した親魚を集めて、人工授精させて放流する事になるのも遠くない未来の話だ。



 給仕は狐たちが買って出てくれて、BBQ台の設置から魚の串打ちからの塩焼きと、ビールサーバーの扱いも中々熟れた手付きになっている。


 イワナの次はヤマメを塩焼きにして、並んで待つ人狼たちに配っていく。

 これもまた違う美味さだと盛り上がってビールが進む。


 久太郎を始めとして、河童たちも火を使ったことが無いので魚の塩焼きがこんなに美味いものかと涙ながらに感動していた。

 ただ、合間にキュウリやトマトを齧ってるのが河童だなぁって感じだ。

 サラダにした野菜も置いてあるのだが、さすがに人狼たちは生野菜には一切手を付けない。

 やっぱり狼です。


 俺と風神様、雷神様、小太郎、雅の5人でテーブルを囲み、次の料理に移っていく。


 狐たちに指示して、大鍋に油を注いで熱して行く。

 そう、ヤマメの天ぷらだ。他にもウドやタラの芽や野菜類も天ぷらにして行く。


「うおぉぉぉぉ!!!!」

 雷神様が吠えた!

 全員が静かになる。


「コウ様!!やはりあなたは神かっ!こんな美味いものが食えるとは!」


 雷神様が食ったのは、ヤマメの天ぷら。

 うん。これは美味いよね。風神様や雅も小太郎まで目が潤んでいる。

 天ぷらのサクッとした中にヤマメのふっくらした白身の旨味が最高だ。

 これを出汁をきかせた天つゆでいただく。


 天ぷらにしてから酒も変えた。

 焼いたイワナをお燗した酒に淹れた骨酒。

 これも犬神様たちはハマって風神様が吠えていた。



 野菜を食わない狼たちにも食わすべく、野菜の天ぷらを並べてみる。

 サツマイモやカボチャ、ナスも天ぷらに。ウドやタラの芽の山菜も天ぷらにすると狼たちにも大人気になった。

 他にもナスの合間に肉を挟んでみたり、ミニトマトの肉巻き焼きや単純に焼きナスに焼肉のたれやポン酢を掛けてみた。


 どれも取り合いになるくらいの人気を博しているが、ちゃんと狐たちも天ぷらを揚げる傍らで交代で食っているので大丈夫だろう。


 そして天ぷらから沢蟹の素揚げ、手長エビのから揚げと揚げ物が続く。


 締めには熱々のそばを出す。

 最後はサッパリとかけそばでも良し、天ぷらそばも良し。


 全員が満足してくれたようで俺も満足だ。

 九尾の皆も給仕と料理をありがとう。


「主?」


「コウ様?」


 ニヤニヤしてたら小太郎と雅が不思議そうな顔をしている。

 ドックフードで涎ダラダラだったのが人化して天ぷらそばを食べてるなんてと思ったら笑ってしまった。

 これからも美味い物を食わしてやろうと思う。

 九尾の呪いの事もあるしね。


「コウ様、この料理を九尾様に伝えても宜しいですか?」


「ああ。構わないぞ。他にも教えてやろう。」


「ありがたき幸せ。」


 片膝をついて人化した狐が畏まる。

 彼らから九尾へ美味いものが伝われば、その内にやって来るかも知れないな。



 この後、畑や養殖池が大幅に拡大され魚も野菜も収穫量が激増したのは言うまでもない。


 余談として、揚げ物の最後には河童たちの為にタガメやゲンゴロウが素揚げにされて大いに喜ばれた。そして昆虫養殖池も拡大されるのである。


 僕は遠慮しときます……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る