第18話 ソロモンが視たもの
視界が暗転した。石の壁、薄暗い通路、所々に灯り。靴が床を叩く音に、金属が擦れる微かな音が混じる。まるで自分がその場に居るかのようだ。
視界が横に動いた。鉄格子だ。その向こうに人がいる。一人や二人ではない。十人は居るだろう。
『やっと来ましたわね。女性を待たせるものではありませんよ』
鉄格子の向こうから話しかけられた。金髪の女性だ。手足を鎖で拘束されている。そこで視界が暗転した。
次は見慣れた部屋。ソロモンの城の一室だ。どうやらテーブルを挟んで若い男と向かい合って座っているらしい。テーブルの上には菓子折りが並んでいる。
『ホントに頼む。何処に頼んでも話にならなくてなぁ。本当に困ったらソロモンに頼ってみたらというから来たのだ。もう君しか頼れる人間がいない』
何かを懇願しているようだ。そこで視界が暗転した。
次は大きな湖の畔。柔らかそうな草の上に男が一人寝転んでいる。
『爺さん、仕事の依頼だよ』
『今日は閉店じゃあ。お引き取り願え』
『爺さん対応してくれよ。厄ネタを持ち込んできたんだよ』
男は起き上がってこちらを向いた。爺さんと呼ばれても不思議ではない、年相応の老け顔だ。そこで視界が暗転した。
次の視界に入ってきたのは自分の手。その上に緑色の石が乗っている。首を振り回して周りの様子を窺えば、戻ってきた事が分かる。
ソロモンは石をイレイネに返した後、両手で顔を覆った。
「視えたようですね。ヴィクトルさんも試してみますか?」
ヴィクトルは頷いて宝玉を受け取った。イレイネはソロモンが視た内容には一切触れる気は無いようだ。
「大丈夫ですか?」
優しく声を掛けるイレイネにソロモンは顔を手で覆ったまま頷いた。
ハッキリと視えた……。最初は女性で……檻だったのかあそこは。次は若い男で、俺に頼み事をする為に訪ねて来るみたいだ。三人目はあの爺さんだな……。多分俺が何かを依頼しに訪ねていったシーンじゃないかと思う。
かなりリアルだったな。動画の中に自分が入り込んだような感覚だったぞ。
俺が視たあの三人は間違いなく他のプレイヤーではないだろう。勝ち負けは別としても一人ぐらいは分かるかもと考えたんだけどなぁ。まさかこの間のミサチ以外のプレイヤーと会わないまま、ゲーム終了なんて結末なんじゃないだろうな……。
他に考えられる可能性は、他のプレイヤーの事が分からないように、ガルガヴァルが細工したとかかな。運営はゲームバランスをかなり気にしていたしな。
「そういえばヴィクトルは何か視えたか?」
疲れた顔で聞かれたヴィクトルは首を横に振って宝玉を返した。
「だろうな、そんな気はしてた」
同意するようにヴィクトルは首を縦に振った。
「俺達はこれで失礼します。宝玉の件は秘密にしますから安心して下さい。それでは」
立ち上がったソロモンにイレイネは、
「見たところ旅行者のようだけど、今夜は宿を取っているのかしら? 今は宿を取れないほど人が多いと聞いたのだけれど」
「いや野宿です」
「今晩はこちらに泊まっていきなさいな」
大変魅力的な提案だけど。
「ここは男子禁制ですよね。男の俺がいるのはあまり良くないでしょう。お気持ちだけで結構ですよ」
「一晩くらいなら大丈夫です。来客用の部屋がありますのでどうぞ」
「……ではお言葉に甘えて一晩だけ」
野宿は回避された。ベットに潜り込んだソロモンはすぐに眠りに落ちた。
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