第4話 フェンリル

 段々と狼の遠吠えが近づいている。


「父様が来たかも~」


 小太郎が、いかにもヤバ気な感じで言うから、滅茶苦茶ビビッて車内から周囲を見渡してたら‥‥

 正面の茂みからデカい狼が出て来た。

 真っ白だが、炎のように赤いメッシュが入り鬣の様に首周辺の毛足が長く模様?が雷神様の様に、稲妻太鼓を纏ってるようだ。


 もう1頭、こちらもデカい‥‥どっちも体長3~4mはありそうだ。

 こちらは真っ白な体に雪の結晶の様な幾何学模様の青い模様があり、鬣の周囲には渦巻の様な模様がある。


 これ、完全に風神様と雷神様だよね?

 ちょっと冷静に観察していたら、大音量で怒られた。


「おらー!いつまで隠れておる!?さっさと出てこんか!?」


「は、はい!」


 小太郎が背筋ピーン!って感じで返事している。

 あの雷神様がお父さん?まさしく雷親父って感じかな?


 当の小太郎はガクブルして涙目でこちらを見ている。

 しょうがないなぁ。お前が一緒に居てくれるなら、精一杯守るぞ。


「小太郎、お前は両親の元に帰るか?それとも俺と一緒に居てくれるか?」


「も、もちろん、僕はご主人と一緒に居ます!」


「うん。そのセリフが聞けて良かった。俺も小太郎を精一杯守るからな。」



 運転席の扉を開けて、森の中に降り立つ。

 ここは異世界なのか??

 目の前にいる巨大な狼はともかく、周囲の植生は変わらないような気がする。


 森を観察していると雷神様の怒声が飛んでくる。

 シカトしてたら目の前に来ていた。

 おぉ!相手は4つ足なのに俺より視線が高いわ!黙って見上げてたら、横に吹っ飛んで行った。


「は?」

 何が起こった?

 目の前には風神様。

 こちらは伏せの体勢で、こちらに目線を合わせてくれた。


「初めまして。先ずはこちらのライがご無礼を働きました事をお詫びいたします。

 私は連添いのフウと申します。どうぞよろしくお願い致します。」


「ご丁寧にありがとうございます。私は、遊行寺功ゆぎょうじこうと申します。」


「ユギョウジコウ様ですか?」


「あ、ごめんなさい。名前がコウで家名がユギョウジです。」


 風神様は目を見開いて、家名持ち?と呟いている。

 うん。きっと勘違いしてるだろうが、ここで訂正しても信憑性がないから黙って置こう。悪い方向に行くなら訂正と言う事で。


 風神様は車内にいる小太郎を睨みつけて、

「我もさっさと出て来なさい。主様に先に出させるなんてそんな無礼な子に育てた覚えはありません!」


 あ!これ、やばい流れか?

 小太郎が怒られるなら庇おうかと思ってたが‥‥


「母様。僕は付いてゆく主を見付けました!」


「こちらに来て顔を見せなさい。」


 小太郎は風神様の元に歩いてゆく‥‥

 小太郎!怒られる??


「‥‥‥良い主様を見付けましたね。」


「はい。母様。あの、直ぐに帰らなくてゴメンナサイ。まだ主様との繋がりが絶対じゃ無かったんです。‥‥」


 風神様は黙って頷いている。

「そうですね。それでもよく帰って来てくれました。」


「はい!私の行いは大丈夫でしたか?」


「ええ。大丈夫ですよ?ただ、ちゃんと話すのですよ?」


「はい!分かりました。ありがとうございます。」


 雷神様は遠巻きにコチラを窺っている。

 先ほど風神様に飛ばされてバツが悪そうだ。




 それより?ん~~~~~~~っと?小太郎君?


「は、はひ!」


「俺に分かるように説明できるか?‥‥」


 今は風神様の部下(狼)に案内された樹の祠の中で状況説明を小太郎に求めている。


 ん~~?先ほどの話を統合すると、小太郎君は俺と一緒に居たいから帰りたくなかった訳じゃ無いね?‥‥どういう事なんだ?


「ご主人~一緒に居たかったのは本当だよ‥‥決して騙して来た訳じゃ無いよ?」


「騙すつもり有る無しでは無く、小太郎は嘘を付いたのか?‥‥だとしたら俺は悲しいぞ?」


 悲しい顔をする小太郎だが、どうして欲しいんだか分からない。


 小太郎の話では、危機から脱するのに転移したが帰るのに自分の魔力だけでは足りなかった。

 かと言って、あの世界では魔力を持ってる者も限られる。それに信用出来ない者にも頼れない。


 だから頼れる相手を探してたが、そんな相手はそうそう居ない。彷徨いてたら捕まって保護された。

 何となくそれが恥ずかしくて言えなかった。


 この世界に帰るためには、一緒じゃないと帰れない。かと言って、あの世界じゃ話せないから伝えられないし、理解して一緒に来てくれる人は‥‥


 だから騙す様だけど、無理矢理飛んでしまった。

 飛ぶ瞬間にゴブリンが出たのは偶然の事だった。


「そうか、それが俺だった訳か。う〜ん‥‥言ってくれれば‥‥って、話せなかったんだな。そうか‥‥ちょっと考えさせてくれ‥‥」




 翌朝、じゃあ無いな。まだ暗い明け方に騒々しい声で目が覚めた。

 なんだ?何が起きてる?

 よく見ると、熊の様な動物?と小太郎が戦っている。なんだ?あの熊?は?


 熊は3頭居て、小太郎は一人で戦っている。

 小太郎は満身創痍で、致命傷さえ無いものの一撃食らったらヤバそうな状態。

 意識が飛びそうなのか、ふら付く時がある。


 そこへ左から回り込んできた熊が爪を伸ばす!


「コタ!!左!」


 ハッとした小太郎は爪を躱す。

 その爪を伸ばした熊には、石を投げる。

 大したフォローにはならないと思いながら、小太郎に右だ!左だ!とフォローにならないフォローを出す。


 熊?の一頭を倒した。

 それを見た他の二頭は逃げ出してくれたので、

 ナントカ戦闘も終了した。


「ご主人~ゴメンね~。また迷惑掛けちゃった~。」


 満身創痍の血だらけで言うセリフじゃあ無い。

 思わず小太郎の頭をペシッと叩いた。


「ばかやろ!こんな時に言うセリフじゃない!小太郎は俺を守ってくれたんだろ?

 ゴメンね。なんてセリフじゃない!」


「ご主人~‥‥」


「こういう時は、ご無事ですか?無事ならご褒美下さいって言うもんだ。」


「あ!それ、ダメな奴ですよ~?」


「うるさい!小太郎!!今後もずっと俺を守れよ!?」


「はい!!‥‥ご主人~許してくれるんですかぁ?」


「小太郎‥‥ずっと一緒だって約束したろ?」


「うん。…うん。」


「だから、隠し事はすんなよ。俺の為と思っても隠したりすんな。今迄は言えなかったりしたが、これからは何でも言えよ。」


「うん、ご主人~ウッウッうっ‥‥‥」


 俺と小太郎は本当にここでパートナーになった気がする。

 小太郎に抱き着いてワシャワシャしてる時は気付かなかったが‥‥


 こいつ、満身創痍でフラフラだったんじゃ‥‥?


 あれ?既に全回復?あれ?

 なんか、上手く転がされてるカンジ?

 てへぺろ!って舌を出す小太郎って‥‥フェンリルだったんだな‥‥今さら?

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