第8話 国の姿

 フラスダに戻った時、太陽はまだ傾き始めてはいなかった。

 適当な飲食店で腹を満たしていると、店内で騒ぎが起きる。客同士の争いで言い合いになっているようだ。

 当然自分達は無関係なので遠目で様子を見ているが、彼等の言い分に思わず手が止まる。


「何が議会だ! 好き放題勝手なことを言って我等の王の邪魔をするだけじゃないか!」

「議会は国民の代表だ! 王が議会を無視して国民を軽視する政策ばかりするんだろうがよ!!」

 政治の話でヒートアップしているらしいな。この国、一般人まで政治的な対立が広がっているのか。

 最初は二人だけだったが、他の客も混ざり騒ぎは大きくなっていく。店員達が心底嫌そうなのは言うまでもない。

「いい加減にして欲しいわ……」

 女性店員が溜め息を漏らす。

「政治のことで揉めてるみたいだけどいつもこうなの?」

「ええ、いつもそうよ。ことあるごとに、議会を支持する人と王様を支持する人で揉めているのよ。……うんざりだわ」

 呆れ果てた表情の店員を含む店側のスタッフは全員止めようとしない。居合わせた客の中には、どちらかに加勢する者はいても止めようとする者はいない。

 十分ぐらい経った後兵士が店内に雪崩れ込んできた。元の世界で言えば『警察』の役割を持つ兵士達だ。誰が呼んだのかは分からないが、彼等は騒ぎを半ば力尽くで止めようとする。

 それは平和そうに見える国の現実。罵詈雑言が飛び交う店内、外に集まってきた野次馬達も一部が騒ぎ出す。


「お兄さん達は旅行者? だったら早くこの国を出た方がいいわ。町の外は魔物で溢れているから、フェデスツァート帝国行きの船に乗るのが一番よ」

「そうだね、前向きに検討してみるよ。ありがとう」

 お釣りはお姉さんが貰っておいてと代金を置いて店を出た。


 その後は日が沈み始めるまで町中を歩き回った。ラグリッツの命綱と呼ばれた貿易港フラスダの様子をこの目で見る為に。途中、色々な人に話を聞いて回り情報を集める。

 話しかけた人間の殆どがこの国の政治を話してくれた。今は政治的な対立が激化している話題で持ちきりだ。

 政治に関心がある人が多い、そう考えれば良い国民性なのかもな。でもそれは時に、政治に無関心な人が多い事より良くないのかもしれない。


 大声で非難を叫ぶデモ行進。言い合いの一線を越えて暴力沙汰を起こす民衆。治安維持を行う兵士達との衝突。

 彼等の言い分が事実かは分からない。両陣営で言っていることが全然違うし、この国に来てまだ二日の自分に真実など分かるはずもない。


 その日の夜、安い宿の一室。ベットに寝そべり天井を見ながら考えを纏めていた。

 ――同じだ、と思う。何故か、おかしいこととは感じない。

 元いた世界にもあった光景。気づけば当たり前になっていた事が、この世界の人間社会にもあったということ。違う点があるとすれば、魔法という力がケンカのレベルを簡単に超えてしまう武器に使われていることか。

 世界が違っても人間は同じ、つまりはそういうことなのだろう。

書き終わった報告の手紙を机に置いたまま、ソロモンは大あくびをした。身体的よりも精神的に疲れた一日、眠りに落ちるのに時間は掛からなかった。

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