第3章 砂漠の都と教団の影
第18話 旧友との再会 【h】
山賊騒動から数日。
屋敷に珍しく俺の客が来ていた。
「いやぁ!思ったより元気そうじゃないか!がはは!」
「⋯⋯久々に引くと頭に響くな⋯⋯お前の声」
対面で座る大男。そう、ダンテである。わざわざ俺に会いに辺境のこの地まで来てくれたのだ。
「本当は俺の方から行くべきだったんだろうけどな⋯⋯すまない」
「謝ることはない!お前の立場的に王都には行きづらいだろうしな!困った時はお互い様だ!」
「なんだお前イケメンかよ」
「それよりも」
真剣な顔で身を乗り出すダンテ。
「死神病とは本当か?手紙を見た時は目を疑ったぞ」
「⋯⋯本当だ。仲間の騎士の兄妹がそれで今の意識不明のようだ」
「ふうむ⋯⋯まさか、そうか⋯⋯」
「そこまで珍しい病なのか?」
「俺が生まれる前には数件発病があった。しかしここ100年ほどは1件もない。消え去ったと思ったんだがな⋯⋯」
「過去に発病例があるということは治療法もあるんじゃないのか?」
俺の問いかけにダンテは首を振る。
「それがこの病気の厄介なところだ。飛沫感染しない代わりに薬が効かん。観戦者は必ず殺す。名前の通り死神のような病だ」
「薬が効かない⋯⋯?でもソフィは進行を緩める薬があるって」
「な、何っ!?そんな薬あるのか!?」
よほど衝撃的だったのか、ダンテは勢いよく立ち上がり、顔を更に近づけてくる。
「あ、あぁ⋯⋯」
「嘘だろ⋯⋯そんな薬はないはずだぞ?⋯⋯誰かが作ったのか?」
凄い驚きようだ。
てっきり薬は医者に貰ったのだと思い込んでいた。
不治の病の対抗薬、そんな薬を作れそうな人⋯⋯。
頭に浮かんだのは髪の赤いあの人だった。
「⋯⋯ミステリアさんならあり得るかもな」
あとでソフィか本人に聞いてみよう。
「俺の方でももう少し調べてみるが、現時点で調べたことはこれにまとめておいたから後でそのお仲間に見せてやってくれ」
ダンテから一冊のノートが渡される。中にはぶっきらぼうな字で過去に起きた死神病についてまとめられていた。
「ありがとう、助かる」
「気にすることはない」
沈黙が流れる。だが居心地悪いものではない。付き合いが長いからこそ無理に話す必要はない。いわば信頼が作り出した沈黙だ。
「⋯⋯お前がいなくなって騎士団は変わってしまった」
ぽつりぽつりと巨漢の男が話し出す。
「折角王子が平民の積極登用を進めていらっしゃったのに、王子が昏睡状態に陥ってからは大臣と一部の貴族が幅を利かせるようになってな⋯⋯王宮内は淀んだ空気が円満してる」
「だがそろそろ王が遠征からお戻りになるんじゃ?」
「どうやら反乱の鎮圧は終わったものの、今度は魔物らしい。その影響で帰還が大幅に遅れるようだ」
「そうか⋯⋯」
「せめてもの救いはもうじきレイシャ王女の修行が終わること。あの方の存在が奴らの抑止力になればいいんだが⋯⋯」
溜息をつき、倒れこむダンテ。一見豪胆で細かいことは気にしなさそうな外見であるが彼自身は非常に繊細な男だ。色々気を遣っているのだろう。
「かー!お前がうらやましいぞ!ほんとっ!何が左遷だ!女だらけの騎士団なんて左遷先じゃない!栄転もいいとこだろ!変われ!」
「ちょっと見直しかけてた俺が馬鹿だった」
「で、お前の推しは誰だ?俺的はあのボインな金髪の女か?いや、銀髪の子も形が良かったな⋯⋯あの愛くるしい少女も捨てがたい。将来はでかくなると見た!」
「お、推し!?まだ俺はまだ⋯⋯というか皆をそんな目で見るなよ!このおっぱい魔人!」
「褒め言葉として受け取っとこう!⋯⋯お前だって話す時、見るだろ?胸」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「沈黙は肯定と捉えるぞ」
くそっ!言うしかないのか⋯⋯!でも黙っていれば俺までおっぱい魔人に⋯⋯!
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ほんの少しだけな。でも!すぐに顔見るし!普段は顔見て話すし!」
「⋯⋯」
「ダ、ダンテ?」
「⋯⋯類は友を呼ぶってよく言ったものね。変態の仲間はやっぱり変態か」
冷え冷えした声。ゆっくりと振り返ると、そこにはリンカが仁王立ちしていた。
「リ、リンカさん?これは違うんです、よ?」
「問答無用っ!死に晒せ!この変態っ!」
脳が揺れるほどの強烈な一撃。
意識を失う寸前に見たのは両手を合わせる親友の姿であった。
「⋯⋯エロスに尊い犠牲は付きものだ。悪く思うな、戦友よ」
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