第14話 潜入、ライノックス修道院(後編)
ここに押しかけてきた連中はガルガヴァルの宝玉なるものを探しているらしい。効率良く探そうとすればバラバラに動くと考えられる。この読みは的中しており連中は単独で動き回っていた。
幸運なことに彼等は防具を身に付けず、武器も殆ど所持していない。これ幸いにと、ソロモンは修道院を占拠している連中を各個撃破するべく行動を開始。
部屋中をひっくり返していた男を不意討ち、二階の階段付近で鉢合わせした男はヴィクトルと二人掛かりで殴り倒した。
三階で発見した下着ドロ二号の爺さんは容赦無く蹴り倒す。お金をくすねていたハゲは、ヴィクトルがシールドを構えてタックルし、転倒した所に追撃のボディプレスでノックアウト。
仲間だと勘違いして呑気に話しかけてきたデブには、ラリアットからの跳び蹴りをお見舞いした。修道院内を一通り調べて計十五人を縛り上げる。刃物で殺しにいかないだけマシかもしれないが容赦はない。
強引なやり方は俺も連中も同じなのかもしれんが、せめて一人でも多く肯定してくれる事を信じるだけだ。
彼等を攻撃する事に対してソロモンは抵抗が無くなっていた。少女の願いを大義名分にし、独りよがりかもしれない正義を言い訳に、実力行使を正当化しているからだ。
「リーダーと思われるヤツが見当たらない。他の修道女達もだ。居そうな場所に心当たりは?」
シアは少し考える素振りを見せて、
「隣に教会があります。この修道院の中に居なければ多分そこかもしれないです」
「よし、行こう」
シアの案内で渡り廊下を通り教会へ。灯りは付いているので中に誰か居るのは間違いない。修道女達が使う専用の入り口の前で一旦止まる。
ソロモンはドアを開ける前に張り付き、耳に神経を集中させて向こう側の様子を探る。
音は聞こえない。
「開けるぞ。シアは下がって」
シアは指示通りに、ヴィクトルは槍を握り直す。
ノブを回し、一拍おいてからなるべく音を立てないようにゆっくりと引く。頭だけ中に入れて様子を探る。
「誰もいない、連中は多分奥だ。ここからは俺とヴィクトルで行くからシアは何処かに隠れていてくれ」
「いいえ、私も行きます。皆の事が心配なのです。戦うことは出来ませんし、足手纏いなのは分かっています。けどどうか一緒に……」
胸の前で手を組み祈るようにお願いするシア。
苦手だなこの子。こんな感じで言われたら強く出られないよ。
「……分かった。危なくなったら真っ先に逃げるんだぞ? いいな?」
「はい!」
少女らしい明るい表情になったシアを背に、ソロモンは教会に踏み込んだ。
入ってすぐの廊下は左右に分かれている。正面の壁には絵画が一枚。青い地面に露出が多めのドレスを着た大人の女性が立っている絵。不思議な雰囲気にソロモンは思わず足を止めた。
「海の女神フラシル様の絵です。この教会の主祭神とさせて頂いているので、高名な画家の方に描いて頂いたそうです。ちなみにフラスダはフラシル様の古い呼び方なんですよ」
「まあ海が近いし海運業が盛んな所だからな。この世界、多神教で他にも神様が居るんだろう?」
「はい。ガルガヴァル様も神様の一体です。『影の神』と呼ばれる創造神で、この世界の設計図を創ったといわれています」
ソロモンは黒髪を掻いた。
「だとしたらさ、どうしてこの教会を探そうと連中は考えたんだろうね? ここの主祭神がフラシルなら関係なくないか? 神様のこととかあんまり知らなくてさ」
再び聞いてみる。少しでも情報が欲しい。
「神様はこの世界を創った七体の『創造神』と、その後に生まれた二体の『人界神』で九体います。教会は本来、九体の神様全員を祭っているものです。ですがその地に縁や関わりの深い神様を主祭神としていることがあります。ここではフラシル様ですね。創造神の一体です。主祭神が違うからといって、全く無関係という訳でもないのですが……」
「全ての神様をか……。なんとなく宗教観を把握したよ」
一神教で揉めるのだけは勘弁して欲しいが大丈夫そうかな。
「でもやっぱり俺は、ガルガヴァルを主祭神にしている教会を狙うものだと思うな」
「それは……」
シアはまた黙ってしまった。
「普通は主祭神に注目するものだ。だがそこが盲点という事がある」
右方向、廊下の向こうからの声。不意の声に身構えた。
薄手のロングコートを揺らしながら歩いてくる男が一人。胸元が開いていてインナーが見えており、袖は肘まで捲られている。
「通信機でいくら呼びかけても応答が無いから妙だと思ったんだ。こういうことだったのか」
ロングコートの男は右の掌を向けた。直後赤い光の玉が現れ、外に出るドアに向かって発射された。ドアには殆ど傷は付かなかったが、着弾点から熱波が広がっていく。
「きゃあ!?」
シアが悲鳴を上げ、本能的にソロモンの腰にしがみつく。
「攻撃魔法か!!? あっつ!?」
二発目が発射された。今度はソロモンの足下近くの床に着弾。
「動くなよ。今のは威嚇だ。妙なことをしたら次は直撃だぞ」
掌を向けたままロングコートの男は低い声で脅す。廊下の反対側から現れた荒くれ共と挟み撃ちになり、身動きが取れなくなった。
ミスったなこれは。
ソロモンは舌打ちした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます