第三章 魔の領主と大地の勇者
序章
雨だ。雨が窓を叩き、静寂の古城を騒がしくしている。その廊下を城主の少年が歩いている。
名はソロモン。アスレイド王国とフェデスツァート帝国の、国境の山に鎮座している古城に住み着く異世界からの来訪者だ。
その横には相方のヴィクトル。骸骨の顔を晒して動き回る、スケルトンアルファというアンデッドである。
いつものように石の床を歩いていると、何かに気がついて足を止めた。右腰の剣に手が伸びる。
「個人的な意見を述べますが、ご自慢の魔剣は抜かなくてもよいですよ」
採光用の大きなはめ殺しの窓、その枠の下の部分に腰掛けてこちらを見る人影が一つ。ターバンを巻いた褐色肌の若い男、何となく中東地域のイメージの服装だ。
「かつてソロモン王に使役されし悪魔が一人、『セーレ』だ」
「なんだ、サポーターか」
ソロモンは剣の柄から手を離した。
「個人的な意見を述べますが、中々の反応でした」
「そりゃどうも。それじゃ早速ヴィクトルの強化を頼むよ。今回の内容は?」
「その前に一つ、聞きたいことがある。こういう機会じゃないと直接話せないからね」
セーレは窓に背を預けてソロモンを見ている。
「何を聞きたい?」
「この世界に来てもうじき三ヶ月になる。この先、どうするつもりだ? 今後の戦略はどうする? ラグリッツ王国から帰ってきてから、随分悩んでいたようだが?」
「ああ……その事か」
俺がこの世界に来たのは元々コイツらの娯楽だ。見ているだけじゃつまらないんだろう。
「何とか費用を捻出して領地経営を始めるよ。俺は年単位の長期戦の構えなんでね。少しでも他のプレイヤーに対して有利な状況になるように、味方と資金を増やしていく」
「個人的な意見を述べますが、他のプレイヤーも同じ考えをすると敵も肥大化する上に、千日手になりかねないかと思うが?」
「それは俺も考えた。でも他のプレイヤー同士が争って数が減る事も考えられる。今は準備期間だよ。それに俺が居なくなってもこの世界は続いていくんだ。少しでも良い未来に繋がるように、この世界の人達の為に頑張るのも良いんじゃないか?」
セーレは少し口角を上げた。
「わかった。今後の活躍に期待している」
指を一回鳴らした。廊下に響くのと同時にヴィクトルが黒い霧に包まれる。その霧はすぐに晴れた。
「今回は耐久性の向上だ。つまり全身が硬くなったということだ」
「耐久性か。確かに頑丈さは大切だな」
ヴィクトルの見た目に変化は無い。鎧を着たいつもの姿で立っている。
「これで『スケルトンユプシロン』となった」
「あれ? 確かスケルトンアルファだったよな? ギリシャ文字だと次はベータじゃねぇのか?」
「個人的な意見を述べますが、ギリシャ文字で一番好きなのはユプシロンなので」
「好みで決めてんのかよ」
ソロモンの突っ込みに返事をする前にセーレは消えた。
「強化されたんなら何でもいいや」
ヴィクトルを見た。何度も頷いている。
再び二人は廊下を歩き出した。それから暫くして、魔法で動く通信機が来客を知らせる鐘の音を鳴らした。
応答すると相手は待っていた人物だった。
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