第6話 ラグリッツ王国

 フラスダで宿を取り次の朝、届け先へ出発。ノインズ邸は隣の町にあるので馬車を手配しなければならないが、ここであることを思いつく。


 元の世界で言うところの『タクシー』の様な仕事を馬車でやっている人がいる。当然有料、彼等はそれで生活の糧を得ているのだ。

 隣町へ行く荷馬車の護衛役を引き受ければ、タダで移動できるしお金も手に入るから一石二鳥だぜ。護衛業の組合には入っているしな。


 運が良いことに丁度依頼が出ていた。運が悪いことに隣町に着くまで四回魔物と遭遇した。


 一時間の間に四連戦。大陸が違うと生息している魔物も違うようで、討伐に手こずってしまった。とはいえそれなりに魔物と交戦経験がある二人、初見の魔物相手でも同行者と馬車には指一本触れさせてはいない。

 契約通りの報酬を受け取り、ついでに依頼主からノインズ邸の場所を教えて貰う。

 移動しつつ金を稼げる護衛業はこういう依頼の時に有用だな。今後も積極的に活用することにしよう。


 汗を拭いながら教えて貰った道を歩き、目的のノインズ邸へ到着した。塀で囲まれた庭付きの一軒家。元の世界でもありそうなシンプルなデザインで、値段が高そうな二階建てだ。

 早いとこ届けたいが先客がいるみたいだな。

 門の前で二人の男が立っている。言い争っているのか時々怒鳴り声が聞こえてくる。

 多分どっちかが届ける相手のノインズさんだと思うがどうすっかな。


 肌身離さず持ち歩いていた届け物の箱を取り出す。凝った細工の飾り箱、気を遣って運んだので目立つ傷や汚れは見当たらない。

 少し時間が経つと男が一人離れていった。それを確認したソロモンはもう一方の男に近づいていく。

「すみません、ノインズさんですか?」

 屋敷に戻ろうとする男に早足で追い着き声を掛ける。男は明らかに不機嫌そうな顔で、

「そうだが何だ小僧? 私は忙しいんだ」

「お届け物です、どうぞ」

 すかさず預かった飾り箱を差し出す。

 取り込み中だったみたいだしさっさと渡してしまおう。


「また催促……ああ? 違うのか?」

 箱を見て表情が変わるノインズ。

「誰からだ?」

「依頼人はフェデスツァート帝国の貴族様からですが、俺は頼まれただけなので差出人がその貴族様かは分かりません」

 事実だ、嘘は言っていない。


「フェデスツァート帝国からか……こんな趣味の良い物を送ってくる知人が居たかな」

 不思議そうに箱を取ったノインズにソロモンは、

「渡した相手に、その場で開けて中を確認するように伝えてくれと言われています」

 小さく頷き箱を開けたノインズは中から手紙を取りだした。

 お仕事終了、引き上げよう。

「では俺は失礼します」

 踵を返して立ち去ろうとするソロモン。


「待ってくれ少年! 帝国から長旅疲れただろう? ちょっと休んでいきたまえよ」

 さっきと態度が百八十度変わったぞ。


「まーまー遠慮なさらずに! お連れの方もどうぞぞうぞ」

 断り切れずにお屋敷にお邪魔することにした。

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