やさしい風吹く小高い丘の木陰に寝そべりながら本を読んで過ごしたい

ケムリネコ

竜に睨まれたバッタ

 ごくごくありふれた部屋にテレビを睨みつける少年がいる。画面には、コマーシャルがさらさらと流れてくるが、虎視眈々と獲物の喉笛に食らいつく瞬間を伺う獣のような瞳には、一切コマーシャルは映っていない。

 ようやく一日千秋とも感じられる怒涛のコマーシャルが終わりを迎え、画面が切り替わった。


 画面に

 仮面戦士ワンツー

 と表示され、オープニングが始まった。


 彼は、日曜の朝九時に放送される『仮面戦士ワンツー』を見るのが好きだ。ワンツーは、ヒューマノイドを制作、販売する会社の社長が主人公で、秘書と共に、先代社長に託された『ワンツー』の力で敵と戦っている。


 もしワンツーの決め台詞は?なんて聞こうものなら、即座に『ワンツーフィニッシュで決めてやる。』と凛々しい顔をしながらポーズを決める姿を見られるだろう。


『仮面戦士』は、彼が生まれるずっと前から放送されている非常に息の長いシリーズだが、最近見始めたばかりだ。

 しかし、彼はワンツーを見る前は、このシリーズに興味がなかった。なかったは言いすぎだな、僅かに興味はあったが自ら手を伸ばすほどではなかった。


 自分の年代で見るようなものではないと、筆箱の隅の隅に追いやられ忘れた頃に現れる消しゴムの破片のように、狭く小さい価値観で決めつけていた。そんな彼がなぜ日曜の朝を楽しみにするようになったのかと言うと、ことは去年の九月に遡る。




 彼はすわるき監督の作品『スモークグラス』が好きだ。テン・キホードでコラボグッズの販売が始まったと耳にした少年は、遠路はるばるテン・キホードを訪れた。しかし、ここに来るのは初めてだ。そのため、どこに何があるのかさっぱりだった。


 迷宮のようにだだっ広い店内を彷徨っていた少年の目に留まったのが、玩具コーナーの一角に設置されたワンツー特集だ。小さなモニターにワンツーのあらすじが流れていたので、休憩がてら眺めていた少年の中で何かが変わった。


 なんだこれは。ずいぶんと凝った内容じゃあないか、と。


『スモークグラス』のコラボグッズを買ってテン・キホードを後にし、店内でのことを思い出しながら、電車に揺られ、バスに乗り、とぼとぼ歩いて帰路についた。


 後日、仮面戦士に詳しい友人に事の顛末を話すと、テンキで得られなかったあれこれを教えてくれた。いよいよ興味が膨らんだので、早速日曜の朝にテレビの前に構えてワンツーを見てみた。案の定面白かったので、そこから見ることにした次第だ。




『仮面戦士シリーズ』は他にも、フェーズ全話とトリプルを10話まで視聴している。内容を説明し出すとキリがないので省略させていただくが、どちらも彼のお気に入りである。

 他にも両の手で数えきれないほど未視聴の作品があり、未だに全てを見るには至っていない。それでもいずれは、と考えている。


 オープニングを背景に、持つべきはよき友人だな、なんて考えながら少年は今日もワンツーを見る。

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