第23話 気づき 

 怪力強盗女の特徴。年齢は二十代くらい。顔はブスで胸の大きさはやや小さい。髪型は黒いセミロング。瞳の色は黒。身長は標準的な成人女性の高さ。標準的な体型。

 服装は黒い服に黒いズボン。比較的裕福そうに見えるというが、マントと帽子は何処でも売っていそうな安物。

 武器の所持と防具らしき装備、魔法の使用は確認されず。怪力が魔法の類いの可能性は低いが、右手首の四角いアクセサリーが魔装具である可能性アリ。


 攻撃手段は格闘。蹴り技に要注意。細腕だが腕力が強く、足も速くて跳躍力も高い。戦い方は素人だが、経験の差が埋まるほどの身体能力があるという。

 襲撃の頻度は概ね三~四日に一度。最初に確認されたのは一月ほど前。単独犯。被害に遭った場所の分布から、縄張りは無く常に移動していると考えられる。

 奪っていく物は現金。宝石や骨董品の類いには殆ど手を付けない。金さえ渡しておけば積み荷を荒らされる事はほぼ無いが、護衛や反抗的な相手には容赦なく攻撃してくる。

 奪った金を使い果たしたら次の犯行に及ぶ、典型的な盗賊の行動パターン。


最初は何かが引っかかった気がした。次はある可能性が脳裏に浮かんだ。その可能性を検討すれば、驚くほど説明が付くことに気付く。

 確かめなければならない。酷い勘違いか、ただの偶然か、

 ソロモンは立ち止まった。目当ての馬車を少し離れた場所から伺う。その馬車は人を運ぶ旅客用で、屋根はあっても幌が無い風通しが良さそうな安物だ。元の世界でいうと小型のバスだ。


「例の強盗女を見つけたという事でいいのかしら?」

 追いついたセレニアが問う。ソロモンは馬車から目を離さずに、

「これから確かめに行く。セレニアさんとヴィクトルはここで待ってて」

 目当ての馬車へゆっくりと近づいていく。左手の腕時計を外してポケットに入れ、深呼吸をする。

 馬車には幾らかの荷物と共に数人が乗っていた。


「やあ、すいませんねぇ。時計を持っている人が居たらさぁ、今何時か教えてくれないかなぁ。そろそろこの馬車達が動き始める時間だと思うんだけどさぁ」

 できるだけ明るい性格の人間を演じ、手前の乗客の男に声をかける。ソロモンは最初から時間などどうでも良く、言い終わる前に視線を男から外す。隅の方で体育座りをしている乗客に目が留まった。


 多分アイツだと思うが、どうだ。


「俺は持っていないが、確かあそこの客が持っていたと思うが?」

 気のいい男が他の乗客に声を掛けてくれた。相手はソロモンがマークした乗客。

 その乗客は右手の袖を少し指で下げて、

「十四時五十分だけど」

 帽子を深々と被り顔はあまり見えないが声からして若い女性。

 目的を達したソロモンは短くお礼を言ってすぐにその場を離れた。

 直前で上手くいかないと思ったが、上手くいっちまったな。目論見通りだ。


 左利きなら右手に付ける。女性なら文字盤は手首の動脈側。あの手の動きは腕時計で時間を確かめる動きだった。

 この世界の時計は元の世界と同じだが小型化する技術がまだ無い。このサイズの腕時計は出回っていないから、持っているのはプレイヤーの可能性が高い。

 服はマントで隠れていたがチラッと見えた。女性用のビジネススーツだ。この世界ではまず見ない服装。


 元の世界の服が裕福そうに見えるのは経験で知っている。腕時計が情報にあった強盗女の右手のアクセサリーで、細腕なのに怪力はサポーターの特殊能力。多分『身体能力の強化』か。

 放り込まれたプレイヤーが孤立無援でどうしようも無なくなって、食料か食料を買う為の金を目当てに他者を襲った。金が尽きたらまた襲うを繰り返し、他のプレイヤーを探して移動している。


 情報と照らし合わせると説明がついてしまう。あの女は俺と同じ『プレイヤー』だ。そして件の怪力強盗女だ。その可能性は高い。

「結局どうだったの?」

 ちょっと不機嫌そうに聞くセレニアにソロモンは、

「例の怪力強盗女があの馬車に乗っている可能性が高い」

「ホントに!?」

「ああ、だが人違いの可能性はまだある。現行犯で押さえないとダメかも。あの馬車は俺達に着いてくる馬車だ。仕掛けるなら町の外に出てからにしよう。町中で暴れると不味い」

 ソロモンの意見にセレニアは同意する。先頭の馬車に戻った時には丁度出発する時間になっていた。


 町を出る先頭の馬車の御者席で情報共有をする。異世界サバイバルゲームの事は一切話さずにそれらしい女を見たと説明。

「その女、俺の因縁の相手かもしれないんだ。釣る方法は考えてある。任せてくれないか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る