サバイバー・ソロモン

オウルマン

第一章 異世界サバイバルゲーム

第1話 運命の日

「お前、土来定樹どらいさだきだな?」

「そうだけど……。誰だよ?」

 目の前に現れた燕尾服の男に聞き返した。

 見たことの無い男だ。

「人間には運命というものがある。そして今日が運命に出会う日だ」

 言い終わった直後に、燕尾服の男は指を鳴らした。音も無く周囲の景色が歪んでいく。


「大通りに居たのに……。何が起きた……?」

 祝日の昼間の喧噪が嘘のように消え去り、静寂が周囲を包み込んでいた。目の前には燕尾服の男が無表情で立っている。他に人は見当たらない。

「ここは……どこだ……?」

 煌びやかな光で室内を照らすシャンデリアが吊された天井を、複数の円形の石柱が支えている。柱には幾何学模様が描かれていて柱ごとに形が違う。床は顔が映る程の白い石材。

「私はナビゲーター。君は異世界サバイバルゲームの参加者に選ばれた」

「おい……。どういうことだよ……」

「キミは最高に運が良いからねぇ。最高の不運に当たったんだよ」

 背後から別の男の声。振り返るとそこに立っていたのは長身の男。灰色のマントに黒い王冠。服は黒い無地の上下。茶髪のロングヘアーに整ったカイゼル髭。

 誰だ? この中世ヨーロッパの王様みたいな格好のオジサンは?


「神様だとか悪魔だとか天使だとか。まあそんな連中の遊び道具にアンタは偶然選ばれてしまったのだよ」

「なんだって!? おい何の話だよ!?」

「人ならざる者達の娯楽だ。別の世界に人間を飛ばして、その人間がどうするのかを見物して楽しむ。それが異世界サバイバルゲームだ」

 ナビゲーターは眉一つ動かさず話す。

「ただ送り込むのは面白みに欠けるので、ルールを決めてゲーム方式にしたんだ。キミはその参加者の一人さ。覚悟を決めてくれないか?」

 王様風の男は子供を宥めるような声色で話す。

「何言っているのか分かんねぇよ!!」

 定樹の怒鳴り声が響いた。強く握った拳が小刻みに震える。  

「ではやる気を出すならどうすれば良いかな? 報酬に一生遊んで暮らせるだけの金を出すと言えば良いか? それとも君を脅迫すれば良いか? 家族や友人を人質に取る方がいいか?」

「何だよ……。アンタ達は一体なんなんだよ……」

 王族風の男は腕を組んで少し視線を上に向けて、

「ゲームの運営側かな。キミは一瞬で別の場所へ移動した。それは周りを見れば分かると思う。我々は普通では考えられない事が出来る存在だとまずは認識して欲しい」

 確かに瞬間移動したのは間違いなさそうだが。何なんだこいつらは。


「この世界とは異なる世界、所謂『異世界』に人を送りルールに則ったゲームを行う。それが我々の目的だ。キミは参加者に選ばれた。拒否権は無いんだ。なにしろ運営の大本は神様とかだからね」

「はあ!? 神様!? 冗談じゃ無いよ! 他の奴にしてくれよ!!」

「参加者の変更は認めない。辞退も認めない」

 ナビゲーターが即答する。定樹は口を半開きにして固まった。

 しばしの沈黙の後に王族風の男が、

「前向きにいこう。褒美は期待していいぞ」

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